生化学について理解したい-生化学概要-

目次

はじめに

生化学という用語を耳にしたことが無い方はいらっしゃらないと思います。

しかしながら、具体的にどういうことかわかっている方はあまり多くないと想像します。

「化学」に「生」とついているので、何となく生物に関係する化学なのかなと思われた方、するどいです。

一般に生化学というと生体内における化学反応を取り扱っている学術領域です。

今回は生化学について、生命科学系の学生が学ぶほど深い内容は行わず、概要だけご紹介させていただきます。

生物IIと資格試験(看護師や医師など)では若干問われるところかもしれません。ただ、例のごとくこちらのサイトは資格試験には対応していませんのであくまで読み物としてお楽しみ下さい。

化学反応とは

化学反応とは、A→B→Cのようにある化学物質が何らかの要因によって形を変えるもしくはエネルギーを放出するような現象です。

例えば、中学校のときに行った炭酸水素ナトリウムの熱分解の実験を思い出していただきたいです。

炭酸水素ナトリウム(NAHCO3)を加熱すると、炭酸ナトリウム(NA2CO3)と二酸化炭素(CO2)と水(H2O)が出来るわけですが、これを化学式で表した場合、左側と右側で同じ物質量であるという話がありましたね(質量保存の法則)。

生化学は、まさにこの化学反応の中でも特に生体内で生じるものを取り扱います。

それでは次に実際の生化学反応を見ていきましょう。

生化学反応の例-解糖系-

解糖系の全体像。グルコースから出発し、ピルビン酸を生成するところまでが解糖系。生成されたピルビン酸はミトコンドリア内に運ばれ、クエン酸回路および電子伝達系を通してATPの生成に利用される。解糖系においては①のヘキソキナーゼが律速酵素と呼ばれていて、ヘキソキナーゼの活性から解糖系が始まる。

生化学反応の中で最も有名なものの一つである解糖系を例に上げます。

解糖系では、グルコース(C6H12O6)からいくつかの化学反応を介してピルビン酸とATP、(NADH)を手に入れます。

グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)は真核生物のハウスキーピング遺伝子としてもよく知られています。ハウスキーピング遺伝子とは外的な刺激によってその発現量に変動が与えられない遺伝子です。

これらの反応はひとりでに行われるのではなく、生体内においては「酵素」と呼ばれる蛋白質を介して化学反応が行われることも重要です(図中では①-⑩で表現)。

解糖系においては、グルコースからグルコース6リン酸に変換する反応がこの系において最も重要であると言われていて、このステップを担う酵素がヘキソキナーゼです。

グルコースからグルコース6リン酸に変換と書きましたが、正しくはグルコースにリン酸を付与する反応です。最初は概念的に一つの物質が変換されていくと理解した方がわかりやすいのでは、という無駄な気遣いから「変換」という言葉を使ってみました。

グルコースからグルコース-6-リン酸が生成される過程は最も有名な生化学反応と言っても良いほど有名な反応。ATPのリン酸基一つを用いてヘキソキナーゼによってグルコースにリン酸基が付与される。

ピルビン酸が生成されるまで上の図だと9ステップ存在し、それぞれに酵素が存在して化学反応が介在されることになります。 
 
酵素は奥が深く、あまりに多くを学ぶと研究者向けの話になってしまいかねないので、基質と酵素の関係と反応速度に絞って説明することにします。

酵素とは

まず酵素は基質特異性と呼ばれる性質を持ちます。

例えば先程のヘキソキナーゼはグルコースを基質とする酵素ですが、言い換えるとグルコース以外を反応の対象としないというのがこの基質特異性の意味するところです。

「飲む酵素」などと目にしたときは、「基質は?」と問いかけるようにしたいところです。

この酵素と基質の関係は鍵と鍵穴の関係などと言われたりもします。



次に酵素において重要事項は反応速度です。

酵素の反応速度は酵素反応速度論などと分厚い本にまとめられたりするもので、非常に難解です。

生命科学系の学生が大学一年生のときに最も苦戦を強いられる分野でもあります。

要点だけ説明すると、まず酵素の反応速度は基質の濃度特異的に一次関数的に増加しないことが重要です。

むしろ、基質の濃度が一定高くなると飽和するような曲線をたどります。

この反応速度を表した式はミカエリス・メンテンの式と呼ばれ、生命科学領域で最も有名な式の1つです。

・酵素反応速度論の要点としては以下二つです。
1. 最大速度の半分の速度までは基質濃度に比例して速度が上がる
2. 最大速度の半分以上の速度になった場合、速度の上昇は飽和気味になる。

より細かくグラフを見ると下の図のミカエリス・メンテンの式のプロットのようになります。Vmax/2までは概ね基質濃度に比例してVmaxが上がっていくのがわかりますが、Vmax/2より反応速度が上昇すると基質濃度に対して比例して速度は上昇していません。生命科学系の学生でない限り式まで細かく押さえる必要はありませんが、式、グラフともに非常に有名なものなので、「こんなものもあったなぁ」くらいに見覚えがある程度にしていただいておくとどこかで役に立つかもしれません。

若干中二病もする名前なので、この文章を読まれた方はぜひ周囲の方にドヤっていただきたいです。

また、それぞれ酵素には最適な温度とpHが存在し、それぞれ至適温度至適pHと呼びます。

基本的に酵素の至適温度は37℃(体温)くらいで至適pHはpH7(中性)くらいです。それぞれ酵素ごとに異なるので、酵素について調べるときはその酵素の至適温度と至適pHにも少し意識を向けると、その酵素をより深く理解することが出来ます。

酵素のこれらの性質は知識事項として生命科学領域ではマストですし、近年酵素という言葉をよく耳にするので一般の方でも知っておいて損はない話であると思います。

・実際の研究ではある酵素の蛋白質構造を解析する際に、その酵素が問題なく活性を持っているか確かめる際の予備検討に利用されることがまず一つ上げられるでしょう。また、薬学系の研究では新規薬物を生成し、その薬物が酵素に対して何らかの影響を及ぼす場合、そのターゲットとなる基質-酵素反応に新規薬物がどのような影響を及ぼすかは確実に調査するでしょう。

おわりに

さて、いかがだったでしょうか。

勘の良い方は生化学が如何に広い学術領域か気付かれたのではないでしょうか。

この記事ではあまり触れませんでしたが、酵素は蛋白質なので本来その酵素の構造も生化学反応を知る上で重要な論点になりますし、

さらに近年では分子生物学的な知見も生化学を知る上で欠かせません

例えばヘキソキナーゼを例に取っても、ヘキソキナーゼは4つのアイソタイプが存在して、細胞組織によって発現するヘキソキナーゼが異なることが知られています。

つまり、一口に解糖系と言っても本当は細かく見ると組織ごとに多少異なった挙動をしているはずなのです。

このあたりの細かい話はまた解糖系を切り取ったり、他の色んな切り取り方をしてお届けしていきたいなと思います。

それでは、また次回をご期待下さい。

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