はじめに
RNAから翻訳された蛋白質は細胞内で修飾を受け、細胞内もしくは細胞外(体内)で活用されます。
蛋白質(タンパク質)はあまりに多くの機能を持ち、種類も存在するので今日に至っても多くが未解明です。
生命科学以外の世界に照準を絞ると、「蛋白質」と一般に話題に上がるときは食事の話題(栄養など)が多いです。
本記事では改めて「蛋白質」という言葉が生物学、生命科学領域の文脈において、どのように解釈されているかに迫ります。
蛋白質は構造、生体への機能、生理活性などあまりにも多くのジャンルを含んだ複合領域です。本記事では概要のみの取り扱いとなるので、さらっと流して図だけでも見ていただけると嬉しいです。

アミノ酸について
生物学、生命科学への入り口として、まず蛋白質はアミノ酸の集合であることを理解する必要があります。
アミノ酸の基本構造
アミノ酸とは、アミノ基(NH2)とカルボキシル基(COOH)を持っている有機化合物で、基本構造は以下の図のような構造をしています。
Rと書いてある部分が側鎖と呼ばれる領域で、側鎖部分に付与される分子によってアミノ酸は異なる名前がつけられます。

アミノ酸にはD体とL体と呼ばれる二種類が存在します(光学異性体)が、生体内には基本的にL体しか存在しないとされています。
20種類のアミノ酸
アミノ酸はR側鎖の箇所の違いによって、20種類存在します。例えば、アラニンやヒスチジン、メチオニン、トリプトファンなどがアミノ酸です。どこかで聞いたことがある方が多いと思います。
アミノ酸は一般に側鎖の性質によってさらに分類されます。
非極性側鎖、極性側鎖、荷電性側鎖のような感じです。
化学を学んできた方でないとなかなか理解しにくい分野かと思います。
そのため、本記事のアミノ酸の話としては「20種類存在する」「性質によって分類出来る」この二点を押さえていただけたらと思います。
※一つひとつのアミノ酸の解説はここでは行いません。

ちなみに、生命科学領域の学生であれば問答無用でこの20個のアミノ酸はいずれも性質とともに構造式ごと覚える必要があります。
蛋白質はこうした20種類のアミノ酸が様々な組み合わせで結合した物質(高分子化合物)です。
DNAやRNAが4種類の組み合わせから成ることに比べれば、蛋白質の20種類とは随分複雑なもので、それによって機能も複雑になってきます。
蛋白質の構造

蛋白質の一次構造
20種類のアミノ酸が連なって連続で結合されて蛋白質は形成されていき(ポリペプチド)、形成されたアミノ酸の並びをその蛋白質の一次構造と呼びます。
言い換えると、蛋白質の一次構造とは、その蛋白質のアミノ酸配列を意味するとも言えます。
蛋白質の二次構造
蛋白質はさらに溶媒の中ではαヘリックスやβシート呼ばれる構造を取ることも知られています。
これらは蛋白質の二次構造といい、基本的にどのような蛋白質であっても二次構造は必ず取ると言われています。
難しいことに、二次構造は生体内での機能・活性と直接的に大きく関わっているとされています。
例えば、βシート構造は「固い」構造であると知られていて、細胞に何らかの毒性を示したり、疎水性(水に溶けない性質)を示すことも多いです。
一次構造だけでは説明がつかない蛋白質の機能が二次構造によって説明される、というような関係性となっています。
・蛋白質の二次構造はアミノ酸配列から予測できることが多いです。
・二次構造以上の構造を取らない領域を含んでいる蛋白質を天然変性蛋白質(Intrinsically disordered protein/Natively unfolded protein)と呼びます。天然変性蛋白質は機能や溶媒中での挙動など研究段階のものが多いです。神経変性疾患に関わる蛋白質(α-シヌクレイン、タウなど)が天然変性蛋白質の一群であるとされていることも天然変性蛋白質が研究されている理由の一つです。
蛋白質の高次構造

さらにややこしいことに、蛋白質はより高次な構造も取ります。
βシートが重なりあったβバレルと呼ばれる構造や、他にも同じ蛋白質が複数連なって多量体を形成したり、やりたい放題です。
一般にこれらは蛋白質の三次構造、四次構造などと区別されますが、この用語はそこまで厳密に区別して覚える必要はないように思います。
ただ、押さえていただきたいことは、蛋白質の機能・活性はアミノ酸配列だけによらないということです。
・はじめに構造解析された蛋白質はミオグロビンと呼ばれる蛋白質で1958年にX線結晶構造解析という手法で実現されました。成功したケンドリュー博士とマックス・ペルーツ博士はその成果で1962年にノーベル賞を受賞しました。
・現在蛋白質の構造解析の手法はX線結晶構造解析、NMR、クライオ電子顕微鏡による構造解析の3つが知られています。それぞれ一長一短ですが、いずれも蛋白質の構造を語るには欠かせない手法です。どこかの機会で本サイトでも紹介させていただこうと思います。
蛋白質と生命科学の関わり

このように、蛋白質には構成する物質(アミノ酸)の多様性に加えて、構造にも多様性があり、蛋白質を理解しきるには人間の一生はあまりにも短すぎます。
加えて、蛋白質の合成は当然DNAやmRNAと関係しますし、蛋白質の機能となると、より生体と関連してきます。
構造だけに着目したとしても、アミノ酸同士の結合の話にもなるので、より化学と関連が深くなり、それらの解析には数学や顕微分光学、X線回折などの知見も必要になります。
その上、分析機器の話になると工学とも関係性が深くなります。
このように蛋白質は様々な領域を巻き込みながら、生命科学と関連していることがわかります。
冒頭で記載させていただいたように、本記事での内容はあくまで蛋白質関連の知識事項のはじめの一歩に過ぎません。
本記事が皆様の蛋白質に関する知見を深める一助となれたら嬉しく思います。
今後、蛋白質に関する記事を様々な角度から執筆していきたいと思います。
乞うご期待。