神経伝達物質を深く知る-ドーパミンを例に解説-

目次

はじめに

皆さんは神経伝達物質について耳にしたことがあるでしょうか。

神経伝達物質とは、神経間の情報伝達の鍵を握っている物質で、複数種類が知られています。

疾患とも大きく関わりがあり、神経伝達物質について知ることは生命体としてのヒトの理解を深めるだけでなく、医学的な意味合いも強くあります。

本記事では神経伝達物質とは何?というところから神経伝達物質の疾患との関わり、そして神経伝達物質の最新の研究について解き明かしていきたいと思います。

本記事は医学的な内容も含んでいますが、執筆者は医師ではなく、生命科学・神経科学系で博士号を所持しているだけですのでそちらご了承いただけたらと思います。

神経伝達物質とは

神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)は、私たちの脳や神経系で重要な役割を果たす化学物質のことを指します。

神経細胞(ニューロン)同士が情報を伝える際に使用されることから「神経」「伝達物質」という名称が用いられています。

脳や神経系は、私たちの感情、思考、行動などを制御しています。

これは複雑なネットワークで構成されており、情報は電気信号として神経細胞を伝わります。

しかし、神経細胞同士は直接接触するわけではなく、微小な隙間であるシナプスを介して通信を行います。

ここで神経伝達物質が重要な役割を果たすのです。

神経伝達物質はシナプス間隙(シナプスの間のスペース)を横断して伝達される化学物質で、受容体と呼ばれる別の神経細胞の表面に結合することで、情報の伝達を実現します。

神経伝達物質の種類は様々で、例えばセロトニン、ドーパミン、アセチルコリン、グルタミン酸などがあります。

それぞれが異なる機能と影響を持ちます。

神経伝達物質の2タイプ

神経伝達物質の働き方は、「興奮性」と「抑制性」の2つのタイプに分けられます。

興奮性の神経伝達物質は、神経細胞を刺激して活動を促進します。

一方、抑制性の神経伝達物質は神経細胞の活動を抑え、バランスを保つ役割を果たします。脳の正常な機能には、これらの神経伝達物質の適切なバランスが重要です。

神経伝達物質の異常は、さまざまな神経障害や精神障害の原因となることがあります。

例えば、パーキンソン病やうつ病などは、神経伝達物質のバランスが崩れることで引き起こされる可能性があります。

最近の研究では、神経伝達物質に関連する新たな発見や治療法の開発が進んでおり、神経科学はますます重要な分野となっています。

神経伝達物質タイプ機能
セロトニン興奮性快適な気分、睡眠、食欲、感情の調節などに関与
ドーパミン興奮性報酬、快感、運動、学習、意欲などの制御
アセチルコリン興奮性記憶、学習、筋肉の運動、注意、脳の機能などに関与
グルタミン酸興奮性脳の興奮を増強させる効果がある
ガバペンチン抑制性神経の興奮を抑え、痛みの軽減に寄与する
グリシン抑制性筋肉の制御や脊髄反射の調節に関与
GABA抑制性不安や緊張を緩和し、リラックスさせる効果がある
エンドルフィン興奮性・抑制性痛みの緩和や快楽をもたらす、体内の自然な鎮痛物質
代表的な神経伝達物質とそれぞれのタイプ(興奮性か抑制性か)と機能のまとめの表。

ここからは代表的な神経伝達物質であるドーパミンについて少し詳しくみていきましょう。

ドーパミンの働きについて

皆さんも普段生活していて、一度はドーパミンについて耳にしたことがあると思います。

「ドーパミンが分泌されている」

「ドーパミンを出したい」

などなど。

何かしら自身の「良い感情」と結びついた形で用いられることが多いですよね。

ここでは神経伝達物質の一つであるドーパミンの機能について取り扱っていきます。

ドーパミンの働きについて詳しく説明すると、以下のような特徴があります:

  1. 報酬系の制御:
    ドーパミンは、報酬系と呼ばれる脳の領域に重要な役割を果たします。報酬系は、快楽や報酬を感じるための神経回路で、ドーパミンはこの回路を刺激することで快感や報酬をもたらします。例えば、おいしい食べ物を食べる、好きな音楽を聴く、楽しい活動をするなど、楽しい経験をしたときにドーパミンが放出されることで、その経験をポジティブに感じることができます。
  2. 動機づけと学習:
    ドーパミンは、行動の動機づけや学習にも関与しています。特に、目標を達成したり、成功したときにドーパミンが放出されることで、その行動を再び行う動機づけとなります。これにより、私たちは報酬を求める行動や学習をする動機が生まれます。
  3. 運動制御:
    ドーパミンは運動制御にも関与しており、筋肉の動きや調整に影響を与えます。ドーパミンが適切に働かないと、運動のコントロールが乱れることがあります。特にパーキンソン病は、ドーパミンの減少が原因で運動障害が起こる病気の一つです。
  4. 注意と集中力:
    ドーパミンは、注意と集中力の維持にも関与しています。適切なドーパミンのバランスが、集中力や注意の向け方に影響を与えるとされています。

以上のように、ドーパミンは私たちの脳のさまざまな機能に関与しています。

そのため、ドーパミンの働きを理解することは、私たちの行動や感情、思考などを理解する上で重要な要素となります。

ドーパミンの生成と代謝について

ドーパミンは、私たちの体内でチロシンというアミノ酸から合成される神経伝達物質の一つです。以下に、ドーパミンの体内での生成経路及び代謝を説明します。

  1. チロシンの摂取:
    ドーパミンはまず、私たちが食事を通じて摂取するアミノ酸であるチロシンとして体内に取り込まれます。チロシンはタンパク質を構成するアミノ酸の一つで、食品中には肉や魚、乳製品、豆類、ナッツ類などに含まれています。
  2. ドーパを生成:
    チロシンは、酵素によって体内でドーパ(DOPA)という化合物に変換されます。この酵素には、チロシンヒドロキシラーゼ(Tyrosine Hydroxylase)という名前があります。ドーパは、ドーパミンの前駆体となる物質です。
  3. ドーパミンの生成:
    ドーパは再び別の酵素であるアミノ酸デカルボキシラーゼ(Aromatic L-amino acid decarboxylase)によってドーパミンに変換されます。この反応はカルボキシル基(COOH)の除去によって行われるため、ドーパがドーパミンに変わる過程でCO2が生成されます。
  4. ドーパミンの代謝:
    ドーパミンは一部が神経伝達物質として脳内で活動し、一部は再び別の酵素であるモノアミン酸化酵素(Monoamine Oxidase; MAO)によって代謝(分解)されます。MAOはドーパミンをノルアドレナリン(ノルエピネフリン)や3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)という化合物に変換します。

これらの過程によって、ドーパミンは体内で合成され、神経系において重要な役割を果たす神経伝達物質として機能します。

一方で、ドーパミンのバランスが崩れると、パーキンソン病や統合失調症などの神経障害が引き起こされることがあります。

ここからはドーパミンと疾患の関係において、最も有名なものの一つであるドーパミンとパーキンソン病の関係について簡単に説明していきます。

ドーパミンとパーキンソン病の関係について

パーキンソン病は、脳の特定の領域である「黒質」(Substantia Nigra)と呼ばれる部位の神経細胞が障害されることで引き起こされる神経変性疾患です。

この領域の神経細胞が損傷すると、ドーパミンの生産が減少し、運動の制御や調節が困難になります。

その結果、パーキンソン病患者は手足の震え(振戦)、筋肉のこわばり、動作の遅さ、姿勢の変化などの症状が現れることがあります。

レボドパ(L-DOPA)は、パーキンソン病の主要な治療薬であり、1960年代から使用されている有効な薬剤です。

レボドパは、体内でドーパミンに変換される物質であり、黒質の神経細胞のドーパミン減少を補う働きを持ちます。

具体的には、レボドパが脳内に入ると、ドーパミンの前駆体となり、黒質の神経細胞がこれを利用してドーパミンを合成することが可能となります。

レボドパの投与により、パーキンソン病患者の運動障害や症状が一時的に改善されることがあります。

振戦が軽減し、筋肉のこわばりや動作の遅さが緩和されるため、日常生活の動作が改善される場合があります。

しかし、レボドパの効果にはいくつかの制約があります。

まず、レボドパは症状を一時的に改善させるものの、病気そのものを治療するわけではありません。

また、長期的な使用により、効果が減退することがあるため、投与量やタイミングの調整が必要になります。さらに、レボドパの使用には副作用もあります。

中でも、長期間の使用による「オフ現象」と呼ばれる、投薬効果が急激に低下する問題が報告されています。

パーキンソン病の治療は多面的であり、レボドパだけでなく、他の薬剤や理学療法、手術治療なども併用されることがあります。

治療は個人に合わせてカスタマイズされるため、医師の指導のもと、適切な治療法を選択・調整することが重要です。

パーキンソン病とレボドパの話は「Awakenings(レナードの朝)」という映画の中でも描かれています。レナードの朝は、1990年に公開されたアメリカの映画です。この映画は、オリバー・サックス博士が著した自伝的小説「Awakenings」を元に制作されました。実際の事件に基づいており、パーキンソン病患者に症状として現れる「睡眠病」の治療を描いています。主演のロバートデニーロの演技も素晴らしく、つい見入ってしまいます。

L-DOPAの伝達と代謝。L-DOPAはドーパミンへと変換され、神経細胞内で神経伝達物質として利用される。L-DOPA、ドーパミンは体内でCOMT、MAO-Bと呼ばれる酵素によてそれぞれ代謝される。よって、パーキンソン病の治療においてはドーパミン自体を増やす治療、ドーパミンの代謝を抑制する治療が行われる。Created with BioRender.com

終わりに

さて、

神経伝達物質の話からその代表であるドーパミンの具体的な働き、そして疾患との関係までいかがでしたでしょうか。

ここで記載した内容は教科書的な内容が多く、本来は神経伝達物質の世界はおもしろい話が多く転がっています。

発見一つとっても歴史的なものです。

次回はこうしたサイエンスのさらに深みまで足を入れながらより詳しい内容を解説していきたいと思います。

それではまた次回お会いしましょう。

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