神経細胞の基礎 -中枢神経と末梢神経を構成する細胞の違い-

目次

はじめに

脳科学と聞くと非常に魅力的な科学領域に思えますが、生物学的に見ると脳は神経細胞の集合体です。

どのような脳科学的な興味深い理論も神経細胞の基本が理解出来ていないと真髄を理解できたとは言えません。

そこで、本記事では神経細胞の基本である中枢神経と末梢神経の違いについて記載していきたいと思います。

本記事は基礎的な内容としており、生物学や医学をしっかり学んだ人からすると少し物足りないかもしれません。こんな話もあったなということで参考にしていただけたらと思います。

中枢神経と末梢神経のそれぞれの範囲と構成

まず、中枢神経とはどの領域を示すか改めて見ていきましょう。

中枢神経とは、脳と脊髄からなっている神経領域を示し、末梢神経とは全身に張り巡らされている末梢組織の神経を示します。

一般的な言葉である「中枢」「末梢」という言葉そのままで、特に皆さんが持たれているイメージと大きくは異ならないかと思います。

次に、それぞれの神経の構成を見ていきましょう。

中枢神経は大きく、大脳、小脳、脳幹(中脳・橋・延髄)、脊髄から構成され、末梢神経は運動神経と感覚神経といった線維群から構成されます。

中枢神経と末梢神経の働き概略

中枢神経と末梢神経の働きはさながら司令部と現場兵隊のような違いがあります。

現場からの情報を吸い上げ、司令部はその情報を判断し、次の行動に結びつけるようなイメージですね。

感覚神経で察知した情報を中枢神経に届け、中枢神経では小脳等を通じて運動神経に乗せて「行動」としてアクションを起こします。

「反射」では、中枢神経を介さずに「行動」を起こすことが例外的な反応として知られています。

中枢神経と末梢神経を構成する細胞の違い

さて、このように役割や働きが大きく違いそうな中枢神経と末梢神経ですが、神経細胞という観点から見ると違いはあるのでしょうか。

例えば、中枢神経(脳)の神経細胞を見ていきましょう。

大脳に限らず、神経細胞は基本的に化学物質による神経細胞間の情報伝達が知られており、その化学物質を神経伝達物質と呼びます。

神経伝達物質は基本的に神経細胞によって決まっていて、もっと言えば脳の組織・場所ごとにおおよそ利用される神経伝達物質は定まっています。

例えばドーパミンによって動く神経細胞はドーパミン作動性の神経細胞(dopaminergic neuron)などと言われたりします。

これらはパッと見ただけでどの神経細胞がどの神経伝達物質をメインとしているかわかりませんが、大きく興奮性か抑制性かで二つに分かれます。

例えば、興奮性の神経伝達物質としてはドーパミンやノルアドレナリンが知られていて、一方抑制性の神経伝達物質としてはGABAが最もよく知られています。

このあたりの神経伝達物質をコントロールすることは中枢神経薬理として知られています。興味がある方は以下の記事をお読みください。

神経細胞ごとに神経伝達物質が異なるということは神経細胞を語る上で外せない要素と言えるでしょう。

それでは次に末梢神経の神経細胞の場合に注目していきます。

末梢神経の神経細胞はどのような特徴を持っているでしょうか。

末梢神経においても神経伝達物質はもちろん存在しますが、末梢神経の場合、人体において最も長い神経細胞であるという点が最も特徴的です。

坐骨神経は人体で最も長い神経で末梢神経の一つであって、主に下半身への情報伝達を担っています。

情報伝達において、神経細胞の長さがネックになってもらっては困るので、他の神経細胞と違って坐骨神経を始めとした末梢神経は無髄線維を含んでいます。

神経細胞は、その細胞体(細胞の中心部分)から伸びる細長い部分があります。これらの部分は、「神経線維」と呼ばれます。
有髄線維は、神経線維の一種で、ミエリン鞘(ミエリンという物質で覆われた保護層)で包まれています。ミエリンは絶縁体のような役割を果たし、電気信号の伝達を効率的に行うことができます。有髄線維は、主に脳や脊髄の外側に存在し、高速で情報を伝達することができます。これにより、身体の動作や感覚などの機能が迅速に処理されます。
一方、無髄線維は、ミエリン鞘で覆われていない神経線維です。無髄線維は主に脳や脊髄の内部に存在し、比較的遅い速度で情報を伝達します。したがって、無髄線維は比較的長い距離を伝達するのには不適していますが、脳の深部などに重要な情報を伝えるのに役立ちます。
このように、有髄線維と無髄線維は神経系の重要な構成要素であり、情報の伝達においてそれぞれ異なる役割を果たしています。ミエリン鞘の有無によって神経細胞の伝達速度が変わるため、正確で適切な情報の処理と身体の適切な反応が可能になっています。

では必ず中枢は有髄で末梢は無髄か、というとこれも話が複雑です。
基本的に中枢神経はすべて有髄線維であるとして知られています。しかしながら、一部では中枢神経においても(例えば線条体投射神経の一部)無髄神経束を形成していることが報告されています。ただ、現状として報告されているだけで、なぜ中枢神経において無髄線維が存在するかはまだ明らかになっていません。今後研究が行われていくことでしょう。

https://med.juntendo.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00028684.pdf&n=%E5%A4%A7%E8%84%B3%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%8A%91%E5%88%B6%E6%80%A7%E3%81%AE%E7%84%A1%E9%AB%84%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E6%9D%9F%E3%81%AE%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%80%80%EF%BD%9E%E9%81%8B%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%82%84%E6%83%85%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AE%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%B8%E3%81%A4%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%82%8B%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7%EF%BD%9E.pdf

中枢と末梢の神経細胞周辺の細胞 -オリゴデンドロサイトとシュワン細胞-

中枢と末梢の神経細胞は見た目ではわからないまでも、上に述べたように神経細胞として中身が大きく異なります。

さらに、神経細胞の周辺の細胞の構成も大きく異なってきます。

例えば、神経細胞の中で髄鞘を持っている細胞(有髄線維)はその髄鞘を作る細胞が近くに存在します。

中枢神経においては、髄鞘はオリゴデンドロサイトと呼ばれる細胞が生成します。

オリゴデンドロサイトは日本語では希突起膠細胞と示されます。何やら難しい漢字が多いですね。また、カタカナ表記でオリゴデンドログリアと記載されることもあり、複数の表現のされ方がある細胞といえるかもしれません。

一方、末梢神経においては髄鞘はシュワン細胞と呼ばれる細胞が生成します。

神経細胞を分類するにあたって、通常神経細胞特異的なマーカー蛋白質というものの発現をチェックします。

ドーパミン作動性ニューロン特異的なマーカー蛋白質やGABA作動性ニューロン特異的なマーカー蛋白質、といった具合です。

オリゴデンドロサイトやシュワン細胞においても、それぞれ特異的なマーカー蛋白質が存在し、それは明確にオリゴデンドロサイトとシュワン細胞で異なります。

これらからもオリゴデンドロサイトとシュワン細胞は細胞種として全く異なった細胞であることがわかります。

ちなみにシュワン細胞には以下3つのタイプが知られています。

1. 髄鞘形成細胞(Myelinating Schwann cell)
髄鞘形成細胞は、神経線維を長いミエリン鞘で包み込むことができるタイプのシュワン細胞です。ミエリン鞘は脂質でできており、神経信号の伝達を速く効率的に行うのに役立ちます。髄鞘形成細胞は、ミエリン鞘を形成することで神経線維を絶縁し、電気信号の伝達を高速化することに寄与します。

2. 非髄鞘形成細胞(Non-myelinating Schwann cell)
非髄鞘形成細胞は、神経線維をミエリン鞘で覆わないタイプのシュワン細胞です。これらの細胞は神経線維を包み込みつつも、ミエリン鞘を形成しないため、信号伝達は比較的遅くなります。非髄鞘形成細胞は、主に感覚神経線維に見られ、神経線維の保護と修復に関与します。

3.軸索再生誘導細胞(Remak Schwann cell)
軸索再生誘導細胞は、神経線維の再生を助ける重要な役割を果たすシュワン細胞のタイプです。神経線維が損傷した際、軸索再生誘導細胞はその再生を促進し、正しい方向に成長させます。これにより、神経線維の損傷を修復することができます。

発生学的に見た中枢神経と末梢神経の神経細胞

このように、それぞれ神経細胞も異なりますし、周囲の神経細胞も異なってくるわけですが、それでは発生学的にはどのように違いがあるでしょうか。

中枢神経(脳と脊髄)と末梢神経(体の他の部分に広がる神経)の発生学的な違いについて説明します。

  • 発生時期と場所:
    中枢神経系の発生は胎児期の初期に始まります。胚の神経管が形成され、その後脳と脊髄に発達します。脳は頭部の内部に位置し、脊髄は脊椎骨(背骨)の中に形成されます。
    一方、末梢神経は中枢神経以外の神経組織を指します。末梢神経は胎児期には中枢神経よりも後に発生し、体の他の部分に広がっています。
  • 起源細胞の違い:
    中枢神経系の細胞は、胚の神経管から発生します。胚の神経管は中枢神経系の前駆体となり、そこから脳や脊髄の神経細胞が派生します。
    一方、末梢神経の細胞は、神経堤から発生します。神経堤は神経管の周囲にある細胞群で、末梢神経の前駆体となります。

これらの違いにより、中枢神経と末梢神経は異なる役割と機能を持ち、体の神経系全体をバランスよく支えています。

SpringerLink
Peripheral Nerve Development and the Pathogenesis of Peripheral Neuropathy: the Sorting Point - Neur... Nerve development requires a coordinated sequence of events and steps to be accomplished for the generation of functional peripheral nerves to convey sensory an...
PubMed
The neural crest - PubMed The neural crest (NC) is a highly migratory multipotent cell population that forms at the interface between the neuroepithelium and the prospective epidermis of...
あわせて読みたい

最後に

さて、いかがでしたでしょうか。

こちらに記載した以外にも再生や機能的なところを細かく見ていくと中枢神経と末梢神経は大きく異なってきます。

より細かい話はまた別の記事でお話していきたいと思います。

それではまた次回記事でお会いしましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次