はじめに
生命科学系の学生なら必ず学ぶ受容体ですが、一般の方への知名度は意外と低かったりします。
受容体について知らないまま大人になる方も多くいらっしゃると思います。
本記事では、そんな受容体について大枠の説明から、受容体として最も多く知られている3つの型について簡単に説明いたします。
生命科学系の学習をしたことがある方なら知ってて当然の内容ですが、
「あ、そんなこともあったな」
と思い出していただけたらと思います。
「受容体って初めて聞いた」
という方は本記事をきっかけに、さらに生命科学について興味を抱いていただけたら嬉しいです。
受容体とは

受容体は、生命科学において非常に重要な役割を果たす分子です。
受容体は細胞表面または細胞内に存在し、特定の化学物質(リガンドと呼ばれる)と相互作用することで、細胞内の信号伝達経路を調節する役割を持っています。
この相互作用によって、細胞は外部からの刺激に応答し、適切な反応を起こすことができます。
受容体は、主に蛋白質から構成されています。
蛋白質はアミノ酸が長鎖で結合した高次構造を持っており、それによって機能を発揮します。受容体の高次構造には主に3つのレベルがあります。
- 第一次構造: アミノ酸が直線的につながった鎖の配列。これが蛋白質の基本的な構造です。
- 第二次構造: アミノ酸鎖がアルファヘリックスやベータシートといった規則的なパターンを形成する段階。このパターンは水素結合によって安定化されます。
- 第三次構造: 第二次構造が折りたたまれてできる立体構造。この折りたたみが受容体の機能を形成し、リガンドとの相互作用に重要な役割を果たします。
一部の受容体は、リガンドとの結合によって構造が変化することが知られています。
これを「受容体のコンフォメーション変化」と呼びます。
リガンドが受容体に結合することで、受容体の立体構造が変化し、細胞内の信号伝達経路が活性化または抑制されます。このような受容体は、「イオンチャネル型受容体」と呼ばれます。
他の受容体は、リガンドとの結合によって細胞内で特定のシグナル伝達経路が活性化されることで、細胞応答が調節されます。このタイプの受容体は、「Gタンパク質共役型受容体」と呼ばれます。
さらに、一部の受容体はリガンドと結合することで、細胞核に入り込み、転写因子として働くことがあります。これにより、遺伝子の発現が制御されます。このタイプの受容体は「核内受容体」と呼ばれます。
受容体は、生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすため、医薬品の開発や疾患の理解においても非常に重要です。
例えば、受容体に対する薬剤は特定のシグナル伝達経路を調節することができるため、さまざまな疾患の治療に応用されています。また、受容体の機能異常は疾患の原因にもなるため、その理解は新しい治療法の開発に繋がる可能性があります。
以下に、Gタンパク質共役型受容体、イオンチャネル型受容体、核内受容体の構造と機能、そして具体例を表にまとめます。
受容体の種類 | 構造と機能 | 具体的な例 |
---|---|---|
Gタンパク質共役型受容体 | 複数の膜貫通ドメインと細胞質側ループから構成される。リガンド結合によりGタンパク質と相互作用し、細胞内のシグナル伝達を活性化または抑制する。 | 具体例: βアドレナリン受容体(アドレナリンに応答してシグナルを伝える)、セロトニン受容体(セロトニンに応答してシグナルを伝える)等 |
イオンチャネル型受容体 | 膜貫通ドメインがイオンの通り道を形成。リガンド結合によって受容体のコンフォメーション変化が起こり、イオンの流入または流出が制御される。 | 具体例: NMDA受容体(グルタミン酸に応答してカルシウムとナトリウムの流入を調節)、ニコチン受容体(アセチルコリンに応答してナトリウムの流入を調節)等 |
核内受容体 | リガンド結合により核内へ移動し、遺伝子の転写を制御する転写因子として機能する。 | 具体例: グルココルチコイド受容体(コルチゾールに応答して炎症関連遺伝子の発現を調節)、エストロゲン受容体(エストロゲンに応答して性ホルモン関連遺伝子の発現を調節)等 |
これらの受容体は、細胞内のシグナル伝達を制御する重要な役割を果たしており、正確な機能を維持することが健康な生理学的プロセスに不可欠です。また、これらの受容体の異常は疾患の原因になることがあり、医薬品の開発や治療戦略にも影響を与えています。
G蛋白質共役型受容体

Gタンパク質共役型受容体は、細胞膜上に存在する受容体の一種であり、外部からの化学的なシグナル(リガンド)に応答して、細胞内のシグナル伝達を制御します。
Gタンパク質共役型受容体は、細胞膜を通り抜ける複数の膜貫通ドメインと、細胞内外に伸びる細胞質側ループから構成されています。
以下に、アドレナリン受容体(βアドレナリン受容体)を例に取りながら、Gタンパク質共役型受容体の活性化とGTPのGDPへの分解メカニズムを説明します:
- リガンドの結合:
アドレナリンが細胞外に存在するアドレナリン受容体に結合します。アドレナリンは、アドレナリン受容体の細胞質側ループに位置する特定の結合部位に結合することで、受容体を活性化します。 - 受容体のコンフォメーション変化:
アドレナリンの結合により、アドレナリン受容体の立体構造が変化します。これにより、細胞内のGタンパク質との相互作用が促進されます。 - Gタンパク質との結合:
Gタンパク質は、受容体と特定の部位で結合します。このGタンパク質は、受容体に結合することで、GDP(グアノシンジホスファート)と呼ばれるリン酸化されていない形態から、GTP(グアノシントリリン酸)と呼ばれるリン酸化された形態へと変換されます。 - Gタンパク質の活性化:
GTPに結合したGタンパク質は活性化されます。活性化されたGタンパク質(GTP結合型)は、Gタンパク質のαサブユニットと呼ばれる一部の部位がGDPからGTPへの交換により活性化されることで、他のシグナル伝達分子に影響を与える能力を持ちます。 - シグナル伝達経路の活性化または抑制:
活性化されたGタンパク質(GTP結合型)は、細胞内の他のシグナル伝達分子を活性化または抑制します。これにより、さまざまな生理学的プロセスが調節されます。一つのGタンパク質共役型受容体が複数のシグナル伝達経路を制御することもあります。 - Gタンパク質のGTP分解:
GTP結合型のGタンパク質は、一定時間が経過するか、特定のGタンパク質活性化のフィードバック機構によって、自己分解することがあります。GTP結合型のGタンパク質は、GTPをGDPに加水分解し、元の非活性な状態に戻ります。
これらのステップを通じて、Gタンパク質共役型受容体はリガンドからのシグナルを受け取り、細胞内で特定の生理学的な応答を引き起こす重要な役割を果たします。
イオンチャネル型受容体

イオンチャネル型受容体は、細胞膜を通るイオンの通り道を形成する受容体の一種です。
これらの受容体は、リガンド(化学信号物質)の結合によって受容体のコンフォメーション(立体構造)が変化し、イオンの流入または流出を制御します。
以下に、ニコチン受容体(ニコチンアセチルコリン受容体)を例に取りながら、イオンチャネル型受容体のメカニズムを詳しく説明します。
- リガンドの結合:
ニコチン受容体は、アセチルコリンというリガンド(ニコチンの場合もあります)に特異的に応答します。アセチルコリンは細胞外から受容体のリガンド結合部位に結合します。 - 受容体のコンフォメーション変化:
アセチルコリンの結合により、ニコチン受容体の立体構造が変化します。これにより、イオンチャネルのゲート(開閉を制御する部分)が開かれます。 - イオンの流入:
ニコチン受容体は主に陽イオン(通常はナトリウムイオン)の流入を誘導します。ゲートが開かれることで、細胞内外のイオンの濃度差を利用してナトリウムイオンが細胞内に流入します。このプロセスは、興奮性の細胞(例:神経細胞や筋肉細胞)において、神経伝達物質が受容体に結合することで興奮が引き起こされる重要なメカニズムとなります。 - イオンの流出:
一部のイオンチャネル型受容体は、リガンドの結合によって陰イオン(通常はクロールイオン)の流出を誘導します。ゲートが開かれることで、細胞外へクロールイオンが流出します。 - イオンチャネルを閉じる:
リガンドの結合が解除されるか、あるいは一定時間が経過すると、イオンチャネルのゲートが閉じます。これにより、イオンの流入または流出が制御されます。イオンチャネルが閉じることで、細胞の膜電位や興奮性が調節されます。
このようなメカニズムにより、イオンチャネル型受容体は神経伝達、筋肉収縮、感覚伝達など、多くの生理学的プロセスに関与しています。
核内受容体
核内受容体は、細胞内に存在する受容体の一種であり、細胞質内に存在するリガンド(通常はホルモンや他のシグナル分子)に応答して、細胞内の遺伝子発現を制御します。
核内受容体は、リガンドが結合することで受容体のコンフォメーションが変化し、核内に移動して特定の遺伝子を調節する転写因子として機能します。
以下に、エストロゲン受容体(ER)を例に取りながら、核内受容体のメカニズムを詳しく説明します。
- リガンドの結合:
エストロゲン受容体は、エストロゲンというホルモンに特異的に応答します。エストロゲンは細胞質内に存在し、核内受容体のリガンド結合部位に結合します。 - 受容体のコンフォメーション変化:
エストロゲンの結合により、エストロゲン受容体の立体構造が変化します。これにより、核内受容体が活性化され、細胞質から細胞核へ移動します。 - 核内への移動:
エストロゲン受容体は、細胞質から核内に移動します。核内受容体には、核移行シグナルが含まれており、エストロゲン結合によってこのシグナルが露出し、核膜を通過して細胞核に入り込むことが可能になります。 - 遺伝子の調節:
核内に移動したエストロゲン受容体は、特定の遺伝子のプロモーター領域に結合します。これにより、遺伝子の転写が調節されます。エストロゲン受容体は、共役転写因子と相互作用することで、遺伝子の転写を活性化または抑制します。 - 細胞応答:
遺伝子の転写が活性化または抑制されることによって、細胞内で特定のタンパク質や酵素が増加または減少し、エストロゲンによる特定の生理学的な応答が引き起こされます。例えば、エストロゲン受容体に結合したエストロゲンは、乳房組織や子宮内膜などの組織で細胞増殖や分化を調節し、女性の生殖器系組織の発達と機能を調整します。
このようなメカニズムにより、核内受容体は特定のホルモンやシグナル分子に応答して遺伝子発現を制御し、細胞の機能を調節します。
終わりに
さて、いかがでしたでしょうか。
少し教科書的な内容が多く、退屈だったかもしれません。
本記事は概要で、この記事で受容体のすべてを理解したと思わず、本記事をきっかけにさらに受容体について知りたい!となっていただけると執筆者としては嬉しく思います。
特に受容体の構造のところは非常にロマンが詰まった基礎科学領域です。
それではまた新しい記事でお会いしましょう。