「特性」という言葉をご存じでしょうか?脳の働きに偏り、つまり特性があることで、得意なことと苦手なことが極端に分かれてしまう人たちがいます。人の気持ちを理解するのが苦手、冗談が理解できない、じっとしれいられない、文字を読むことが苦手などなど、ひと昔前までは本人の努力不足や親のしつけの問題とされていたことも、今では脳の特性によるものだということが分かっています。これらをまとめて神経発達症と呼び、一般的には発達障害として広く認知されています。中でもADHD(注意欠如・多動症)は誰しも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。この記事では、ADHDの治療法と治療薬の薬理作用について紹介していきます。
本記事ではADHDについて現在理解されているところを筆者なりに調べた内容と利用されている薬剤についてご紹介しています。執筆者は脳疾患系の博士号を持っていますが医師ではなく、看護師や薬剤師ではありません。そのため、本記事記載内容を以て、医師や専門職者の判断を仰がないということは決してしないようにご注意をお願い致します。詳しくは医療機関をご受診ください。
ADHD(注意欠如・多動症)とは

ADHDとは、不注意と多動・衝動性に関連する症状によって生活に支障をきたしてしまう状態です。ADHDは子供が診断されるものだと思われがちですが、社会に出てから生きづらさを感じて初めて診断される大人もいます。
ADHDの詳しい原因はまだ解明されていませんが、脳の一部、具体的には前頭葉の機能障害が原因であると考えられています。私たちの脳は、神経細胞からドーパミンやノルアドレナリンという神経伝達物質が放出され、次の神経細胞の受容体に結合することによって情報が伝達されます。神経伝達物質が多いほど強い信号となって脳が活性化されます。しかしADHDの場合、神経伝達物質が少なかったり、前頭葉への情報伝達がうまくコントロールできていないことが分かっています。前頭葉は思考、やる気、感情などを司る部位で、機能の低下はADHDの特徴でもある注意欠如や衝動的な行動などとして現れます。

ADHDの治療法(症状の改善・向き合っていく)
ADHDは生まれ持った特性なので根治はできませんが、「心理社会的治療」と「薬物治療」によって症状を改善することができます。
心理社会的治療では、環境や行動を工夫したり、対人スキルを学んだりして症状の改善に努めます。忘れ物が多い場合は持ち物リストを確認する、注意力が散漫になりやすい場合は教室前方に座るというような、一人一人に合った治療計画が立てられます。このような心理社会的治療のみでの改善が難しい場合、薬物治療も並行して行われます。
日本で承認されているADHD治療薬は以下の4種類です。
- コンサータ
- ビバンセ
- ストラテラ
- インチュニブ
それぞれにメリット・デメリットがあるため、症状に合った治療薬選択が重要になります。
ADHDの治療薬の薬理作用
ADHDの治療薬は神経伝達物質を増やしたりして、脳の働きを助けることで症状を改善します。各治療薬の薬理作用を詳しく見ていきましょう。
コンサータ
コンサータの有効成分メチルフェニデートは、シナプス前(情報伝達物質を放出する側)のトランスポーターに結合することで、ドーパミンとノルアドレナリンの再取り込みを抑制します。さらに、ドーパミンとノルアドレナリンの放出を促す作用もあります。その結果、神経細胞と神経細胞の間(シナプス間隙)に存在するドーパミンとノルアドレナリンが増加し、情報伝達のための信号が強くなることで、前頭葉などの機能を活性化させます。
ビバンセ
ビバンセの有効成分リスデキサンフェタミンは、まず体内でd-アンフェタミンという活性体に代謝されます。d-アンフェタミンにはシナプス前のトランスポーター阻害作用とドーパミン・ノルアドレナリンの放出促進作用に加えて、ノルアドレナリンを分解するモノアミン酸化酵素Aの阻害作用があります。これらの作用によって、シナプス間隙のドーパミンとノルアドレナリンが増加し、前頭葉などの機能が活性化されます。
ストラテラ
ストラテラの有効成分アトモキセチンは、シナプス前のトランスポーターに結合し、ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害します。ノルアドレナリンの増加はドーパミンの増加に繋がり、シナプス間隙の信号伝達が増強され、前頭葉などの機能が活性化されます。
インチュニブ
インチュニブの有効成分グアンファシンは、後シナプス(情報伝達物質を受け取る側)に存在するα2Aアドレナリン受容体を選択的に刺激して、シグナル伝達を増強します。他の治療薬とは異なり、トランスポーター阻害やドーパミン・ノルアドレナリンの放出促進作用はありません。
中枢神経を刺激して得られるドーパミンは「元気」や「やる気」を感じさせるために重要な一方で、依存性も懸念されています。コンサータとビバンセは中枢神経系薬として直接ドーパミンに作用するため即効性が期待されますが、依存・乱用を防ぐために厳しく管理されています。ストラテラとインチュニブはドーパミンには作用しないため、非中枢神経系薬に分類されます。効き目は穏やかですが、依存性は低いです。
まとめ
ADHDは脳の機能障害が原因で、注意欠如や衝動的な行動が起きてしまいます。有効的な治療薬もいくつか開発されており、心理社会的治療と合わせることで症状の軽減が見込めます。治療薬にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、一人一人にあった薬剤選択が重要です。



