不老に日本全体として取り組むべき理由

不老とは、ある時点を境に肉体が決して老化しない状態を表します。同じような意味合いとして「アンチエイジング」という言葉が使われておりますが、最近ではこちらの方がなじみがあるという人も多いのではないでしょうか。
アンチエイジングという言葉からは、老けないようにする「美容」というイメージが強いですが、今の日本にとって大事なのは「未業(病気予防)」です。
今回は、未病の観点で、人類、そして日本国民が不老(アンチエイジング)に取り組むべき理由について説明いたします。
アンチエイジングの意味

生物は加齢によって体の機能が低下していくわけですが、その機能低下を防ごうとする行為を「アンチエイジング」と呼びます。日本語で「抗加齢」や「抗老化」と表記されますが、自然に「抗う(あらがう)」行為というわけです。
1980年代に入り、老化の原因やプロセスが少しずつ解明されたことで、老化を遅らせる「アンチエイジング」という概念が生まれました。老化や死を完全に止める「不老不死」は生物学的に不可能ですが、加齢による衰えを少しでも遅らせたり、軽減させたりすることは、実現可能な問題として考えることができるようになりました。
老化の研究は新しいフェーズへ

20世紀後半における分子遺伝学の急速な発展により、老化・寿命に関する研究が大きく進展しました。その結果、単純な環境および遺伝的介入によって寿命を延ばし,老化時の健康状態を改善できることがわかってきました。
ここでは、いくつかの具体例についてみてみましょう。
酵素テメロラーゼの研究による新しい癌治療法への期待
国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所の共同研究グループによって、細胞不死化酵素として知られていたテロメラーゼには、細胞のがん化を促進している新しい機能があることが明らかにされました。テロメラーゼが持つこの新しい機能を抑制することによる、全く新しいタイプのがん治療法の開発が期待されています。
※研究成果は、2020年3月25日に英国科学誌『Nature Communications』に掲載されました。
老化細胞を除去する加齢治療薬の製造は可能?

アメリカ食品医薬品局(FDA)は、老化は自然なことであり、病気ではないという立場を取っていました。そのため、アメリカの製薬会社は不老(老化の進行を遅らせること)を目的とした薬を製造することはできませんでした。しかし、FDAがその立場を変えて不老を「疾病(疾患)」に分類することになると、状況は大きく変わります。
2018年、アメリカ国立衛生研究所(NIH) に掲載された論文によると「老化細胞を除去することで、マウスの寿命および健康寿命が延びる」という研究結果が発表されています。
既に技術的には不老(アンチエイジング)についての治療法は実現可能なレベルにきており、あとはFDAの規制が外れるかどうかの問題となってています。
世界保健機関(WHO)も、2019年に改訂した版国際疾病分類「ICD11」の中に「老化(エイジング)関連」という項目を加えており、規制を緩める立場を支持していると言っても過言ではないでしょう。
何故不老に取り組まなければならないのか -日本社会の課題-

日本社会で今最も深刻な問題は、少子高齢化による労働者不足と医療費の増加です。
2019(令和元)年の日本人の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳ですが、同年の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳です。つまり、男性は約9年、女性は約12年もの間、自立できない状態で生きていることとなり、その期間に医療費が多くかかることになります。
令和2年度の後期高齢者の1人当たり医療費は約92万円であり、若人(後期高齢者医療制度以外の医療保険加入者)の1人当たり医療費は約22万円の4.2倍となっています。入院費用にしぼってみてみると、後期高齢者の1人当たりの医療費は約46万円であるのに対して、若人1人当たり医療費は約7万円であり、6.6倍にも跳ね上がります。この数字からも、いかに健康寿命を伸ばすことが重要であるのかを読み解くことができます。
もし不老(アンチエイジング)による病気予防が実現すると、健康寿命と平均寿命との差がほぼなくなります。寿命を迎える直前まで元気に働くことができ、病床に伏せることが減るため、大幅に医療費を削減することができます。
※健康寿命とは、2000年にWHOが提唱した「健康に生活できる期間」のことで、介護などを必要とせず、自立した生活できる状態を意味します。
目指すべきは不老長寿の世界

1955年の日本人の平均寿命は男性63.60歳、女性67.75歳でしたが、2019年には男性81.41歳(+17.81)、女性87.45歳(+19.7)まで伸びています。2040年には男性83.27歳)、女性89.63歳まで伸びると予想されています。健康寿命を伸ばすことができなければ、日本の財政は間違いなく破綻してしまうでしょう。
一方で、「不老(アンチエイジング)」が実現できたら、死を迎えるまでの間、充実した人生を送ることができるようになりますので、寿命は伸びても全く問題にはなりません。
2025年には、約800万人いるといわれている団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になり、2000万人を越える人数になると推計されています。
研究が進み、不老は夢物語ではなくなりつつある今、日本は本気で不老(アンチエイジング)に取り組むべきなのです。
出典
細胞不死化酵素「テロメラーゼ」に新しいがん化機能を発見|国立がん研究センター (ncc.go.jp)
https://www.mhlw.go.jp/content/kouki_tokusei_r02.pdf
図表1-2-1 平均寿命の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

