ソフトウェア開発において「設計フェーズ」はプロジェクトの成否を左右する最重要工程です。しかし、基本設計や詳細設計の違いを明確に理解している人は意外に少ないかもしれません。本記事では、非IT業界の方にも分かりやすく、設計フェーズで特に注意すべきポイントを技術面・ビジネス面から解説します。最新のAI活用動向も含め、実務に役立つ内容をお届けします。



設計フェーズの重要性とは?
設計がプロジェクト成功に与える影響
ソフトウェア開発プロジェクトにおいて、設計フェーズは成功のカギを握る重要な工程です。要件定義で決まった内容をもとにシステムの構造や振る舞いを計画する段階であり、この段階での判断が後の開発コストや品質に大きく影響します。よく言われるように**「上流での不備は下流で莫大な手戻りコストとなる」**ものです。例えば、IBMの調査によれば、リリース後に不具合を修正するコストは、設計段階で修正する場合の4~5倍にもなり、保守段階では最大で100倍にも膨れ上がると報告されています (The Cost of Finding Bugs Later in the SDLC)。つまり、設計段階で問題を予防・発見することが、後々の手戻りやバグ修正にかかる時間と費用を劇的に削減できるのです。
また、設計は開発チーム全員の共通認識を作る場でもあります。しっかりとした設計文書があれば、プロジェクトメンバー間でゴールや方針を共有しやすくなり、コミュニケーションロスが減ります。逆に設計が不十分だと、開発中に機能の解釈違いや追加要求が頻発し、納期遅延やコスト超過の原因となりがちです。さらに、設計段階で性能やセキュリティ、使い勝手などを考慮しておけば、完成した製品の品質向上やユーザー満足度向上にもつながります。総じて、設計フェーズの出来がプロジェクトの成否を左右すると言っても過言ではありません。
基本設計と詳細設計の違い
ソフトウェア設計は大きく基本設計(外部設計とも呼ばれることがあります)と詳細設計(内部設計とも言います)に分かれます。それぞれ役割が異なり、視点も異なる点に注意が必要です。 (詳細設計の成果物は何が重視される? 進め方や注意点を紹介 | 株式会社GeNEE(ジーン))
- 基本設計: システムをユーザー視点でとらえ、要求された機能や動作を明確に定義する工程です。ユーザーが求める挙動や画面仕様を洗い出し、システムの全体像(アーキテクチャ)や外部から見た振る舞いを設計します。言わば「システムの青写真」を描く段階で、非ITのステークホルダーにも理解できるレベルで仕様を固めます。
- 詳細設計: 基本設計で定義した内容を開発者視点で掘り下げ、プログラミング可能なレベルまで落とし込む工程です。内部構造や各モジュールのロジック、データ構造を具体化し、開発者が実装できるよう細部を詰めます。基本設計が「何を実現するか」を描くのに対し、詳細設計は「どう実現するか」を示すイメージです。
基本設計と詳細設計の違いを、具体例で考えてみましょう。 (詳細設計の成果物は何が重視される? 進め方や注意点を紹介 | 株式会社GeNEE(ジーン))たとえば基本設計では「郵便番号から住所を自動入力するボタンを設置する」というユーザー要求を定義したとします。詳細設計ではそれを受けて「郵便番号と住所の対応テーブルを用意し、どのような**アルゴリズム(ロジック)**でデータを取得・表示するか」を決めます 。このように、基本設計は利用者目線の機能定義、詳細設計は開発者目線の実装定義という役割分担になっています。
基本設計のポイント
システムアーキテクチャの選定
基本設計では、まずシステムアーキテクチャ(構成)をどうするかを決める必要があります。アーキテクチャとはシステムの骨組みであり、適切な構造を選ぶことで開発効率や将来の拡張性に大きな差が出ます。例えば、小規模なシンプルシステムであれば従来型の単一アプリケーション(モノリシック)アーキテクチャでも問題ありませんが、機能が増えて巨大化すると保守が難しくなります。そのような場合には、機能ごとにサービスを分割したマイクロサービスアーキテクチャを検討するなど、規模や要件に応じて最適なアーキテクチャを選定します。
アーキテクチャ選定では他にも、クライアント/サーバー型なのか**Webアプリ三層構造(プレゼンテーション層・アプリケーション層・データ層)**にするのか、オンプレミスかクラウドか、といった観点も含めて検討します。適切なアーキテクチャ設計により、チーム内の開発分担が明確になり、変更に強くスケーラブルなシステムに仕上がります。基本設計段階でシステム全体の構造をしっかり設計しておくことが、後工程のスムーズな実装と品質確保につながるのです。
UI/UX設計の重要性
基本設計では機能や内部構造だけでなく、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザー体験)設計も非常に重要です。どれほど優れた機能を実装しても、ユーザーが使いにくければシステムの価値は下がってしまいます。そこで画面レイアウトや操作フローをこの段階で検討し、ワイヤーフレームやプロトタイプを作成して、ユーザー視点で使い勝手を確認します。関係者と画面遷移をレビューし、ボタン配置や入力項目の流れなどを早めに調整することで、開発後のUI変更による手戻りを防げます。
また、非ITのステークホルダーにとってUIデザインは最もイメージしやすい部分です。基本設計書に画面モックアップや遷移図を盛り込むことで、「完成物の姿」を共有でき、認識齟齬を減らせます。たとえばログイン画面一つとっても、レイアウトやメッセージ表示の設計次第でユーザー満足度は変わります。基本設計段階でUI/UXに十分配慮しデザインしておくことが、最終的なユーザー評価やビジネス成功につながるのです。
非機能要件(パフォーマンス、セキュリティ)の考慮
非機能要件とは、システムの性能・信頼性・セキュリティ・拡張性など、機能以外の品質要件のことです。この非機能要件を基本設計で考慮しておくことも忘れてはなりません。非機能要件は一見するとユーザーに直接見えない部分ですが、プロジェクト全体の成功可否を左右する重要な要素です ([ AgileVision.io — Understanding the Importance of Non-Functional Requirements in Software Development Projects](https://agilevision.io/blog/understanding-the-importance-of-non-functional-requirements-in-software-development-projects/#:~:text=In%20conclusion%2C%20non,mind%2C%20you%20can%20successfully%20develop))。
例えば以下のようなポイントがあります。
- パフォーマンス: 同時アクセス数や応答時間の目標を決め、それを満たすための設計を行います。必要に応じてキャッシュ機構の導入や、分散処理アーキテクチャの採用などを検討します。
- セキュリティ: ユーザー情報や機密データを扱う場合、暗号化や認証認可の方式を基本設計時に決めます。脅威モデリングを行い、想定される攻撃への対策(SQLインジェクション防止策やWAF導入など)を盛り込みます。
- 拡張性・可用性: 将来的な利用者増や機能追加に耐えられるよう、サーバー増強やマイクロサービス化も視野に入れます。障害時にサービスを止めないフェイルオーバー構成や冗長化もこの段階で検討します。
- 保守性: コードの可読性やモジュール構造も非機能要件に含まれます。チームで共有するコーディング規約を定めたり、設計段階で複雑度を下げる工夫(モジュールの適切な分離など)をします。
基本設計書には、これら非機能要件の目標値や対応方針を明記しておくと良いでしょう。非機能要件を軽視すると、性能不足でユーザー離れが起きたり、セキュリティ事故で信用を失ったりするリスクがあります。非機能要件はプロジェクトの成否を決定づける要因であり、機能要件と同等に重視すべきといえます ([ AgileVision.io — Understanding the Importance of Non-Functional Requirements in Software Development Projects](https://agilevision.io/blog/understanding-the-importance-of-non-functional-requirements-in-software-development-projects/#:~:text=In%20conclusion%2C%20non,mind%2C%20you%20can%20successfully%20develop))。
詳細設計のポイント
データベース設計の基本
詳細設計では、データベース(DB)設計も重要なポイントの一つです。データベースはシステムの根幹を支える部分であり、正しい設計を行わないと、後から変更することが難しい領域です。まず、扱う情報を整理してデータモデルを作成します。エンティティ(テーブル)の洗い出しと**ER図(エンティティ関係図)**によるデータ構造の可視化を行い、データ同士の関係性(リレーション)を定義します。一般に、データベース設計は以下のステップで進めます。
- 概念設計: ビジネスで必要となる情報(エンティティ)とその関連を抽出し、ER図で表現します。
- 論理設計: 実際のRDBMS上で実装できるようにテーブル構成に落とし込みます。主キー・外部キーや正規化を検討し、データの一貫性と冗長性のバランスを取ります。
- 物理設計: 論理設計をもとに、インデックスの付与やパーティション分割など、パフォーマンスやストレージ最適化を考慮した実装プランを策定します。
詳細設計書では、各テーブルの定義(項目名、型、制約)やER図、テーブル間の参照関係などを盛り込みます。例えば「顧客」テーブルと「注文」テーブルの1対多の関係、削除時の動作(カスケード削除にするか等)まで決めて記載します。適切なDB設計により、データの重複や不整合を防ぎ、問い合わせ性能も確保できます。逆に不適切な設計だと、後になってからデータ欠損やパフォーマンス問題に悩まされることになります。実務では正規化しすぎてパフォーマンスが落ちないかといった観点も含め、ビジネス要件に即したバランスの良いデータベース設計を目指すことが重要です。
API設計とシステム連携
システムが複数のコンポーネントやサービスから構成される場合、それらのAPI設計と連携方法もしっかり詳細設計で詰めておく必要があります。APIは異なるシステム間のインターフェースであり、設計次第で他システムとの統合のしやすさや保守性が変わります。
まず、自社システム内のフロントエンドとバックエンドの連携には、RESTfulなAPIを設計するケースが一般的です。エンドポイントのURI設計やHTTPメソッドの割り当て、リクエスト/レスポンスのJSONスキーマを定義します。一貫性のある命名やステータスコードのルールを決めておくことで、開発者にとって使いやすくミスの少ないAPIになります (アプリ開発におけるAPIとは?API設計でアプリの品質の9割が …)。また、認証・認可が必要なAPIではOAuthなどの方式やトークンの扱いを決め、セキュリティにも配慮します。
社外システムとの連携も詳細設計で検討します。例えば決済代行サービスや地図APIなど外部サービスを利用する場合、そのAPI仕様に合わせて自システム側の送受信フォーマットを設計します。データ連携時のタイムアウトやリトライ戦略、障害時のフォールバック案も計画しておくと安心です。さらに、バージョン管理(将来のAPI変更に備えてv1, v2を管理する等)も考慮します。
API設計のポイントをまとめると、**「シンプルで一貫性があり、安全で拡張に耐えうること」**です。詳細設計書にはAPI一覧と各仕様を書き起こし、チーム内や他サービス担当者と事前に合意を取っておきます。これにより、開発後半で「このAPIでは必要なデータが取れない」といった致命的な齟齬を防ぐことができます。
コーディング標準とドキュメント化
詳細設計では、プログラミングの土台となるコーディング標準やドキュメント作成方針も決めておくと良いでしょう。コーディング標準とは、コードの書き方に関するチーム内の取り決めです。命名規則(クラス名や変数名の付け方)、インデントや括弧のスタイル、コメントの書き方、ファイル・フォルダ構成などを定めます。詳細設計書にこれら標準を記載して共有することで、後の実装フェーズでコードのバラつきを防ぎ、複数人で開発しても保守しやすい一貫したコードベースを維持できます。
また、ドキュメント化も重要です。詳細設計書そのものもドキュメントですが、他にもモジュールごとの詳細仕様書や、重要なアルゴリズムのフローチャート、テスト設計書など、必要に応じて関連資料を作成します。特に複雑なロジックについては、擬似コードやフローチャートを詳細設計書に盛り込んでおくことで、実装者が迷わずコードを書けるようになります。ドキュメントは開発中だけでなく、リリース後の保守フェーズで新メンバーが参画した際の学習資料にもなります。**「ドキュメントに書いてあるから安心して変更できる」**状態を目指し、更新があれば設計書も随時修正する運用を心がけましょう。
さらに、基本設計とのトレーサビリティ(対応付け)を保つこともポイントです。基本設計で挙がった機能要件が、どの詳細設計要素(モジュールやクラス、テーブル設計)で実現されているかを追跡できるようにします。これにより、要件漏れや未対応を防ぐとともに、仕様変更があった際に影響範囲を素早く洗い出せます。
最新の研究動向
AI活用と自動化
近年、ソフトウェア設計の分野でもAI(人工知能)技術の活用が注目されています。AIはこれまで人間が行っていた複雑な設計作業を補助・自動化し、効率と精度を高めてくれる可能性があります。例えば、AI搭載の設計支援ツールに要件を入力すると、過去の事例に基づいてシステムアーキテクチャのドラフトやデータベーススキーマを自動生成してくれる技術が登場しています (The Impact of AI in the Software Development Lifecycle )。これにより、設計者はゼロから構想する手間が省け、提示されたプランをレビュー・修正する形で迅速に設計をまとめることができます。
また、UIデザインにおいてもAIが活躍し始めています。AIはユーザビリティデータやユーザー行動分析に基づいて画面レイアウトの改善提案をしたり、A/Bテストの結果から最適なデザインを推奨したりします (The Impact of AI in the Software Development Lifecycle )。さらに、チャットGPTのような生成AIを使って設計書のドラフトを作成したり、設計に対するフィードバックを得たりする試みも進んでいます。例えば「この要件だとどんなアーキテクチャが考えられる?」とAIに質問すれば、いくつかのアーキテクチャパターンを提示してくれるかもしれません。
AIによる自動化はコーディング段階でも顕著です。GitHub Copilotのようなコード自動生成AIは、関数の雛形や反復的なコードを提案してくれますが、これは詳細設計書に記載したインターフェース仕様やデザインパターンを正確に実装する助けになります。将来的には、要件定義から詳細設計までをAIが補助し、人間はその結果をレビューする、といった開発スタイルが一般化する可能性もあります。
もっとも、AIの提案を鵜呑みにするのではなく、人間の専門家による検証と創造性が依然重要です。AIは過去データからのパターン抽出が得意ですが、革新的なアイデアやプロジェクト固有の最適解は人間が主導する必要があります。したがって、AIはあくまで**「優秀なアシスタント」**として活用し、設計者はそれを活かしてより質の高い設計を追求するのが望ましい方向でしょう。
マイクロサービスアーキテクチャとは?
(File:Microservices app example v0.4.png – Wikimedia Commons) 図: マイクロサービスアーキテクチャの概念図。 各機能(検索、決済、レビューなど)が独立したサービスとして分離され、ブラウザからは統合されたUIサービスを介して利用する構成になっている。このようにサービス間は疎結合であり、各サービスは独立してデプロイやスケールが可能。
近年のトレンドとして、システムの構築にマイクロサービスアーキテクチャを採用するケースが増えています。マイクロサービスアーキテクチャとは、アプリケーションを機能ごとに**小さく独立したサービス(マイクロサービス)**の集合体として構成する手法です。一つ一つのサービスは独立してデプロイ可能で、軽量な通信(多くはHTTPベースのAPIやメッセージング)によってお互いに連携します ( Microservices vs. monolithic architecture | Atlassian )。従来の単一システム(モノリス)がすべての機能を一体で開発・デプロイするのに対し、マイクロサービスでは機能単位で開発チームやリリースを分けることができます。
マイクロサービスのメリット: システムをサービスごとに分離することで、スケーラビリティと開発の俊敏性が向上します。必要な部分にだけリソースを追加割り当てできるため(例えば検索機能だけサーバー増強など)、全体を無駄にスケールさせる必要がありません (Monolithic vs Microservices – Difference Between Software Development Architectures- AWS) ( Microservices vs. monolithic architecture | Atlassian )。また各サービスは異なる技術スタックで実装することも可能なので、適材適所の言語・フレームワーク選択ができます。デプロイもサービス単位で行えるため、一部機能のアップデートが他機能に影響を及ぼしにくく、**継続的デプロイ(CI/CD)**にも適しています。実際、大規模サービスのNetflixがモノリシックな構造からマイクロサービス群に移行し、現在数百以上のマイクロサービスが独立稼働していることは有名です ( Microservices vs. monolithic architecture | Atlassian )。このように、マイクロサービスは大規模・複雑なシステムの開発・運用を効率化するアーキテクチャとして注目されています。
マイクロサービスの留意点: 一方で、全てのプロジェクトにマイクロサービスが適しているわけではありません。サービスが増えると運用管理の複雑さが増大します。サービス間の通信エラーへの対処(リトライやサーキットブレーカーの実装)、分散トレーシングによるデバッグ、各サービスのバージョン管理や、デプロイパイプラインの整備など、モノリスには無かった運用上の課題が出てきます。また、データの一貫性保持やトランザクションをまたぐ処理の実現も難易度が上がります。そのためDevOps文化の定着や高い自動化レベルが求められ、組織的な準備が必要です。
総じて、マイクロサービスアーキテクチャは**「疎結合で拡張性に優れるが、運用負荷が高い」**という特徴があります。基本設計でこのアーキテクチャを選ぶ際は、システムの規模やチーム体制、運用コストとのバランスをよく検討しましょう。
クラウドネイティブ設計のメリット
クラウドネイティブ(Cloud Native)とは、クラウド環境の特性を最大限に活かす設計手法・思想のことです。具体的には、コンテナやコンテナオーケストレーション(例: Kubernetes)、サーバーレス、マイクロサービス、**継続的インテグレーション/デリバリー(CI/CD)**などを駆使して、スケーラブルで柔軟なシステムを構築するアプローチを指します。クラウドネイティブ設計を採用することで、以下のようなメリットがあります (10 Major Benefits of Cloud-Native Application Development):
- スケーラビリティと柔軟性: 必要に応じてリソースを自動で拡張・縮小できるため、負荷変動に強くなります。マイクロサービス+コンテナにより、特定のサービスだけを個別にスケールアウト可能です。
- 開発スピード向上: クラウドのマネージドサービス(データベースや認証基盤など)を活用することで、ゼロから構築する手間が省けます。また、コンテナイメージを使ったデプロイにより環境依存問題が減り、リリースサイクルを短縮できます。
- DevOps効率の改善: CI/CDパイプラインの自動化により、人手によるデプロイ作業を減らしつつ高頻度なデプロイが可能になります。**「より早く、より安全に、より多くデプロイできる」**環境が整うため、ビジネス要求への迅速な対応が可能です (10 Major Benefits of Cloud-Native Application Development)。
- コスト最適化: クラウドでは使った分だけ課金されるモデルが多いため、リソースを弾力的に制御することで無駄なインフラコストを削減できます。オンデマンドでサーバーを増減でき、ピーク時以外は縮退運転するなどの工夫も簡単です。
- 信頼性・可用性: クラウドの分散設計やマルチAZ配置、オートヒーリング機能により、従来より高い可用性を低コストで実現できます。障害発生時も自動で代替インスタンスが立ち上がる、といった仕組みを組み込みやすくなっています。
ただし、クラウドネイティブを実現するには最新技術へのキャッチアップやインフラ自動化のスキルが必要です。また、クラウドサービスに依存しすぎるとベンダーロックイン(特定クラウドに縛られる)のリスクもあるため、アーキテクチャ設計時にポータビリティも考慮しましょう。
クラウドネイティブ設計は今やモダンな開発では主流となりつつあります。2025年までに新規のデジタルワークロードの95%超がクラウドネイティブでデプロイされるとも予測されており (10 Major Benefits of Cloud-Native Application Development)、この流れに対応できるエンジニアリング体制を整えることが企業競争力にも直結すると言えます。
セキュア設計の重要性
昨今、システムのセキュリティ確保は経営レベルでも重要課題となっており、**「セキュア・バイ・デザイン(Secure by Design)」**という考え方が浸透してきています。これは文字通り、設計の段階からセキュリティを組み込むアプローチです。開発終盤になってからセキュリティ対策を付け足すのではなく、最初から安全なアーキテクチャとコーディングを計画することで、脆弱性の入り込む余地を極力減らします (7 Principles of Secure Design in Software Development | Jit)。
セキュア設計の具体的な実践としては、以下のようなものがあります。
- 脅威モデルの作成: 設計段階でシステムの脅威モデルを作り、考え得る攻撃シナリオとその対策を洗い出します。例えば「SQLインジェクション」「XSS攻撃」「不正アクセス」などのリスクを検討し、防御策を設計に盛り込みます。
- セキュリティ設計原則の適用: 「最小権限の原則」や「セキュアデフォルト」「完全な仲介」など、基本的なセキュリティ原則に基づいてシステム設計を行います。不要な機能は無効化し、デフォルトではアクセスを拒否し、重要データは伝送・保存時に暗号化するといった方針を決めます。
- ライブラリ/フレームワークの選定: セキュリティ実績の高いライブラリを選び、最新のパッチ適用計画も立てます。例えば認証は実績あるOSSライブラリを使う、通信にはHTTPSを強制するなどです。
- セキュリティテスト計画: 単体テストや結合テストの段階でセキュリティテスト(静的解析や動的スキャン)を組み込みます。脆弱性検査ツールをCIに導入し、脆弱性が検出されたらビルドを失敗させる、といった仕組みも検討します。
セキュア・バイ・デザインを実践すると、リリース時点でセキュリティ面の安心感が格段に高まります (7 Principles of Secure Design in Software Development | Jit)。実際、開発初期からセキュリティを考慮することで攻撃可能な箇所(アタックサーフェス)を劇的に削減でき、結果的に市場投入後のセキュリティ事故リスクとその対応コストを大幅に下げられることが報告されています (7 Principles of Secure Design in Software Development | Jit)。
重要なのは、開発チーム全体で**「セキュリティは自分たちの責任」という意識を持つことです。これが昨今注目されるDevSecOps**(開発・セキュリティ・運用の一体化)の考え方でもあります。セキュリティ専門チームだけに任せるのではなく、設計者・開発者自身がセキュリティを組み込んだ設計を行い、定期的に見直す体制を築きましょう。
設計書のサンプルと解説
基本設計書の例
基本設計書は、ユーザー要求を満たすためのシステムの大枠を定義したドキュメントです。ここにはシステムの外観や振る舞い、非機能要件などが盛り込まれます。主な構成要素の例を挙げると:
- システム概要: 開発するシステムの目的や背景、全体像の説明。
- 機能一覧と画面一覧: 提供する機能のリストや、それに対応する画面(UI)のリストを整理。
- 画面レイアウト設計: 各画面のワイヤーフレームやデザイン案。 (File:Wireframe Example.jpg – Wikimedia Commons)例えば基本設計では右図のような画面ワイヤーフレームを作成し、レイアウトや項目配置を検討します。ワイヤーフレームにより画面の完成イメージを共有し、UI/UXの改善点を早期に洗い出します。
- 画面遷移図: 画面間の遷移パターンを示す図。ユーザーがどう操作すると次にどの画面に行くかを矢印で表し、抜け漏れを確認します。
- システム構成図(アーキテクチャ図): サーバーやモジュールの構成を図示したもの。例えばWebサーバー、アプリケーションサーバー、データベースの関係や外部システムとの接点を図にまとめます。
- 機能詳細: 各機能の仕様をユーザー視点で記述します。画面毎の入力項目とそのバリデーション、ボタン操作時の動作、出力帳票のレイアウトなど、ユーザーに見える挙動を中心に定義します。
- 非機能要件定義: 性能目標(例: 同時ユーザ100人でレスポンス1秒以内)、セキュリティ要件(例: パスワードはハッシュ化保存)など、非機能面の達成基準を書きます。
- 外部インターフェース仕様: 他システムやハードウェアとの連携がある場合、そのデータ連携方式やプロトコル、インターフェース仕様をまとめます。
基本設計書は主に発注者や非IT部門の人々にも理解してもらうための資料でもあります。専門用語ばかりにならないよう平易な言葉で書き、図表を使って視覚的に訴えることがポイントです。また、基本設計書の承認をもって開発フェーズに進むプロジェクトも多いため、この文書自体が契約上の成果物となるケースもあります。実務ではWordやExcelで作成されることが多いですが、内容が冗長にならないよう見出しを整理し、誰が読んでも必要十分な情報が伝わる構成にすることが大切です。
詳細設計書の例
詳細設計書は、基本設計を受けて開発者が実装できるレベルに細分化した仕様書です。プログラマにとっての道しるべとなる情報が詰まっており、基本設計書より技術的・具体的な記述になります。典型的な詳細設計書の内容は次のとおりです。
- プログラム構造: システムを構成するサブシステムやモジュールの分割図、およびそれぞれの役割を記載します。モジュール間の呼び出し関係や依存関係もここで整理します(モジュール構成図)。
- クラス設計(オブジェクト指向の場合): 各クラスの属性・操作(メソッド)とクラス間の関係を定義します。UMLのクラス図を用いて表現することが多いです。 (File:Example of Facade design pattern in UML.png – Wikimedia Commons)右図はUMLクラス図の一例で、あるデザインパターン(ファサードパターン)のクラス関係を示しています。詳細設計ではこのようにクラス間の関連やメソッドの振る舞いを図示し、オブジェクト構造を明確にします。
- 処理フロー: 複雑な処理手順はフローチャートやシーケンス図で表します。特に他モジュールや他システムとのやり取りを含む場合、シーケンス図で時系列に沿ったメッセージ遷移を描くことで、抜け漏れのない実装を支援します (詳細設計の成果物は何が重視される? 進め方や注意点を紹介 | 株式会社GeNEE(ジーン))。
- 画面詳細: 画面毎の項目IDや表示内容、画面ロジック(入力チェックの細かな仕様など)を記載します。基本設計の画面項目定義をさらに発展させ、UI部品の挙動やエラーメッセージ文言など具体的に落とし込みます。
- データベース詳細設計: テーブル定義書として、テーブルごとのカラム一覧・データ型・制約(NOT NULLやUNIQUEなど)を詳細に記載します。加えてインデックス設計や初期データ、ストアドプロシージャ/トリガの仕様もここに含めます。
- インターフェース仕様(内部API仕様): モジュール間で呼び出す関数やAPIの仕様を定義します。関数名、引数・戻り値の型と意味、例外発生時の扱いなどを明文化します。WebAPIであればエンドポイントURL、パラメータ、レスポンスJSONのフィールド定義等も含みます。
- エラーハンドリング & ロギング: エラー発生時の処理方針(リトライするか中断するか、ユーザーにはどう通知するか)や、ログの出力項目・形式・タイミングについて決めます。障害解析をしやすいように、どの処理で何をログ出力するかまで設計しておくと万全です。
- コーディング規約の詳細: コーディング標準で決めた内容を踏まえ、命名のプレフィックス/サフィックス規則や、特定言語の場合はパッケージ構成、コードコメント記述ルールなど細かな取り決めを書いておきます。
- テスト観点一覧: 単体テストや統合テストで検証すべき項目を洗い出しリスト化します(これはテスト設計書として別文書にすることもあります)。詳細設計段階でテスト観点を考慮しておくと、実装漏れ防止につながります。
詳細設計書は基本的に開発チーム内の資料であり、外部に提出しないケースもあります (詳細設計の成果物は何が重視される? 進め方や注意点を紹介 | 株式会社GeNEE(ジーン))。そのためプロジェクトによって形式は様々ですが、最終的にこの詳細設計書をもとにコーディングと単体テストが行われることになります (詳細設計の成果物は何が重視される? 進め方や注意点を紹介 | 株式会社GeNEE(ジーン))。実務では、詳細設計書を作り込みすぎず実装をしながら随時補完していくアジャイルな手法も取られますが、未経験者が多いチームや安全重視の開発では詳細設計書を丁寧に作成する方が結果的に効率良い場合もあります。
重要なのは、詳細設計書を最新の状態に維持することです。実装中に仕様変更や微修正が発生した際、その都度詳細設計書に反映させてドキュメントと実装の不整合を防ぎます。リリース後も詳細設計書が正しければ、数か月後・数年後の機能追加時に素早くシステムを理解でき、保守性が格段に上がります。設計書自体が生きた財産となるよう、実装とセットで管理する習慣をつけましょう。
まとめ – 設計フェーズの成功がプロジェクトを左右する
ソフトウェア開発の設計フェーズで注意すべき点を技術面・ビジネス面から見てきました。要点を振り返ると、まず設計の出来がプロジェクト全体の品質・納期・コストを大きく左右するため、時間をかけてでも堅実に取り組む価値があるということです。基本設計と詳細設計を使い分け、それぞれの目的(ユーザー視点か開発者視点か)を意識して、漏れのない設計を心がけましょう。
技術的視点では、適切なアーキテクチャ選定やUI/UXデザイン、そして非機能要件の考慮が将来の成功に直結します。ビジネス的視点では、要件を確実に満たしつつコスト・納期内で収めるために、設計段階での合意形成や文書化が重要です。最新動向として紹介したAIの活用やマイクロサービス、クラウドネイティブ、セキュア設計といった要素も、プロジェクトに応じて柔軟に取り入れることで競争力の高いシステムを実現できます。それぞれ新しい概念ですが、基本を押さえた上で部分的に採用するだけでも大きな効果を生むでしょう。
最後に強調したいのは、**「設計に始まり設計に終わる」**という姿勢です。設計フェーズで明確になったゴールと青写真があるからこそ、開発チームは迷わず進めますし、関係者も安心してプロジェクトを見守れます。設計段階の成功なくして、開発段階・テスト段階の成功はあり得ません。ぜひ本記事のポイントを参考に、実務に役立つ設計を行ってみてください。設計フェーズを制する者がプロジェクトを制する──その意気込みで取り組むことで、あなたのプロジェクトもきっと良い成果に結びつくはずです。 (The Cost of Finding Bugs Later in the SDLC) (詳細設計の成果物は何が重視される? 進め方や注意点を紹介 | 株式会社GeNEE(ジーン))