出生前診断とは、出生前に胎児の健康状態や遺伝的な異常の有無を調べる検査の総称です。妊娠中に行う超音波検査や血液検査などのスクリーニング検査(非確定的検査)によって胎児に異常の可能性を評価し、必要に応じて羊水検査などの確定検査で最終的な診断を行います (諸外国における出生前診断・着床前診断に対する法的規制について) (新型出生前診断の倫理的側面 | DNA先端医療)。近年、新たな検査法として**NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)**が登場し、胎児のDNA断片を母体血から分析することでダウン症候群などの染色体異常のリスクを高精度に推定できるようになりました。一方で、出生前診断の結果を踏まえた選択的中絶(いわゆる「命の選別」)に関する倫理的議論も高まっており、検査の提供体制や情報提供のあり方について各国でさまざまな制度・指針が整備されています。本記事では、従来から行われてきた出生前診断の方法とNIPTを含む最新技術、それらを巡る倫理的・社会的観点、日本と海外の制度・普及状況の比較について総合的に解説します。

出生前診断の一般的な流れ
通常、妊娠が確認された後の初期健診で胎児の超音波検査が行われ、妊娠週数の推定や多胎の確認など基本的な情報が得られます。その後、希望や医師の勧めに応じて、母体血を用いた非確定的検査(スクリーニング検査)を行います。代表的なものに母体血清マーカー検査(血液中のホルモン値等から胎児の異常リスクを推定)やNIPT(母体血中の胎児由来DNA片から染色体異常リスクを分析)があります。スクリーニング検査の結果、胎児に異常の可能性が高いと判定された場合、最終確認のために確定的検査である羊水検査や絨毛検査が提案されます。確定検査では胎児の細胞やDNAを直接調べるため、診断精度は非常に高くなります。確定検査の結果、胎児に異常が確認された場合、医療スタッフと十分なカウンセリングを行ったうえで、出産を継続するか妊娠を中断(中絶)するかといった選択肢について検討することになります。一方、スクリーニング検査で異常リスクが低いと判断された場合や、確定検査の結果異常が見つからなかった場合は、通常の妊婦健診体制に戻り出産に向けた準備を進めます。
(※出生前診断の大まかなフロー:非確定的検査(超音波・血液検査) → 異常リスク高 → 確定的検査(羊水・絨毛検査) → 結果説明・意思決定(出産継続 or 中絶))
従来の出生前診断法
胎児超音波検査(エコー検査)
超音波検査(エコー)は母体のお腹にプローブを当て、超音波を用いて子宮内の胎児の様子を観察する検査です。妊婦健診のたびに簡易な超音波チェックは行われますが、出生前診断の文脈では、より長時間かけて詳しく胎児の状態を調べる精密超音波検査が重要です (胎児超音波検査とは | 出生前検査認証制度等運営委員会)。妊娠初期(妊娠11~14週頃)には首のむくみ(項部透明帯)の計測や器官形成の確認、中期(18~20週頃)には臓器や骨格の詳細な形態チェックが行われます。超音波検査では、心臓の構造異常、消化管の閉塞、脳や脊椎の奇形など胎児の形態的異常を発見することができます。非侵襲的で母体や胎児へのリスクはなく繰り返し実施できる利点がありますが、小さな異常の発見には検査者の熟練度も影響します。また、超音波検査だけでは染色体や遺伝子の異常は直接分からないため、必要に応じて他の検査と組み合わせます。
母体血清マーカー検査(血清マーカーテスト)
母体血清マーカー検査は母体の血液中に含まれる特定の物質濃度を測定し、胎児の染色体異常や神経管閉鎖障害の確率(リスク)を推定するスクリーニング検査です。代表的なものにクアトロテスト(4種のホルモン・タンパク質を測定)があり、妊娠15~20週頃に実施されます (母体血清マーカー検査とは | 出生前検査認証制度等運営委員会)。血液中のAFP(αフェトプロテイン)、hCG、エストリオール、インヒビンAの値と母体の年齢・体重などからダウン症(21トリソミー)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、開放性神経管奇形の3つの異常について胎児がその疾患である可能性を確率で示します。結果は例えば「1/300未満で陽性」のように判定され、陽性(スクリーニング陽性)と出た場合は胎児に異常がある可能性が相対的に高いことを意味しますが、実際には健常である偽陽性も多く含まれます。そのため陽性時には確定診断のための羊水検査等が強く推奨されます。一方、陰性の場合には胎児にその疾患がない可能性が非常に高いと判断できます。母体血清マーカーは妊婦への負担が採血のみと少なく比較的安価なため広く行われてきましたが、検査精度(ダウン症の検出率は約80%前後、5%程度の偽陽性率)が限界とされ、近年ではより精度の高いNIPTの登場により実施件数は減少傾向にあります。
絨毛検査(CVS)と羊水検査
絨毛検査と羊水検査は、いずれも胎児由来の細胞を直接採取して染色体や遺伝情報を調べる確定的検査です。いずれも侵襲的手法(母体に針を刺す処置)であるため流産などのリスクがありますが、胎児の遺伝学的異常を確定診断できるのが大きな特徴です。
絨毛検査(絨毛膜採取: CVS)は妊娠11~14週頃と比較的早期に行える確定検査です (絨毛検査とは | 出生前検査認証制度等運営委員会)。超音波で胎盤の位置を確認しながら母体腹部から細い針を刺して絨毛組織の一部を採取します。胎盤由来の絨毛細胞は受精卵に由来するため胎児と原則同じ遺伝情報を持っており、採取した細胞を用いて胎児の染色体数の異常(例: ダウン症など)や場合によっては特定の遺伝子疾患の有無を調べることができます。絨毛検査では0.5~1%程度とされる流産リスクが報告されています。結果が出るまで2~3週間かかりますが、中期の羊水検査より早く結果を得られる利点があります。
羊水検査(羊水穿刺)は妊娠15~16週以降に行われる代表的な確定検査です (羊水検査とは | 出生前検査認証制度等運営委員会)。超音波で胎児や胎盤の位置を確認しつつ、母体の腹部から細い針を刺して子宮内の羊水を約20ml採取します。羊水中には胎児から剥がれ落ちた細胞が含まれているため、それを培養して胎児の染色体異常(数的・構造的異常)の有無を調べます。場合によっては培養せず直接DNA解析(QF-PCR法等)して数日で主要な異常だけを調べる迅速検査も併用されます。羊水検査に伴う流産リスクは約0.3%と報告されており、非常に低いものの侵襲を伴う以上ゼロではありません。結果が判明するまで2~3週間程度かかります。羊水検査では胎児の全染色体を対象に調べられるため、ダウン症をはじめあらゆる染色体数の異常や大きな染色体構造異常を診断できます。また採取した細胞を用いて、必要に応じて遺伝子レベルの検査(遺伝子変異の有無など)も行うことができます。以上のように確定検査は診断精度が高いため、スクリーニング検査で陽性リスクが示された妊婦に対して提供されます。ただし侵襲的で費用も高額になるため、全妊婦に一律に行われるものではありません。
NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)
NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)は母体の血液中に存在する胎児由来の遺伝情報を分析することによって胎児の異常リスクを推定する新しい検査法です。母体の血液には妊娠中期以降、胎盤由来の胎児cfDNA(細胞から遊離したDNA断片)が約10%程度含まれることが知られており (NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)とは | 出生前検査認証制度等運営委員会)、これを次世代シーケンサーなどで解析することで胎児の遺伝学的情報を得ることができます。NIPTは妊娠10週以降と比較的早い時期から母体血を10~20ml採取するだけで実施でき、結果が判明するまでに1~2週間程度を要します。検査の対象となる疾患は主に21トリソミー(ダウン症候群), 18トリソミー(エドワーズ症候群), **13トリソミー(パトウ症候群)の3種類です。従来の母体血清マーカーよりも検出精度が高く、ダウン症候群については感度・特異度とも約99%に達するとの報告もあります。また偽陽性率が低いため、NIPT導入後は確定検査(羊水検査)の施行件数が世界的に減少したことが明らかになっています。一方でNIPTもあくまで非確定的検査(スクリーニング検査)**であるため、陽性結果が出た場合には確定診断のための侵襲的検査が必要です (新型出生前診断の倫理的側面 | DNA先端医療)。NIPTの結果解釈には遺伝カウンセリングが不可欠であり、検査精度は妊婦の年齢等により変動する点にも注意が必要です。例えば母体年齢が若い場合、陽性的中率(陽性と判定されたうち実際に胎児がその異常をもつ確率)は下がる傾向があり、25歳妊婦で13トリソミー陽性と言われた場合の陽性的中率は20%未満と報告されています。NIPTは当初、対象疾患を上記3トリソミーに限定して臨床導入されましたが、その高い精度や安全性から希望者が増えつつあります。日本でも2013年より臨床研究として35歳以上の妊婦を対象に提供が開始され、2022年には指針の改定により年齢制限なく希望者に提供できる体制へ移行しました(いずれも要遺伝カウンセリング)。ただし現在の認証施設では検査対象を3トリソミーのみに限定して運用しており、性染色体異常やその他の微小な異常については結果を報告していません(認証外の一部施設では独自に微小欠失症候群などの検査を実施)。このようにNIPTは急速に普及しつつありますが、その活用法については慎重な議論も必要とされています(詳細は後述の倫理的観点を参照)。
最新の遺伝子検査技術の動向
NIPT以外にも、近年の遺伝学的検査技術の進歩により胎児のあらゆる遺伝情報を解析することも可能になりつつあります。代表例が**染色体マイクロアレイ検査(CMA)と全エクソーム/全ゲノム解析(WES/WGS)**です。
染色体マイクロアレイ(CMA)は胎児のゲノム上の微小な欠失や重複(マイクロ欠失症候群など)を網羅的に検出できる方法です。従来の染色体検査(核型分析)が見逃す数百万塩基未満の微細な異常も検出可能であり、特に超音波で構造異常が疑われた胎児では約5~6%の症例で核型正常でもCMAにより異常が判明したとの報告があります。またCMAは細胞培養を必要としないため結果報告までの時間を短縮できる利点もあります。現在、アメリカ産婦人科学会(ACOG)などは侵襲的確定検査を行う場合、従来の核型分析に代えてCMAを第一選択とすることを推奨しています。一方でCMAにより偶発的な所見(臨床的意義が不明なコピー数変異など)が判明するケースもあり、結果の解釈には高度な知識とカウンセリングが必要です。
全エクソーム解析(WES)・全ゲノム解析(WGS)は胎児の全遺伝子情報を網羅的に解読しようとする最先端の検査です。近年、出生前の超音波検査で原因不明の重篤な奇形が見つかった場合に、羊水や絨毛から抽出したDNAを用いてWESを実施し原因遺伝子を特定するといった試みが報告されています。また研究段階ではありますが、両親のDNA情報を組み合わせて母体血中の微量な胎児DNA配列から胎児の全ゲノム配列を推定するという非侵襲的全ゲノム解析も実施例があります ([EPUB] Noninvasive Prenatal Whole Genome Sequencing: Pregnant …)。WGSは100ナノグラム程度のDNAがあればほぼ全てのタイプの遺伝変異を検出でき、既存手法では困難な構造変異の同定や迅速な結果報告も可能であることが示されています ( Whole Genome Sequencing in the Evaluation of Fetal Structural Anomalies: A Parallel Test with Chromosomal Microarray Plus Whole Exome Sequencing – PMC ) 。一部の研究では、WGSを用いることで従来の方法では16%だった診断率が32%に向上した(胎児のNT肥厚例での検討)との報告もあり、診断的価値の向上が期待されています。ただしWES/WGSでは将来発症し得る成人疾病の素因など出生直後には不要な情報まで得られてしまう可能性があるため、どこまで結果を知らせるかといった倫理指針作りが重要です。また解析・解釈に高度な専門知識を要し費用も高額なため、現時点では臨床研究的な位置づけですが、今後の技術普及によって出生前診断のあり方がさらに大きく変わる可能性があります。
以上、従来からの検査法と新しい技術をまとめると次のようになります。
【表1:主な出生前診断技術の比較】
検査法 | 検出可能項目 | 検査時期 | リスク | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
胎児超音波検査 | 胎児の形態異常(臓器の構造異常など)、発育状態などjams-prenatal.jp | 妊娠初期~後期(11~14週、18~20週頃に詳細検査) | なし(非侵襲) | 数千円程度(妊婦健診として実施、公費補助あり) |
母体血清マーカー検査 | ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、神経管閉鎖障害のリスクjams-prenatal.jp | 妊娠15~20週jams-prenatal.jp | なし(母体採血) | 2~3万円程度jams-prenatal.jp |
絨毛検査(CVS) | 胎児の染色体異常、特定の遺伝子疾患の確定診断 | 妊娠11~14週jams-prenatal.jp | 流産リスク約1%jams-prenatal.jp | 約10~20万円jams-prenatal.jp |
羊水検査 | 胎児の染色体異常、先天性疾患の確定診断 | 妊娠15~16週以降jams-prenatal.jp | 流産リスク約0.3%jams-prenatal.jp | 約10~20万円jams-prenatal.jp |
NIPT(新型出生前診断) | 21,18,13トリソミーの胎児の染色体異常リスク(非確定的検査)jams-prenatal.jp | 妊娠10週以降jams-prenatal.jp | なし(母体採血) | 約10~20万円 |
高度な遺伝学的検査(CMA・WES・WGS等) | マイクロ欠失など微小な染色体異常、単一遺伝子変異等pmc.ncbi.nlm.nih.gov | 妊娠中(主に侵襲的検査で検体採取後) | 検体採取に伴うリスク(羊水採取など) | 数十万~数百万円(特殊検査、研究段階) |
補足: 費用は日本における目安(自費診療の場合)を示します。NIPTは約10~20万円程度、羊水・絨毛検査も施設により10~20万円前後の自己負担となるケースが一般的です(いずれも公的保険適用外)。母体血清マーカーは数万円と比較的安価ですが、精度が劣るため近年はNIPTに置き換わりつつあります。また超音波検査は妊婦健診の一環として公費補助の範囲で実施されます。
出生前診断を巡る倫理的・社会的観点
出生前診断の普及に伴い、倫理的・社会的な課題もクローズアップされています。最も大きな論点の一つが、診断によって判明した胎児の異常を理由に中絶を選択することが「命の選別」につながるのではないかという懸念です (新型出生前診断の倫理的側面 | DNA先端医療)。特にNIPTの登場で誰もが比較的容易に高精度の情報を得られるようになったことで、障害のある子どもを社会から排除する方向に拍車がかかるのではないかと障がい者団体などから危惧する声が上がっています。フランスでは生命倫理法により**「選別を目的とした優生学的行為の禁止」**が明文化されており、出生前診断はあくまで「胎児の特に重篤な疾患を発見するための医療行為」と定義されています (諸外国における出生前診断・着床前診断に対する法的規制について)。これは出生前診断が障害の有無による選別の道具になってはならないという倫理観に基づくものです。
もっとも、出生前診断を受けること自体は妊婦の自己決定権の一部であり、結果を知ることで出産に向けて心構えや医療準備をするポジティブな目的もあります (新型出生前診断の倫理的側面 | DNA先端医療)。実際に異常が判明した場合でも、中絶を強制されるものではなく、夫婦が十分な情報とカウンセリングを得た上で最終的に決断を下すことが重要です。そのため各国で遺伝カウンセリングの充実やインフォームド・コンセントの徹底が求められています。例えば日本ではNIPT実施に際し認証施設で遺伝カウンセリングを必須としていますし、フランスでも出生前診断の実施は事前の遺伝カウンセリングを受けることが法律上定められています (諸外国における出生前診断・着床前診断に対する法的規制について)。十分な説明なく検査が行われたり、結果の伝え方によって妊婦に中絶の圧力がかかったりしないよう、検査提供側の倫理的配慮と制度的枠組みが欠かせません。
さらに、検査で得られた遺伝情報のプライバシー保護も社会的課題です。中国ではNIPT検査データが国によって管理・二次利用されている可能性が指摘され問題視されています (Understanding NIPT (Non-Invasive Prenatal Testing) in China: Targeted Diseases & Testing Rates | Hiro Clinic | (EN))。出生前診断は極めて個人性の高い情報を扱うため、その取扱いについても慎重に議論する必要があります。
日本と海外における制度・規制・普及状況の比較
出生前診断の提供体制や普及の状況は国により大きく異なります。以下では日本、米国、ドイツ、中国、韓国を中心に各国の制度・指針の特徴を比較します。
日本
日本では法律による明確な規制はなく、主に日本産科婦人科学会などの学会指針によって枠組みが定められてきました (諸外国における出生前診断・着床前診断に対する法的規制について)。従来、母体血清マーカー検査や超音波検査は各医療機関で任意に実施されていましたが、2013年開始のNIPTについては学会の倫理指針により実施施設や対象妊婦の要件が厳格に定められました。具体的には当初、35歳以上の高齢妊婦や過去に染色体異常の児を妊娠・出産した経験がある妊婦などに限定し、認定を受けた医療機関で遺伝カウンセリング体制の下でのみ実施するという運用が取られました。2022年の新指針では一定の研修を受けた産科医のいる施設であれば35歳未満にも提供可能となり、対象範囲が拡大されています。いずれにせよ日本では現状、出生前診断は公的医療保険の適用外で全て自費負担(例えばNIPT約19万円)となっており ( Non-Invasive Prenatal Testing (NIPT) Implementation in Japan: A Comparison with the United Kingdom, Germany, Italy, Sweden, and Taiwan – PMC )、経済的ハードルは高いです。その影響もあってか普及率は低く、NIPTも含めた出生前診断全般を受ける妊婦は全体のわずか数%程度と推計されています (NIPT(新型出生前診断)アメリカと日本はどう違う?日本で唯一行 …)。これは欧米に比べ極めて低い数字です。また日本の母体保護法では胎児異常は人工妊娠中絶の適法事由に含まれておらず、中絶が認められるのは妊娠21週6日まで(経済的理由または母体の健康上の理由等)となっています。そのため胎児に重篤な異常が判明しても、妊娠22週以降は原則出産に至るケースもあります。日本では出生前診断そのものに慎重・否定的な意見も根強く、国による法規制は行われていませんが、一方で検査を望む妊婦に適切な情報提供や支援を行う体制整備が課題となっています。
アメリカ(米国)
米国では出生前診断は医療サービスの一部として広く提供されており、専門学会(ACOG等)のガイドラインに基づきすべての妊婦に対して何らかのスクリーニング検査を提案することが推奨されています (ヒロクリニック NIPT(出生前診断)海外事情 ┃出生前診断とはの種類デメリット中絶率)。超音波検査は妊娠中に複数回行われ、血清マーカーやNIPTも希望すれば受けられます。NIPTは2011年に導入されて以来急速に普及し、現在では妊婦の**25~50%**程度がNIPTを受けていると報告されています (ヒロクリニック NIPT(出生前診断)海外事情 ┃出生前診断とはの種類デメリット中絶率)。公的医療保険制度がない米国では費用負担は加入する民間保険によりますが、高リスク妊婦の場合は多くの保険でNIPT費用がカバーされ、近年はリスクに関わらず補償する保険も増えています。中絶に関しては各州の法律に委ねられており、妊娠中期以降の制限は州によって様々です(2022年以降、中絶を大幅に禁止する州も出現しています)。全体として米国では出生前診断は「受けるのが当たり前」の医療行為として定着しており、検査結果に基づく対応も各家庭の選択に委ねるというスタンスが一般的です。
ドイツ
ドイツでは長年、出生前診断の提供に慎重な姿勢を取ってきました。NIPTについては2012年に導入されましたが、当初は高リスク妊婦に対して私費診療で提供されるに留まっていました。その後、連邦合同委員会(G-BA)の決定により2019年に公的医療保険での補助適用が認められ、2022年から条件を満たす妊婦には健康保険でNIPT費用がカバーされています ( Non-Invasive Prenatal Testing (NIPT) Implementation in Japan: A Comparison with the United Kingdom, Germany, Italy, Sweden, and Taiwan – PMC )。適用条件としては、まず妊娠11~13週頃に行う一次スクリーニング(超音波+血清マーカーのコンバインド検査)を全妊婦に提供し、その結果胎児の異常リスクが高いと判定された場合に限り二次スクリーニングとしてNIPTを行うという流れです。リスクカットオフ値は明確に設けず、医師の判断で統計的に高リスクと考えられる妊婦にNIPTを提供します ()。このように公的保険下で計画的に提供することで、不必要な不安の喚起や「障害胎児の淘汰」への懸念に配慮しています。またドイツの中絶法制では、妊娠12週までの中絶は法律上は原則禁止されつつも妊娠葛藤相談を受ければ処罰が免除される仕組みになっており、胎児異常自体を直接の中絶理由とはしていません(母体の生命・健康が危険にさらされる場合を除く)。この背景には、優生的な選別につながりかねない出生前診断には慎重であるべきとの倫理観が影響しています。ただし近年は他国同様に高齢妊娠の増加もあり、必要な情報を得る手段として出生前診断を公的医療の中に組み込み、平等なアクセスを保障する方向へ舵を切っています。
中国
中国では2011年に香港でNIPTが導入され、その後本土でも広く普及しました (Understanding NIPT (Non-Invasive Prenatal Testing) in China: Targeted Diseases & Testing Rates | Hiro Clinic | (EN))。当初、出生前診断に関する明確な規制がなかったため民間業者による自由な提供が行われていましたが、2016年に国家衛生計画生育委員会がガイドラインを制定し、公的管理を強化しています。現在は各自治体の出生前スクリーニング事業にNIPTが組み込まれ、高リスク妊婦(従来の血清マーカー検査で陽性となった人など)を中心に実施されています。自己負担で受ける検査ではありますが、都市部の大病院を中心に受検率は高く、推定で25~50%の妊婦がNIPTを利用しているとされています。中国では長らく一人っ子政策が取られていた影響もあり、男児偏重の文化が根強かったため胎児の性別を教えることは法律で禁止されています(出生前診断で性別判明しても医師は通知不可)。そのためNIPTでも性染色体の解析結果は知らせない運用です。中絶は妊娠14週以降は医学的適応が必要ですが、胎児に重度の障害がある場合は比較的柔軟に認められているようです(医師の証明により妊娠週数にかかわらず中絶可能とする報告もあります)。中国は出生前診断技術の研究開発にも注力しており、NIPTを開発した華大基因(BGI)社のように軍と連携して大規模な遺伝データを蓄積している機関もあります。そのデータ管理の在り方については国際的な議論を呼んでいます。
韓国
韓国でも出生前診断は広く浸透しています。母体血清マーカー検査は国民健康保険で補助されており95%以上の妊婦が受けているとの報告があります (Korean physicians’ attitudes toward the prenatal screening for fetal …)。NIPTについては2013年頃から導入され、多くの民間医療機関で任意検査として提供されています。公的医療保険の適用はまだ無く全額自己負担ですが (EE410 Budget Impact Analysis of NIPT Coverage in Korea)、それでも利用希望者は多く、特に高齢妊婦の間では標準的な検査となりつつあります。韓国の中絶法制はかつて非常に厳格でしたが、2019年に憲法裁判所が中絶罪を違憲と判断し法改正が行われました。現在は妊娠14週までの自己意思による中絶が可能で、15~24週も胎児の重度異常など一定の事由があれば認められます。こうした動きもあって、出生前診断で異常が判明した場合の選択肢についても以前より開かれた議論ができる環境になりつつあります。
以上のように各国の状況をまとめると、日本は指針による制限が厳しく普及率が低いのに対し、米国や中国は比較的自由に提供され普及率も高い傾向があります。欧州(ドイツなど)では公的管理の下で高リスク群に限定して提供するなど、中間的なアプローチが取られています。下表に主要国の制度の違いをまとめます。
【表2:各国における出生前診断(NIPT中心)の制度比較】
国・地域 | NIPT提供条件 | 費用・保険 | 普及状況・その他 |
---|---|---|---|
日本 | 学会指針により高リスク妊婦に限定(35歳以上、所見有など) | 自費約19万円(公的保険適用なし)pmc.ncbi.nlm.nih.gov | 認可施設で実施(遺伝カウンセリング必須)。実施率低(数%)cem-clinic.com |
米国 | 専門学会の勧告で全妊婦に提供可(リスク問わず) | 約700~1500ドル(公的医療保険なし、民間保険で補償) | 導入2011年、妊婦の25~50%が受検hiro-clinic.or.jp。州法により中期以降の中絶制限あり |
ドイツ | 1次スクリーニングで高リスクの場合に提供(リスク基準値は設定せず) | 高リスク妊婦には公的医療保険で補助(自己負担減) | 2019年公的保険適用決定。妊娠12週まで中絶可(要カウンセリング)pmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov |
中国 | 高リスク妊婦を中心に提供(従来の非侵襲的検査陽性者など) | 自費(公的保険適用なし) | 2011年導入(胎児の性別告知は禁止)hiro-clinic.or.jp。都市部で広く普及(約25~49%が受検)hiro-clinic.or.jp |
韓国 | 制限なし(希望すれば受検可能) | 自費(公的保険適用なし) | 普及率高(任意検査として広く実施)。近年中絶規制が緩和 |
各国とも出生前診断の情報提供やカウンセリング体制の充実が図られている点は共通していますが、検査を受けるか否か、結果にどう対処するかは最終的に妊婦・カップルの意思に委ねられます。その意思決定を支えるためにも、正確な知識と支援体制を社会全体で整備していくことが求められています。
参考文献(一部):
- 日本産科婦人科学会『母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針』2013年改定版
- 国立国会図書館調査資料『諸外国における出生前診断・着床前診断に対する法的規制について』Issue Brief No.779, 2013 (諸外国における出生前診断・着床前診断に対する法的規制について)
- 日本医学会「出生前検査認証制度」公式サイト (NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)とは | 出生前検査認証制度等運営委員会) (羊水検査とは | 出生前検査認証制度等運営委員会) (絨毛検査とは | 出生前検査認証制度等運営委員会) (母体血清マーカー検査とは | 出生前検査認証制度等運営委員会)
- Takahashi M, et al. Non-Invasive Prenatal Testing (NIPT) Implementation in Japan: A Comparison with the UK, Germany, Italy, Sweden, and Taiwan. J. Clin. Med. 2022 ( Non-Invasive Prenatal Testing (NIPT) Implementation in Japan: A Comparison with the United Kingdom, Germany, Italy, Sweden, and Taiwan – PMC ) ( Non-Invasive Prenatal Testing (NIPT) Implementation in Japan: A Comparison with the United Kingdom, Germany, Italy, Sweden, and Taiwan – PMC )
- Yang H, et al. Noninvasive prenatal testing in China: future detection of rare genetic diseases?. J Community Genet. 2014 ( Noninvasive prenatal testing in China: Future detection of rare genetic diseases? – PMC )
- 他、各国産婦人科学会ガイドライン、WHOレポートなど。