はじめに
「血液型占い」や「血液型性格診断」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。日本では自分や他人の血液型によって性格や相性を語る文化が根強く、テレビや雑誌でも話題になることがあります。しかし、血液型とは本来どのような生物学的特徴なのでしょうか。また、血液型で性格が決まるという主張に科学的な根拠はあるのでしょうか。本記事では、ABO式血液型やRh式血液型、さらにはHLA型といった血液型の生物学的メカニズムを解説し、血液型と病気の関連について最新の研究を紹介します。さらに、日本で流行した血液型性格診断の歴史と文化的背景を振り返り、それに伴う偏見や差別の問題、そして血液型占いがなぜ広く信じられてしまうのか、社会心理学的な視点から考察します。

血液型を決める生物学的仕組み
ABO式血液型の遺伝子と抗原
ABO式血液型は、赤血球の表面に存在する特定の糖鎖(抗原)の違いによってA型、B型、AB型、O型の4種類に分類されます。この抗原の違いはABO遺伝子によって決定され、A型やB型の遺伝子はそれぞれ酵素(糖転移酵素)をコードして赤血球膜上の糖鎖構造をわずかに変化させ、「A抗原」または「B抗原」を形成します。一方、O型の遺伝子は不活性型であるため糖鎖に変化を起こせず、A/B抗原の基盤となるH抗原のみが残ります (The ABO blood group – Blood Groups and Red Cell Antigens – NCBI Bookshelf)。つまり、A型の赤血球はA抗原のみ、B型はB抗原のみ、AB型は両方の抗原を持ち、O型はどちらの抗原も持たないことになります。
(File:ABO blood type.svg – Wikipedia)ABO式血液型の抗原と抗体の模式図。A型の赤血球(左から2番目)は表面にA抗原(赤紫色の小球)を持ち、B型(中央左)はB抗原(青緑色の多角形)を持つ。AB型(中央右)は両方の抗原を持ち、O型(右端)は抗原を持たない。また各血液型の人の血漿には、自分が持たない型の抗原に対応する抗体(図中下部のY字形)が存在する(例えばA型の人は抗B抗体を持つ) (The ABO blood group – Blood Groups and Red Cell Antigens – NCBI Bookshelf)。
ABO式血液型は1900年にオーストリアの病理学者ランドスタイナーによって発見された最初の血液型システムであり、輸血医療にとって極めて重要です。異なる型の血液を誤って輸血すると、受け手の持つ抗体が提供血液中の赤血球抗原に即座に反応し、赤血球の破壊(溶血)と凝集を引き起こします。その結果、急性の輸血副作用を招き命に関わることがあります (The ABO blood group – Blood Groups and Red Cell Antigens – NCBI Bookshelf)。実際、輸血による死亡事故の多くはABO型の不適合が原因とされるほどです (The ABO blood group – Blood Groups and Red Cell Antigens – NCBI Bookshelf)。従って、輸血や臓器移植の際にはドナーとレシピエントの血液型を正確に調べ、適合する型同士で行う必要があります。
Rh式血液型と「Rh因子」
Rh式血液型(Rhesus式血液型)は、赤血球膜上に別の抗原タンパク質の有無によって分類されます。中でも**RhD抗原(D抗原)**の有無が重要で、**Rh陽性(Rh+)**の人はこのD抗原を持ち、**Rh陰性(Rh-)**の人は持ちません。Rh陰性の人は、自分にD抗原が無いためそれを異物とみなし、Rh+の血液と接触すると抗D抗体(抗Rh抗体)を作ります (ABO and Rh blood types | GetBodySmart)。一方、Rh陽性の人はD抗原を自己の一部として持っているため、通常は抗D抗体を持ちません (ABO and Rh blood types | GetBodySmart)。この性質から、Rh式血液型は輸血や妊娠時の注意点として重要です。
特に妊娠では、Rh陰性の母体がRh陽性の胎児を妊娠した場合に問題が生じます。出産や流産時に胎児のRh+赤血球が母体に入り込むと、母体が抗D抗体を産生し、次の妊娠で胎児(再びRh+であれば)の赤血球を攻撃してしまうことがあります。これを新生児溶血性疾患(HDN)と言い、重症の場合は胎児の貧血や黄疸、最悪の場合は子宮内死亡を引き起こします (ABO and Rh blood types | GetBodySmart)。現在ではRh陰性の妊婦に抗D免疫グロブリン製剤(商品名例:RhoGAMなど)を投与し、母体が抗体を作らないようにする予防策が確立されています。Rh式血液型もABO式と同様に遺伝によって決まり(RHD遺伝子の発現の有無などによる)、民族によってRh陰性の頻度に大きな差がある点については後述します。
主要組織適合抗原(HLA型)
ABO式やRh式以外にも、人間には多種多様な血液型(赤血球抗原の型)が存在します。その中でも輸血ではなく臓器移植の適合性に深く関与するのが主要組織適合抗原(MHC: Major Histocompatibility Complex)と呼ばれる分子群で、ヒトの場合これを**HLA(Human Leukocyte Antigen)**といいます。HLAは白血球を含むほとんどの細胞に発現するタンパク質で、細胞内で合成されたペプチド断片(自己・非自己を問わず)を細胞表面に提示し、免疫系に「何が細胞内にあるか」を知らせる役割を持ちます。いわば体内の警備システムの一部であり、HLAによって自己と非自己の識別が行われるため、臓器移植の際にはドナー臓器のHLA型がレシピエントとできるだけ一致している(「HLA適合」している)ことが拒絶反応を防ぐ上で極めて重要です ( Human Leukocyte Antigen Gene Polymorphism and the Histocompatibility Laboratory – PMC )。
HLA遺伝子複合体は第6染色体上に位置し、クラスI(HLA-A, B, Cなど)とクラスII(HLA-DR, DQ, DPなど)の各遺伝子からなります。特徴的なのはその遺伝的多様性の桁外れの大きさで、人類の全遺伝子の中でも最も多型が多い領域と言われます ( Human Leukocyte Antigen Gene Polymorphism and the Histocompatibility Laboratory – PMC )。例えばHLA-B遺伝子について、2001年の時点で既に400種類以上の対立遺伝子(アレル)が知られていました ( Human Leukocyte Antigen Gene Polymorphism and the Histocompatibility Laboratory – PMC )が、最新のデータベースではクラスIで28,000種以上、クラスIIで12,000種以上、総計4万種類を超えるHLAアレルが報告されています (IPD-IMGT/HLA Database)。このようにHLA型は非常に多彩で、一人ひとりが持つHLAの組み合わせはほぼユニークと言ってよいほどです。そのため、非血縁者間でHLA型が完全に一致することは稀であり、骨髄移植のドナー探しなどでは数十万人規模のドナーバンクから適合者を探す必要があります。HLAの多様性が維持されてきた理由は、集団として多様な免疫応答力を持つことで未知の病原体にも対応できるようにするため(進化的な適応)と考えられています (HLA typing & our lifesaving research | Anthony Nolan) (HLA typing & our lifesaving research | Anthony Nolan)。なお、特定のHLA型が自己免疫疾患へのかかりやすさに関連することも知られており(例えばHLA-B27を持つ人は強直性脊椎炎の発症率が著しく高い)、この点については後ほど触れます。
血液型と疾患の関係:最新知見
血液型は輸血の適合性以外にも、さまざまな疾患のリスクや経過に影響する可能性が指摘されています。ただしその多くはABO式血液型に関するもので、HLA型のように直接的で強い因果関係ではなく、統計学的な関連がみられる程度です。ここでは感染症、がん、心血管疾患などとの関連について、近年の研究結果を概観します。
感染症と血液型
感染症の分野では、ABO式血液型が病原体に対する感受性や重症度に影響する可能性が昔から議論されてきました。例えば、ABO型はB型肝炎ウイルスやデング熱など複数の感染症に対するかかりやすさに関連するとの報告があります (Frontiers | Association Between ABO Blood Group System and COVID-19 Susceptibility in Wuhan)。近年特に注目されたのが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との関連です。いくつかの観察研究や全ゲノム関連解析により、血液型O型の人は新型コロナに感染しにくく、A型の人は感染リスクおよび重症化リスクが高い傾向が報告されました ( ABO blood group and COVID‐19: a review on behalf of the ISBT COVID‐19 Working Group – PMC )。国際的な研究グループのレビューでも、「血液型Oは陽性になりにくく、Aは感染しやすく重症化しやすい」という証拠が増えつつあると結論づけています ( ABO blood group and COVID‐19: a review on behalf of the ISBT COVID‐19 Working Group – PMC )。こうした知見から、パンデミック初期には血液型別のリスクに関心が集まりました。ただし、血液型以外の要因(年齢、持病など)も大きく影響するため、血液型だけで個人のリスクが決まるわけではありません。また、新型コロナ以外にもノロウイルスやマラリアなどで血液型との関連が研究されています。例えば、致死的な熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum)に対してはO型が重症化からある程度保護的に働くことが知られ、同じ環境下で比較するとA型の方がO型よりも重症マラリアになりやすいというデータがあります (ABO blood group phenotypes and Plasmodium falciparum malaria)。これはマラリア原虫が赤血球を凝集させる際に、O型赤血球では凝集が起きにくい(毛細血管を詰まらせにくい)ためと考えられ、マラリア流行地でO型の頻度が高く保たれている一因とも推測されています。
がんと血液型
がんについても、ABO血液型との統計学的関連が報告されています。20世紀中頃から「胃がん患者にA型が多い」などの指摘がありましたが、近年では大規模コホート研究によりより明確なリスク評価が行われています。その一つである台湾人約34万人を追跡した研究では、A型の人はO型に比べて胃がん発症リスクが有意に高く(ハザード比1.38)、生存率も低いこと、また非O型(A, B, AB)は膵臓がんリスクが高いことなどが示されました ( ABO blood types and cancer risk—A cohort study of 339,432 subjects in Taiwan – PMC ) ( ABO blood types and cancer risk—A cohort study of 339,432 subjects in Taiwan – PMC )。具体的には、膵臓がんについてB型の人はO型の人より約1.6倍発症しやすいという結果です ( ABO blood types and cancer risk—A cohort study of 339,432 subjects in Taiwan – PMC )。逆に、腎がんではAB型がリスク低減と関連するなど、部位によって血液型との関連の方向性は異なります ( ABO blood types and cancer risk—A cohort study of 339,432 subjects in Taiwan – PMC )。メタ解析や他の地域での研究でも、総じて血液型Oの人は一部のがんになりにくく、A型の人で特定のがんがやや増える傾向が報告されています (ABO blood groups and risk of cancer: a systematic review … – PubMed) (ABO blood group and cancer – European Journal of Cancer)。とはいえ、そのリスク差は喫煙や食生活など他の要因に比べれば小さく、機序についても完全には解明されていません。一説には、ABO遺伝子の違いが炎症反応や血液中のサイトカインレベルに影響を与え、がんの微小環境に差を生む可能性が議論されていますが、明確な結論には至っていません。
心血管疾患と血液型
心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患にも血液型との関連が示唆されています。2023年に発表された145,000例以上を対象とする大規模メタ解析では、非O型の人はO型に比べて虚血性脳卒中のリスクが約1.13倍、心筋梗塞が1.17倍有意に高かったと報告されました (血液型および虚血脳卒中、心筋梗塞、および末梢血管疾患:145,000を超える症例と2,000,000の対照のメタ分析 – Bibgraph(ビブグラフ)| PubMedを日本語で論文検索)。中でもA型およびAB型の人はO型に比べて脳卒中・心筋梗塞リスクが明確に高く、例えばA型の心筋梗塞リスクはO型の1.22倍、AB型は1.20倍といった具合です (血液型および虚血脳卒中、心筋梗塞、および末梢血管疾患:145,000を超える症例と2,000,000の対照のメタ分析 – Bibgraph(ビブグラフ)| PubMedを日本語で論文検索)。一方、B型の人はこれらの中では比較的リスク上昇が小さいとされました (血液型および虚血脳卒中、心筋梗塞、および末梢血管疾患:145,000を超える症例と2,000,000の対照のメタ分析 – Bibgraph(ビブグラフ)| PubMedを日本語で論文検索)。このような傾向は、ABO型によって血中の凝固因子(フォンヴィレブランド因子や第VIII因子)の量が異なることが背景にあると考えられています (血液型および虚血脳卒中、心筋梗塞、および末梢血管疾患:145,000を超える症例と2,000,000の対照のメタ分析 – Bibgraph(ビブグラフ)| PubMedを日本語で論文検索)。具体的には、非O型の人はO型に比べてこれら凝固因子がやや高めであるため血栓ができやすく、それが長年の蓄積で動脈硬化症のイベントに影響する可能性があります。ただし、こちらも絶対リスクの差は大きくなく、「血液型が原因で心臓病になる」というよりは「血液型による僅かな素因の差が統計的に検出される」という程度の話です。日常的な予防策(食事や運動、喫煙しない等)の方がリスク管理上は遥かに重要です。
その他の血液型と疾患:HLAの例
ABO式血液型以外では、冒頭で述べたHLA型(主要組織適合抗原)と疾患との強力な関連が数多く知られています。中でも有名なのがHLA-B27という型で、これは脊椎関節炎の一種である強直性脊椎炎との関連です。強直性脊椎炎患者の約90%はHLA-B27を保有しているのに対し、健常人では5~10%程度しか持たないことが報告されており、このアレルを持つ人の発症リスクは持たない人よりおよそ100倍も高いと推計されています ( Human Leukocyte Antigen Gene Polymorphism and the Histocompatibility Laboratory – PMC )。このように、HLA型は自己免疫疾患やアレルギー、薬物副作用などにおいてしばしば発症素因として働きます ( Human Leukocyte Antigen Gene Polymorphism and the Histocompatibility Laboratory – PMC )。もっとも、HLAは免疫に直接関与する分子であるため疾患との結びつきが強いのは理解しやすいですが、赤血球の抗原であるABO型が感染症やがんに影響するメカニズムについては未解明な部分も多く、今後の研究が待たれます。
血液型の遺伝的多型と民族差
血液型は遺伝的形質であるため、人類集団間でその型の出現頻度(分布)に違いがみられます。これは歴史的な集団の分離や遺伝的漂移、あるいは先述したような特定疾患による自然選択などが影響していると考えられます。ここではABO式血液型とRh式血液型、HLA型について、民族間の分布差の例を紹介します。
まずABO式血液型では、全世界的に見るとO型の頻度が最も高いことが知られています (The ABO blood group – Blood Groups and Red Cell Antigens – NCBI Bookshelf)。ただしA型やB型の頻度は地域によって様々で、例えばB型の頻度はアジアでは高くヨーロッパでは低い傾向があります。具体的な数字を挙げると、B抗原を持つ人(B型またはAB型)はヨーロッパ系では1割未満であるのに対し、アジア系では2割以上にのぼるという報告があります (The ABO blood group – Blood Groups and Red Cell Antigens – NCBI Bookshelf)。一方で、南北アメリカの先住民(ネイティブアメリカン)では極端な例としてほぼ100%がO型のみという集団も記録されています (1.8: Modern Human Variation – Social Sci LibreTexts)。このような集団では歴史的に限られた祖先集団からのボトルネック効果で特定の型しか残らなかった(O型以外の遺伝子がほぼ消失した)と考えられます。また、アフリカの一部集団でもO型の割合が非常に高いケースがあり、これはマラリアに対する抵抗性との関係でO型が選択的優位になった可能性が指摘されています。
Rh式血液型についても顕著な民族差があります。**Rh陰性(Rh-)の人の割合は、アフリカ系やアジア系では非常に低い一方、ヨーロッパ系では比較的高くなっています。例えば日本人を含む東アジアではRh-の人は全体の1%未満ときわめて稀ですが (High rhesus (Rh(D)) negative frequency and ethnic-group based ABO blood group distribution in Ethiopia | BMC Research Notes | Full Text)、欧米の白人ではおよそ15%前後がRh-であるとの調査結果があります (High rhesus (Rh(D)) negative frequency and ethnic-group based ABO blood group distribution in Ethiopia | BMC Research Notes | Full Text)。実際、世界全体で見るとRh+が約94%、Rh-が約6%**という推計もあり (Rh blood group system – Wikipedia)、Rh陰性は地理的に偏った特徴と言えます。この差は遺伝子(RHD遺伝子の欠失変異)の頻度差に由来し、ヨーロッパではRh-が比較的多く発生・残存した歴史的経緯があると考えられています。Rh陰性は輸血や妊娠で問題になるため、日本などRh-が少ない地域では血液銀行でRh-の血液を確保する取り組みや、Rh-産婦への特別なケア(前述の抗Dグロブリン投与など)が重要になります。
HLA型の分布差はさらに複雑ですが、その多様性ゆえに各民族集団ごとに特徴的なアレル頻度が見られます。例えば特定のHLAアレルは特定の民族にのみ見られる、といったことも珍しくありません (HLA typing & our lifesaving research | Anthony Nolan)。このため、骨髄移植などでドナーを探す際には、患者と同じ民族的背景を持つドナーから見つかる可能性が高い傾向があります。また、移植医療の分野では世界中の様々な人種のボランティア提供者からHLA型データを集約することで、少数民族出身の患者にも適合しうるドナーを探せるよう国際的なネットワークが構築されています。HLA型の地理的変異は、過去の地域ごとの感染症流行などに応じた適応進化の結果とも考えられ、人類集団の歴史を読み解く手がかりにもなっています。
血液型と性格診断:日本での流行とその文化
日本における血液型性格説の歴史
日本では「血液型で性格が分かる」といった説が広く知られていますが、その発祥は大正時代末期にさかのぼります。1927年、東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)の古川竹二教授が**「血液型と気質」に関する論文**を発表し、これが一般社会に大きな影響を与えました (Blood type personality theory – Wikipedia)。古川は、当時日本統治下にあった台湾先住民(高砂族)と北海道のアイヌ民族の血液型分布を比較し、台湾人にO型が多いことが「反抗的な気質」の原因ではないかといった仮説を述べています (Blood type personality theory – Wikipedia)。この主張には人種差別的・優生学的な意図が含まれていましたが、日本の大衆は「血液型によって気質が異なる」という着想自体に強い興味を示しました (Blood type personality theory – Wikipedia)。その後、この血液型性格仮説は一旦下火になりますが、1970年代に入って再び脚光を浴びます。
1971年、ジャーナリストの能見正比古氏が著書『血液型でわかる相性』を出版し、これがベストセラーとなったのをきっかけに血液型性格診断ブームが再燃しました (Blood type and personality – Hektoen International)。能見氏は古川の提唱した仮説を踏まえ、人間関係の相性や性格傾向が血液型によって説明できると主張しました (Blood type and personality – Hektoen International)。彼の著書や続編は次々とヒットし、1980年代には血液型と性格に関する本が多数出版され社会現象となりました (Blood type and personality – Hektoen International)。テレビでも血液型占いのコーナーが設けられたり、雑誌が「血液型別◯◯」といった特集を組んだりするなど、血液型性格診断は一大ブームとして定着しました。
日本・韓国と欧米の比較
血液型性格診断が特に盛んなのは日本と韓国です。日本では1980年代以降、血液型は雑談の話題や自己紹介の定番ネタにもなり、プロフィール帳やアイドルの紹介欄にも血液型が記載されるほど日常に溶け込んでいます。アンケートによれば、日本人の約**60%**が何らかの形でこの血液型性格説を信じているという報告もあります (Blood type and personality – Hektoen International)。2004年前後にはテレビ番組や書籍で血液型占い企画が再び増加し、第2次ブームとも言える盛り上がりを見せました (Blood type and personality – Hektoen International)。韓国でも状況は似ており、若者を中心に血液型と性格の話題が人気です。韓国発のウェブ漫画『**혈액형 인간(邦題:ブラッドタイプ】)』では血液型別の性格ステレオタイプがユーモラスに描かれており、日本でも『血液型くん!』としてアニメ化されました (Blood type personality theory – Wikipedia)。このように東アジアでは血液型性格診断がポップカルチャーとして広く浸透しています。
一方、欧米に目を向けると、血液型で性格を占う習慣はほとんど見られません。西洋には古くから黄道十二宮による星座占いがあり、人の性格や運勢を占う枠組みとして定着していたため、日本で血液型が担ったような役割を星座占いが果たしてきました (Blood type and personality – Hektoen International)。実際、日本に血液型性格説が広まった背景には、「西洋の星座のような自国発の性格類型が欲しい」という思いもあったと指摘されています (Blood type and personality – Hektoen International)。欧米の科学者や心理学者は血液型性格分類を疑似科学(科学的根拠のない迷信)とみなし、真剣に研究対象とすることはほとんどありません (Blood type personality theory – Wikipedia) (Blood type personality theory – Wikipedia)。この違いは、文化的伝統やブームの有無によるものと言えるでしょう。もっとも近年では、日本の血液型性格診断ブーム自体が海外メディアで「奇妙な日本文化」として紹介されることもあり、欧米の一部の若者が面白半分に話題にするケースも出てきています。しかし科学的には全く認められていない考え方であるため、欧米の一般社会で広く信じられるには至っていません。
血液型によるバイアス・差別と社会的影響
血液型性格診断の広がりは、時にバイアス(先入観)や差別を生む問題にも発展します。日本では血液型による偏見やいじめを指す造語として「ブラハラ(血液型ハラスメント)」が生まれました (Blood type personality theory – Wikipedia)。例えば、子供の遊び場で「B型だから自己中なんだ」などとレッテル貼りをされたり、職場で「あの人はO型だから大雑把でミスが多い」といった偏見が語られたりすることがあります。実際に、「血液型が合わないから恋人と別れた」「血液型ゆえに就職で不利益を被った」などという話も耳にすることがあります (Blood type personality theory – Wikipedia)。これらは血液型に基づく不当な扱いであり、個人の人格や能力とは無関係な差別と言えます。
さらに深刻な例として、血液型による公然たる扱いの差も報告されています。日本や韓国では、求人面接で応募者に血液型を尋ねる企業があったり(行政当局はそれを避けるよう注意喚起しています)、学校でクラス分けや班活動のグループ分けに血液型を使う教師がいたとの事例があります (Blood type personality theory – Wikipedia)。また、ある日本のソフトボール女子チームでは選手一人ひとりの血液型に合わせて練習メニューを変えたとか、企業が従業員の血液型別にチーム編成・仕事配分を考えたといった話も伝えられています (Blood type personality theory – Wikipedia)。これらはいずれも血液型ステレオタイプに基づく非科学的な対応であり、個人への扱いを不平等にする可能性があるため問題視されています。もっとも、こうした極端な例に対しては日本国内でも批判的な声が強く、「さすがに行き過ぎだ」という認識が一般的です。法的にも血液型を理由とした明白な差別事件で訴訟になった例はまだなく、多くの日本人は「血液型で全てが決まるとは思わないが、多少は影響するかも」というスタンスで捉えているとの指摘もあります (Blood type personality theory – Wikipedia)。しかし「多少であれ影響する」という考え自体が先入観につながり得るため、注意が必要です。
血液型性格診断に科学的根拠はあるのか?
結論から言えば、血液型と性格の関連について科学的根拠は見つかっていません。心理学の観点から数多くの統計研究が行われてきましたが、ほとんどの研究で血液型とパーソナリティ特性との有意な相関は認められないと報告されています (Blood type personality theory – Wikipedia)。例えば日本の久保・三宅らの研究では、数百人規模の大学生についてビッグファイブ性格検査の結果と血液型を分析しましたが、いずれの性格5因子についても血液型との関連は否定されました (Blood type and personality – Hektoen International)。これは他の多くの検証実験でも同様であり、現在までのところ「血液型ごとに明確な性格傾向の差がある」という再現性のあるデータは得られていません (Blood type personality theory – Wikipedia)。わずかに相関が見つかったとする少数の報告もありますが、それらはサンプルサイズが小さいか統計処理上の偶然による可能性が高く、あるいは**自己充足的予言(セルフ・フルフィリング・プロフェシー)**の影響ではないかと指摘されています (Blood type personality theory – Wikipedia)。自己充足的予言とは、「◯型の人はこうだ」と信じることで本人や周囲の振る舞いがそのイメージに寄せられてしまい、結果的に予言が現実になったように見える現象です。血液型性格診断の場合、小さい頃から周囲に「あなたはA型だから几帳面でしょう」などと言われ続けることで、本来は大雑把な性格でも多少几帳面に振る舞うようになる、といったことが起こり得ます。こうした影響を除外して慎重に検討しても、なお血液型と性格に相関が見られるかどうか、科学者たちは厳密に検証を続けています。
生物学的な観点から見ても、赤血球の表面抗原によって性格が決まる合理的なメカニズムは考えにくいと言えます。脳の働きや神経伝達物質には血液型物質は直接関与しませんし、ABO式血液型は第9染色体上の一遺伝子座に過ぎないため、それが人の複雑な行動傾向に影響するというのは飛躍があります (Blood type and personality – Hektoen International)。もし血液型ごとに明確な性格の違いがあるなら、遺伝学的に相関する他の形質やDNA上のマーカーが見つかっても良いはずですが、そのような証拠も存在しません (Blood type and personality – Hektoen International)。要するに、血液型と性格を結びつける科学的根拠は現在まで皆無であり、この説は科学ではなく占いの類だと考えられています。
それでも信じられる理由:社会心理学的考察
それでは、科学的根拠がないにもかかわらず、なぜ血液型性格診断はこれほど広まったのでしょうか。その背景には人間の持つ心理的なバイアスや社会文化的要因が関係しています。
第一に挙げられるのが、心理学でいう**バーナム効果(フォアラー効果)**です。バーナム効果とは「誰にでも当てはまるような曖昧で一般的な性格記述を、自分にぴったりだと思い込んでしまう現象」です (Blood type and personality – Hektoen International)。血液型占いの性格説明は、「A型は几帳面で優しいが神経質」「B型は好奇心旺盛で社交的だがわがまま」といった具合に、どれも多くの人が思い当たるような両義的特徴を含んでいます (Blood type personality theory – Wikipedia)。そのため、誰が読んでも「確かに自分(あるいは知人)に当てはまる部分がある」と感じやすく、自分の血液型の解説は的を射ていると思い込んでしまうのです。この効果は星座占いや性格テストなど様々な場面で利用されますが、血液型占いもその典型例と言えるでしょう。
次に確証バイアスの影響があります (Blood type and personality – Hektoen International)。確証バイアスとは、人は自分の信じる仮説を支持する情報ばかりに注目し、反証となる情報を無視する傾向のことです。血液型性格説を信じている人は、周囲の人の言動を「ほらやっぱり◯型だから◯◯だ」と確認する材料として見がちです。一方で、自分の先入観に合わない行動(例えば「几帳面なはずのA型がだらしない一面を見せた」など)は深く考えずスルーしてしまいます (Blood type and personality – Hektoen International)。こうして都合の良い例ばかり集めることで仮説の確からしさを実感し、信念を強めてしまうのです。
さらに日本独自の文化的背景も影響しています。前述のように、日本ではかつて欧米の星座占いのような大衆的性格類型付けが存在しなかったため、血液型という分かりやすい記号がその受け皿となり急速に広まりました (Blood type and personality – Hektoen International)。「◯型の人は△△な傾向がある」という単純なイメージはコミュニケーション上の潤滑油にもなり、話のネタとして受け入れられやすかった面もあります。その意味では、血液型性格診断は科学というより大衆文化として消費されている部分もあるでしょう。実際、多くの人は血液型占いを完全に信奉しているというより、「話半分の娯楽」として楽しんでいるに過ぎないかもしれません。
しかし問題なのは、それが無害な娯楽にとどまらず、人間関係や自己認識に影響を及ぼす場合です。血液型ステレオタイプに縛られることで、「自分はB型だからどうせ飽きっぽいんだ」などと性格を固定的に捉えて努力を怠ったり、他者に対して不当なレッテルを貼ってしまったりすれば、それは個人にも社会にもマイナスです。社会心理学者や教育者の中には、「血液型による性格決めつけは偏見を助長し、集団の分断を生む可能性がある」として警鐘を鳴らす声もあります (Blood type personality theory – Wikipedia) (Blood type personality theory – Wikipedia)。現代社会において多様性尊重が重要視される中、「血液型で人を判断しない」という当たり前の姿勢を改めて確認する必要があるでしょう。
おわりに
血液型は、生物学的には赤血球上の抗原の違いであり、輸血や妊娠・移植医療の分野で極めて重要な意味を持つものです。一方で、「血液型と性格」の関連については科学的には否定されており、それを信じる風習は日本や韓国に特有の文化現象といえます。血液型占いや性格診断はエンターテインメントとして楽しむ分には害は少ないかもしれません。しかし、それを真に受けて人間関係に応用し始めると、思わぬ偏見や差別を生み、個人の可能性を狭めてしまう危険性があります。幸いなことに、近年は日本でも血液型ステレオタイプの問題点が認識されつつあり、「血液型で人を判断しない」ことの大切さが見直されています。私たちも改めて、血液型にまつわる科学的事実と虚構を見極め、根拠のない思い込みにとらわれない冷静な視点を持ちたいものです。そして、誰もが自身の個性を血液型という枠に当てはめられることなく、自由に伸ばしていける社会であることが望まれます。
References: 血液型と病気・性格に関する主な研究文献および情報源を以下に示します。
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- (High rhesus (Rh(D)) negative frequency and ethnic-group based ABO blood group distribution in Ethiopia | BMC Research Notes | Full Text)T. H. Teklu et al., BMC Res. Notes, 11: 367 (2018). (Rh陰性頻度:英国17%、米国15%、日本<1%と報告 (High rhesus (Rh(D)) negative frequency and ethnic-group based ABO blood group distribution in Ethiopia | BMC Research Notes | Full Text))
- (HLA typing & our lifesaving research | Anthony Nolan) (HLA typing & our lifesaving research | Anthony Nolan)Anthony Nolan, HLA typing & lifesaving research, 2017. (HLAの多様性と民族特異的アレルについて (HLA typing & our lifesaving research | Anthony Nolan) (HLA typing & our lifesaving research | Anthony Nolan))
- (Blood type personality theory – Wikipedia) (Blood type personality theory – Wikipedia)Wikipedia: 血液型性格説(日本語版). (古川竹二による1927年の血液型と気質研究、およびその動機 (Blood type personality theory – Wikipedia) (Blood type personality theory – Wikipedia))
- (Blood type and personality – Hektoen International) (Blood type and personality – Hektoen International)Kamai N., Hektoen Int., Feb 2020. (能見正比古の著書による1970年代のブーム再燃と、現代日本人の約60%が血液型性格説を信じるとの調査 (Blood type and personality – Hektoen International) (Blood type and personality – Hektoen International))
- (Blood type personality theory – Wikipedia)Wikipedia: Blood type personality theory. (韓国での血液型性格診断の人気とウェブ漫画の例 (Blood type personality theory – Wikipedia))
- (Blood type personality theory – Wikipedia)同上. (血液型ハラスメント(ブラハラ)という用語と具体例 (Blood type personality theory – Wikipedia))
- (Blood type personality theory – Wikipedia)同上. (血液型による差別事例:採用面接や学校教育、スポーツ指導での扱い (Blood type personality theory – Wikipedia))
- (Blood type personality theory – Wikipedia)Wikipedia: Blood type personality theory. (科学的研究では血液型と性格に有意な関連は認められず、疑似科学と見做されている (Blood type personality theory – Wikipedia))
- (Blood type and personality – Hektoen International)前掲 Kamai, Hektoen Int. (ABO血液型遺伝子と性格に直接の因果関係を示す生物学的証拠は存在しないことの指摘 (Blood type and personality – Hektoen International))
- (Blood type and personality – Hektoen International)前掲 Kamai, Hektoen Int. (血液型性格説が信じられる心理的要因:ステレオタイプ志向とバーナム効果の説明 (Blood type and personality – Hektoen International))