非機能要件とは?システム品質を支える性能・可用性・セキュリティ・拡張性・運用性の解説

システム開発では、非機能要件(機能以外の品質に関する要件)の定義が欠かせません。非機能要件とは、システムの主目的となる機能面の要件以外のすべてを指し、ユーザビリティ、性能、拡張性、セキュリティなど、システムにとって不可欠な「質」の部分を定義するものです (非機能要件とは?機能要件との違いや設計方法、設計のポイントについて解説|ソフトウェアテストのSHIFT)。例えば「使い勝手が悪くユーザーから不満が出る」「パフォーマンスが悪く業務効率が落ちる」「セキュリティの欠陥で情報漏えいが起きる」「システムが不安定で時々落ちる」などの問題は、いずれも非機能要件が満たされていないことが原因です (非機能要件とは?機能要件との違いや設計方法、設計のポイントについて解説|ソフトウェアテストのSHIFT)。このように非機能要件はシステム全体の品質やユーザー体験に直結します。

非機能要件は技術面だけでなくビジネス面にも重大な影響を与えます。高速で安定したシステムはユーザー満足度を高め、信頼性やブランド価値につながります。一方、非機能要件の軽視はサービス停止や顧客離れ、事業損失といった深刻なリスクを招きかねません。実際、多くのプロジェクトで機能要件の実装が優先されるあまり、非機能要件の検討が後回しにされるケースがあります。しかし非機能要件は決して軽視できない重要事項であり、適切に定義・対策することでシステムの競争力と信頼性を大きく向上できます (非機能要件とは?│IT初心者のための基本ガイド | 株式会社QualityCube)。

国際標準の品質フレームワーク: 非機能要件の代表的な項目としては、本記事で扱う性能、可用性、セキュリティ、拡張性、運用性などが挙げられます。国際的な標準規格であるISO/IEC 25010(JIS X 25010)では、ソフトウェア製品の品質を8つの「品質特性」と31の「品質副特性」に分類して定義しています (ソフトウェアの「品質特性」とは?8つの品質特性と31の品質副特性を詳しく紹介〖品質向上 〗| Qbook)。性能効率や信頼性(可用性)、セキュリティ、保守性など、非機能要件に相当する様々な観点が網羅されており、企業でも品質基準の策定に広く参照されています。本記事では特に重要な性能、可用性、セキュリティ、拡張性、運用性の5つに焦点を当て、技術的視点とビジネス的視点の両面からそれぞれ解説します。各項目の意味や業界標準、企業導入のポイント、失敗事例を具体的に見ていきましょう。

目次

性能(パフォーマンス)

性能とはシステムが要求された処理をどれだけ素早く効率的に実行できるかを示す尺度です。ユーザーが画面操作してから応答が返るまでのレスポンス時間や、システムが1秒間に処理できるスループット(処理件数)、CPUやメモリなどの資源使用率といった指標で測定されます。性能要件は「同時ユーザー1万人でも応答時間2秒以内」など具体的な目標値として定義され、これを満たすよう設計・実装します。技術的には効率の良いアルゴリズムの採用、キャッシュなどによるデータアクセスの高速化、負荷分散アーキテクチャの導入、データベースチューニングなど様々な手法でシステム性能を最適化します。また開発段階で負荷テストを実施し、ピーク時にも性能要件を満たせるか検証することが重要です。

性能はユーザー体験と直結するため、ビジネス的にも極めて重要です。動作が遅いシステムはユーザーのストレスとなり、サービス離脱や機会損失を招きます。例えばAmazon社の調査では、ページの表示が100ミリ秒遅れるごとに売上が1%低下したと報告されています (Amazon study: Every 100ms in Added Page Load Time Cost 1% in Revenue)。わずかな遅延でもユーザーは敏感に反応し、ECサイトではページ読み込みが数秒遅いだけで購買を諦めてしまう顧客も多いのです。実際、ページ読み込み時間が2秒から5秒に延びると平均直帰率(訪問してすぐ離脱する割合)は6%から38%に跳ね上がったというデータもあります (10 Charts That Show The Importance of Site Speed)。

(10 Charts That Show The Importance of Site Speed) : ページ読み込み時間と直帰率の関係(青線が直帰率を示す)。読み込みが遅くなるにつれて直帰率が急増していることがわかる (10 Charts That Show The Importance of Site Speed)。ユーザーは快適に利用できないサイトからはすぐに離脱してしまうため、システムにおける性能確保は売上やコンバージョン率にも直結する。

性能向上への投資は顧客満足度や売上増加として跳ね返ってきます。逆に性能要件を軽視すると、ピーク時にシステム応答が極端に遅くなりユーザーが業務を継続できない、画面タイムアウトが頻発して苦情や問い合わせが増える、といった問題につながります。内部の従業員向けシステムであっても、生産性の低下や残業発生などビジネスコスト増大の原因となりえます。そのため、経営層も性能を重要なKPIとして捉え、必要なリソースを確保することが大切です。

可用性(信頼性)

可用性はシステムが必要なときに稼働して利用できる状態をどれだけ維持できるかを示す指標です。しばしばシステムの稼働率(アップタイム)として定量化され、たとえば「月間稼働率99.9%」のように目標値を設定します。稼働率99.9%とは、1ヶ月(約43,800分)のうちシステム停止が約43分以内に収まる水準を意味します。金融機関や社会インフラのように高い信頼性が要求される分野では、99.99%(月間数分のダウンタイム)以上が求められることもあります。可用性を確保するには、システム障害を予防しつつ万一の故障時でも迅速に復旧できる設計・運用が必要です。技術的にはサーバーやネットワークの冗長化(予備系の用意)、障害発生時のフェイルオーバー機構、自動監視とアラートによる早期検知、定期バックアップと迅速なリストア体制などがポイントになります。またソフトウェアのバグで停止しないようテストや検証を徹底し、計画停止(メンテナンス)による影響も最小化する運用計画を立てます。

ビジネス面では、可用性はそのままサービスの信頼性と直結します。システムのダウンはユーザーからの信頼を損ない、機会損失や金銭的損害をもたらします。例えばECサイトが1時間停止すると、その間の売上を丸ごと失うだけでなく、顧客が競合他社に流出する可能性も高まります。大手企業でも障害による損失は莫大で、2013年に発生したAmazon.comの大規模障害では、当時の売上規模から試算してダウンタイム1分あたり約6万6千ドル(数百万円)の売上損失に相当すると報じられました (The Cost of Downtime At The World’s Biggest Online Retailer | UpGuard)。国内外の事例を見ても、数時間のシステム停止で数億円規模の損害が出たケースは珍しくありません。実際、2015年に発生したAppleのApp Store障害(約12時間停止)では約2,500万ドルの売上損失が生じ、2016年のデルタ航空のシステム障害(5時間停止)では約1億5,000万ドルの損失と2,000便以上の欠航を招いたと報告されています (Are the Costs of Downtime Increasing?)。さらに2021年には、Amazonが1時間のサービスダウンで推定3,400万ドルもの売上を失ったとの分析もあります (Are the Costs of Downtime Increasing?)。このようにサービス停止は直接的な機会損失だけでなく、「止まるシステム」という悪い評判によるブランド毀損や、将来的な顧客離れといった間接的な影響も及ぼします。

可用性向上のためには、経営的にも**事業継続計画(BCP)サービスレベル合意(SLA)**の観点で戦略を練る必要があります。重要システムについては目標可用性と許容ダウンタイムを明確に定め、人員や予算を投じてでも信頼性を確保することが求められます。具体的には、データセンターやクラウド環境の多重化、耐障害設計のレビュー、障害対応訓練の実施など、平時から備えておくことが肝心です。万一大規模障害が発生した場合の顧客対応や広報も想定しておき、信頼低下を最小限に食い止めるマネジメントも重要な課題です。可用性を軽視したままリリースしたシステムは、いざという時に長時間ダウンして事業継続不可能になるリスクがあり、最悪の場合そのシステムやサービスの撤退を余儀なくされることもあります。

セキュリティ(安全性)

セキュリティはシステムやデータの安全性を守るための要件です。具体的には、許可されたユーザーだけがシステムやデータにアクセスできるようにする機密性、データや処理結果が正確かつ改ざんされていないことを保証する完全性、サービスが適切に利用可能であり続ける可用性(セキュリティ分野では信頼性も含めてCIAのAとして扱われます)などが基本的な観点になります。また操作の否認を防ぐ否認防止性や、誰が何を行ったか追跡可能にする責任追跡性、アクセス元の正当性を確認する認証性といった要素も含まれます (ISO 25010 のソフトウエア品質特性の紹介 #ChatGPT – Qiita)。システムのセキュリティ要件は業種や扱うデータによって様々ですが、一般に「不正アクセスによる情報流出を防ぐ」「データ改ざんや消失を防ぐ」「ウイルスやサイバー攻撃からシステムを守る」といった目的で定義されます。技術的対策としては、ユーザー認証やアクセス制御の適切な実装、通信の暗号化、脆弱性診断とペネトレーションテストの実施、セキュアコーディングの徹底、ネットワークのファイアウォールやIDS/IPSの導入、システムログの監視など多岐にわたります。また組織的な対策(セキュリティポリシー策定や社員教育、運用プロセスの整備など)も含めて、総合的にシステムの防御力を高めます。

ビジネスにおいてセキュリティ事故は甚大な損害をもたらします。データ漏えいサービス停止が発生すれば、直接的な調査・復旧コストや法的賠償に加え、企業イメージの失墜による顧客離れという長期的ダメージを負います。近年の調査では、1件のデータ侵害における企業の平均被害額は世界平均で約445万ドル(約6億円)にも上ることが報告されています (Cost of a Data Breach Report 2023: Insights, Mitigators and Best Practices)。規模の大きな事件では被害額はさらに膨らみ、例えば米国の信用情報会社Equifax社は2017年の大規模個人情報流出事故への対応費用として最終的に13億8千万ドル以上を費やしたことが明らかになっています (2017 Data Breach Will Cost Equifax at Least $1.38 Billion)。また、Yahoo!社では相次いだ情報漏えい事件により買収額が当初より3億5千万ドル減額される事態となり、企業価値そのものに影響を及ぼしました (Verizon cuts Yahoo deal price by $350 million )。このようにセキュリティ対策の怠りは巨額の損失や経営問題に直結しかねません。

セキュリティ要件を満たすには、単に技術的に堅牢なシステムを構築するだけでなく、組織としてセキュリティマネジメントを実践することが重要です。経営層の視点では、情報セキュリティポリシーや遵守すべき規制(例えば個人情報保護法やGDPRなど)への適合、リスクアセスメントと定期的な監査、インシデント発生時の対応計画(インシデントレスポンス)などを整備する必要があります。現場レベルでは、開発時にセキュリティ専門家による設計レビューやテストを組み込み、運用時には24時間体制の監視や定期的な脆弱性スキャンを実施するなど、継続的に脅威へ備えます。従業員に対するセキュリティ教育も不可欠で、ソーシャルエンジニアリングやフィッシング詐欺への対処法を周知徹底します。

セキュリティの確保はコストもかかるため、経営判断として「どこまで対策するか」のトレードオフが伴います。しかし現在ではセキュリティ事故は企業存続を揺るがしかねないリスクであり、「機能は素晴らしいが安全性に問題があるシステム」は市場から受け入れられません。非機能要件の中でもセキュリティは特に経営層が優先度高く取り組むべき課題といえるでしょう。

拡張性(スケーラビリティ)

拡張性(スケーラビリティ)は、システムが将来的な負荷増大機能追加に対してどれだけ容易に対応できるかを示す要件です。ビジネスが成長するとユーザー数や取引量が当初の想定以上に増える可能性がありますが、拡張性の高いシステムであれば大規模な改修をせずともスムーズに処理能力を増強できます。一方、拡張性を考慮していないシステムは、一定の規模を超えると途端に処理が追いつかなくなったり、新機能の追加に時間とコストがかかったりします。

技術的観点では、拡張性には主に2種類あります。(1) システム負荷に対するスケーリング(性能面の拡張性)と、(2) 機能要件に対する柔軟性(機能拡張性、モジュール性)です。前者については、サーバー増設やクラウドリソース自動拡張によって処理能力を横に広げられる設計(スケールアウト)、もしくはサーバースペックの向上で対応できる設計(スケールアップ)を考慮します。例えばデータベースをクラスター構成にしておけば、負荷が増してもノード追加で性能を向上させられます。後者については、システムを疎結合なモジュール構造で設計し、新規機能の追加や既存機能の変更が他部分に影響を与えにくいようにします。マイクロサービスアーキテクチャはこの点で有効な手法で、サービスごとに独立デプロイできるため機能拡張やサービス単位のスケーリングが容易になります。

ビジネス面で拡張性が高いことは、将来の成長への対応力とイコールです。例えば、あるECサイトがテレビCMやセール施策で突発的なアクセス急増に耐えられずサイトダウンしてしまえば、販売機会の損失に直結します。有名な例では、位置情報ゲーム「Pokémon GO(ポケモンGO)」がリリース直後に予想を超えるアクセス集中でサーバーがダウンし、多くのユーザーがゲームに繋がらない状況となりました (The Most Famous Website Crashes | Gatling Blog)。開発元のNiantic社は急遽サーバー増強などの対応を行い、その後は安定稼働に漕ぎ着けましたが、ピーク時の負荷想定の甘さが露呈した形です。このようにサービス成功による「嬉しい悲鳴」も、拡張性が低いシステムでは機会損失や信用低下につながりかねません。

一方で、拡張性のために過剰な設計を行うと初期コストが膨らむジレンマもあります。経営判断としては、現状規模と将来予測を踏まえて適切な拡張性要件を設定することが重要です。例えば「今後3年間でユーザー数が2倍になっても性能劣化しないこと」など具体的な範囲を見極め、その範囲内で柔軟に対応できるアーキテクチャを選択します。クラウドサービスを活用すれば初期は小規模構成で開始し、需要に応じてリソースを増やすことができますし、コンテナ技術やInfrastructure as Codeを導入すれば後からの環境複製や拡張がスピーディに行えます。拡張性を確保しておけば、ビジネスの急成長や新サービス展開にもIT基盤が足かせとならず、競争機会を逃さずに済むでしょう。

運用性(運用・保守性)

運用性(運用・保守性)は、システムが安定して運用され、問題発生時にどれだけ簡単に修正や改善ができるかどうかを示す要件です (非機能要件とは?│IT初心者のための基本ガイド | 株式会社QualityCube)。システムはリリース後の運用フェーズで長期間にわたり稼働し続けるため、運用管理のしやすさが品質に大きく影響します。具体的には、障害発生時に原因を特定して復旧するまでの手間(解析性・回復性)、システム変更やアップデートのしやすさ(変更容易性・拡張性)、日々の監視やバックアップなどメンテナンス作業の負担、オペレーター向けドキュメントや管理ツールの整備状況、といった観点があります。運用性が高いシステムは、トラブル対応に要する時間とコストを抑え、少人数でも効率的に安定運用できます。

運用性を高める技術的手段としては、まず監視機能の充実が挙げられます。適切な監視指標(CPU使用率、レスポンス遅延、エラー発生件数など)を設定し、異常を検知したら即座に通知が飛ぶ仕組みを整えます。ログ出力も重要です。エラーログやトランザクションログが不足なく記録されていれば、問題発生時の原因究明が迅速に行えます。また本番環境と同等のステージング環境で事前に更新検証を行い、自動デプロイメントツールで人的ミスなくリリースできるようにするといったDevOps的取り組みも運用効率を向上させます。定期的なバックアップ取得とリストア手順の確認、障害対応の手順書の整備、担当者の24時間待機体制の検討なども必要に応じて行います。さらに、運用性にはコードの保守性(読みやすく変更しやすいコードか)も影響します。属人化せず誰でも修正できるようにコーディング規約を守り、適切なドキュメントを残すことが長期的な安定運用の秘訣です。

ビジネス的視点では、運用性の低いシステムは運用コストの増大やサービス停止時間の長期化を招きます。トラブル対応に毎回何時間もかかっていては、その間の機会損失が積み重なるだけでなく、担当者の疲弊や他の開発作業の遅延にもつながります。最悪の場合、運用ミスが重大事故を引き起こすこともあります。著名な例として、ある証券取引システムではソフトウェア更新時の手順ミスから不具合が生じ、わずか30分で4億4千万ドル(約480億円)もの損失を出した事故が報告されています (Software Testing Lessons Learned From Knight Capital Fiasco | CIO)。この事件では、運用プロセスの不備やテスト不足が原因で致命的なトラブルを招いたと分析されています。このように、運用・保守に関する要件を疎かにすると取り返しのつかない損害につながる可能性があります。

逆に、運用性を高めておくことは長期的な費用対効果につながります。障害が起きにくく、起きても素早く復旧できる体制が整っていれば、システムの信頼性が向上しユーザーからの信用も高まります。また、新機能追加や環境変化への対応がしやすければビジネスのスピードも上がります。経営層にとっては、運用性=安定稼働による継続的な収益確保と捉えることができ、軽視すべきでないポイントです。運用段階まで含めて品質を作り込むという「DevOps」や「Site Reliability Engineering(SRE)」の考え方も広まっており、開発と運用を一体的に最適化することが競争力につながる時代となっています。

非機能要件を導入・管理するポイント

非機能要件の重要性を理解した上で、プロジェクトや企業でこれらを適切に導入・管理するためのポイントを解説します。

  • 要件定義段階での明確化: 非機能要件は、機能要件と比べて顧客から明示されにくい傾向があります (非機能要件とは?│IT初心者のための基本ガイド | 株式会社QualityCube)。そのため開発側から積極的にヒアリングし、「期待する性能水準はどの程度か」「最大許容ダウンタイムは何時間か」「セキュリティ上絶対に避けるべき事態は何か」などを引き出すことが必要です。関係者間で非機能要件の優先度と目標値を合意し、契約や仕様書に明記しておくことで、後から軽視されるリスクを減らせます。
  • ISO標準やベストプラクティスの活用: 前述のISO/IEC 25010の品質特性モデルや、信頼性分野でのRASIS指標(信頼性・可用性・保全性・完全性・安全性)、セキュリティ分野のガイドライン(OWASP Top 10など)をチェックリストとして活用しましょう。業界標準を参照することで漏れがない包括的な非機能要件を洗い出せます (ソフトウェアの「品質特性」とは?8つの品質特性と31の品質副特性を詳しく紹介〖品質向上 〗| Qbook)。例えばRASISに沿って「可用性99.9%、保全性(メンテナンス性)○○…」といった目標を設定するといった具合です。
  • 現実的かつ測定可能な基準設定: 非機能要件は抽象的になりがちなので、可能な限り数値や具体的な指標で定義します(SMARTの法則の適用)。例えば「十分高速に動作させる」ではなく「ピーク時1000同時ユーザーでも95パーセンタイル応答時間が3秒以内」と定めます。また実現可能性にも注意し、無制限に高い目標値を掲げないようにします。要求水準が過剰だと開発コストが跳ね上がるため、ビジネス上の必要性とのバランスを取りながらトレードオフを判断します。
  • 開発プロセスへの組み込み: 非機能要件は一度決めたら終わりではなく、開発〜テスト〜運用を通じて継続的に扱います。性能やセキュリティは単体テストや統合テストの段階から専用のテスト(負荷テスト、脆弱性テストなど)を組み込み、結果を評価します。要件を満たさない場合は設計に立ち戻って改善を図ります。また、進捗管理上も非機能要件の達成状況をチェックするマイルストーンを設定し、機能と同様にレビューや承認プロセスを設けます。
  • 運用監視とフィードバック: 非機能要件の達成状況は、本番稼働後も監視して測定されるべきです。実際のシステムのレスポンスタイムや月次の稼働率、セキュリティインシデント数などをモニタリングし、SLA/SLOを継続的に満たしているか確認します。万一目標を下回る事態が発生した場合は、原因を分析して早期に改善策を講じます。このPDCAサイクルによりシステム品質を継続的に高め、非機能要件を生きた指標として運用していくことが大切です。
  • 失敗事例から学ぶ: 過去の失敗事例をチームで共有し、再発防止に役立てます。例えば「リリース直後に負荷オーバーでダウンした」「テスト環境では問題なかったが本番で障害が頻発した」「運用開始後にセキュリティホールが見つかり緊急対応になった」といった例を振り返り、要件定義やテスト計画に漏れがなかったか検証します。組織としてナレッジ蓄積を行い、非機能要件チェックリストをアップデートしていくことも有効です。

以上のポイントを踏まえ、非機能要件を適切に扱えばシステムの品質は飛躍的に向上します。機能要件がユーザーの「やりたいこと」を支えるものだとすれば、非機能要件はユーザーに「満足して使い続けてもらう」ための土台です。性能が高く止まらない安全なシステムは、それ自体が競合優位性となり得ます。経営層・マネージャーにとっても非機能要件の充実は顧客満足度向上やリスク低減、さらには長期的なコスト削減(障害対応や訴訟リスクの減少)につながる重要な投資です。

おわりに

非機能要件で定義される各種の品質特性(性能、可用性、セキュリティ、拡張性、運用性など)は、システムの成功に不可欠な要素です。これらは一見すると技術的な詳細に思えますが、最終的にはユーザーの満足度や事業の利益に直結しています。非機能要件を軽視したシステムは、たとえ魅力的な機能を備えていても信頼性や使い勝手の面でユーザーの支持を得られず、ビジネス上の失敗につながりかねません。逆に非機能要件まで丁寧に作り込まれたシステムは、トラブルが少なくユーザーから信頼され、長期にわたって価値を提供し続けることができます。

企業の経営層やプロジェクトマネージャーは、非機能要件をコスト要因としてではなく品質への戦略的投資と捉えることが求められます。ISO規格などを活用し体系的に品質目標を設定すること、そしてその目標を実現・維持する仕組みを社内プロセスに組み込むことが大切です。実務では機能要件に比べて軽んじられがちな非機能要件ですが、システム全体の成功を左右する極めて重要な要素であることを、本記事の解説や事例からご理解いただけたかと思います。初心者の方も含め、これを機に非機能要件について正しく理解し、より良いシステム構築・運用に役立てていただければ幸いです。

参考文献・引用文献は以下です。

(非機能要件とは?機能要件との違いや設計方法、設計のポイントについて解説|ソフトウェアテストのSHIFT) (非機能要件とは?機能要件との違いや設計方法、設計のポイントについて解説|ソフトウェアテストのSHIFT) (非機能要件とは?│IT初心者のための基本ガイド | 株式会社QualityCube) (ソフトウェアの「品質特性」とは?8つの品質特性と31の品質副特性を詳しく紹介〖品質向上 〗| Qbook) (Amazon study: Every 100ms in Added Page Load Time Cost 1% in Revenue) (10 Charts That Show The Importance of Site Speed) (The Cost of Downtime At The World’s Biggest Online Retailer | UpGuard) (Are the Costs of Downtime Increasing?) (Are the Costs of Downtime Increasing?) (Cost of a Data Breach Report 2023: Insights, Mitigators and Best Practices) (2017 Data Breach Will Cost Equifax at Least $1.38 Billion) (Verizon cuts Yahoo deal price by $350 million ) (The Most Famous Website Crashes | Gatling Blog) (非機能要件とは?│IT初心者のための基本ガイド | 株式会社QualityCube)

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