序論 (Introduction)
ウサギの耳の顕著な特徴とその生物学的意義の概説 (Overview of the Prominent Characteristics of Rabbit Ears and Their Biological Significance)
ウサギ(学名: Oryctolagus cuniculus)を視覚的に最も特徴づける器官の一つは、その体サイズに対して際立って大きな耳介(pinnae)です 1。これらの大きな耳は、単に形態的な特徴に留まらず、ウサギの生存と繁栄において極めて重要な生物学的機能を担っています。鋭敏な聴覚による捕食者の早期発見、効率的な体温調節による生理的恒常性の維持、そして仲間とのコミュニケーションにおける信号伝達といった多面的な役割を果たしているのです 1。ウサギの耳は、進化の過程で獲得された精巧な適応の産物と言えます。
本稿の目的と構成 (Aim and Structure of this Article)
本稿では、ウサギの耳が持つこれらの特徴的な形態と機能について、進化学および分子生物学という二つの主要な科学的視点から深く掘り下げ、その生物学的意義を解き明かすことを目的とします。特に、近年の研究成果を含む国際的な学術論文 1 を中心に引用し、科学的根拠に基づいた最新の知見を統合的に考察します。
本稿の構成として、まず第1章でウサギの耳が持つ機能的な重要性、すなわち聴覚、体温調節、コミュニケーションにおける役割を詳述します。続く第2章では、これらの機能がどのように進化的な背景のもとで形成されてきたのか、ウサギ科(Lagomorpha)全体の進化、自然選択圧、そして家畜化の影響という観点から論じます。第3章では、耳の発生と形態形成を支える分子生物学的な基盤に焦点を当て、関与する遺伝子やシグナル伝達経路、形態変異の遺伝的背景について解説します。最後に、これらの進化学的および分子生物学的視点から得られた知見を統合し、ウサギの耳の独自性に対する理解を深めるとともに、今後の研究への展望を示します。
第1章:ウサギの耳の機能的重要性 (Chapter 1: The Functional Importance of Rabbit Ears)
ウサギの大きな耳は、単なる外見上の特徴ではなく、その生存と生理機能維持に不可欠な複数の重要な役割を担っています。本章では、聴覚能力、体温調節、そしてコミュニケーションという三つの主要な機能的側面から、ウサギの耳の重要性を解説します。
1.1 生存戦略としての聴覚能力 (Hearing Ability as a Survival Strategy)
捕食者からの回避:鋭敏な聴覚 (Predator Avoidance: Acute Hearing)
ウサギは自然界において多くの捕食者に狙われる被食者(prey animal)であり、その生存戦略の根幹を成すのが、捕食者をいち早く察知する能力です 1。ウサギの耳は、この要求に応えるべく高度に発達した聴覚器官として機能します。
特筆すべきは、その広範な可聴周波数域です。ウサギは360 Hzから42,000 Hz(42 kHz)までの音を聞き取ることができ、これはヒトの可聴域(通常20 Hz – 20,000 Hz)を大きく上回ります 1。特に、ヒトには聞こえない高周波音に対する感受性が高いことは、ネコ科動物や猛禽類など、高周波の物音を立てる可能性のある捕食者の接近を遠距離から、あるいは物陰からでも探知する上で大きな利点となります 1。この鋭敏な聴覚は、危険が差し迫る前に逃走を開始するための「早期警戒システム」として機能し、生死を分ける重要な要素となります 1。
興味深いことに、化石記録の研究から、約3400万年前(漸新世前期)に生息していた初期のウサギ類であるMegalagus turgidusも、その内耳(骨迷路)の構造から、現生のウサギに近い聴覚感度、特に高周波域での感度を有していた可能性が示唆されています 10。これは、ウサギ科の進化の比較的早い段階で、生存に不可欠な鋭敏な聴覚能力が既に確立されていたことを物語っています。
音源定位能力:可動性の高い耳介 (Sound Localization: Highly Mobile Pinnae)
ウサギの耳は、音を聞き取る能力だけでなく、その音が発生した方向を正確に特定する能力においても優れています。これを可能にしているのが、非常に可動性の高い耳介です。左右の耳はそれぞれ独立して、最大で270度もの範囲を回転させることができます 1。各耳には20以上の筋肉が存在し、この複雑な筋肉系によって精密な制御が可能となっています 2。
この驚異的な可動性により、ウサギは頭を動かすことなく、周囲のほぼ全方位からの音を探知し、その発生源をピンポイントで特定できます 1。例えば、片方の耳を前方に、もう片方の耳を後方に向けることで、同時に二つの異なる方向からの音を監視することも可能です 12。この正確な音源定位能力は、茂みの中や遠方に潜む捕食者の位置を特定し、最も安全な逃走経路を選択するために不可欠な情報を提供します 1。
コミュニケーションにおける役割 (Role in Communication)
ウサギの耳は、聴覚情報の入力器官としてだけでなく、視覚的なコミュニケーション信号を発信する器官としても機能します。ウサギは、低い周波数の足踏み(スタンピング)によって他の個体に危険を知らせるなど、様々な音声を用いてコミュニケーションを行いますが 1、耳の位置や動きもまた、彼らの感情状態や意図を伝える上で重要な役割を担っています。
例えば、耳をピンと立てて前方に傾けているときは、周囲の状況に注意を払い、警戒している状態を示します 4。一方で、耳をリラックスさせて後方に寝かせている状態は、安心しているか休息していることを示唆します 4。しかし、体を緊張させ、耳を後方に強く伏せている場合は、恐怖や怒り、攻撃性を示している可能性があります 4。このように、耳の向きや緊張度は、ウサギの心理状態を読み解くための重要な手がかりとなります 4。飼育下においても、これらの耳の動きを理解することは、ウサギの福祉を確保し、ストレスを軽減するために重要です 1。
1.2 生理機能としての体温調節 (Thermoregulation as a Physiological Function)
ウサギの大きな耳は、聴覚だけでなく、体温調節というもう一つの極めて重要な生理機能を担っています。
熱放散器官としての耳介 (Pinnae as Heat Dissipation Organs)
ウサギは哺乳類であり恒温動物ですが、体温調節能力、特に暑熱環境下での体熱放散能力には限界があります。その主な理由として、体表の大部分が断熱性の高い毛皮で覆われていること、そして発汗による体温調節に重要な役割を果たす汗腺が、足裏などを除いてほとんど機能しないことが挙げられます 3。効率的なパンティング(あえぎ呼吸)による熱放散も行いません 3。
このような生理的制約を持つウサギにとって、大きな耳介は主要な熱放散器官として機能します。ウサギの耳介は体表面積全体の約12%にも達し、その薄い皮膚の下には非常に密な血管網が張り巡らされています 2。暑い環境下や運動後などで体温が上昇すると、ウサギは耳介への血流量を増加させます。これにより、血液中の熱が広大な耳介表面から周囲の空気へと、放射や対流によって効率的に放散されるのです 2。暑い日にウサギの耳が赤みを帯びて見えるのは、血流が増加している証拠です 2。この血管運動性の調節メカニズムは、ウサギが体温の恒常性を維持するための重要な生理学的適応です 18。実際に、耳の表面温度(Ear Surface Temperature: EST)は、ウサギの熱ストレス状態を評価するための非侵襲的な生理学的指標として研究や飼育管理に利用されています 18。
気候への適応と耳のサイズ (Adaptation to Climate and Ear Size)
体温調節における耳の重要性は、異なる気候環境に生息するウサギやその近縁種の形態比較からも裏付けられます。一般に、恒温動物においては、寒冷な気候に生息する種や個体群ほど、体に対する付属肢(耳、尾、四肢など)のサイズが小さくなる傾向があり、これはアレンの法則(Allen’s rule)として知られています。これは、体積に対する表面積の比率を小さくすることで、熱放散を抑える適応と考えられます。
ウサギ科動物においても、この法則に合致する現象が見られます。温暖な気候や乾燥地帯に生息する野生のアナウサギ(Oryctolagus cuniculus)の個体群は、より寒冷な地域の個体群に比べて相対的に大きな耳を持つ傾向が報告されています 21。同様の傾向は、近縁のウッドラット(Neotoma属)を用いた研究でも確認されており、乾燥した内陸部に生息する個体群は、湿潤な沿岸部の個体群よりも著しく長い耳を持つことが示されています 7。これらの観察結果は、暑熱環境下での効率的な熱放散のために、より大きな耳が自然選択によって有利になることを強く示唆しています。
さらに、実験的な証拠もこの考えを支持します。実験室条件下で、比較的高温の環境で飼育されたウサギは、通常の温度で飼育されたウサギよりも大きな耳に成長することが示されています 21。これは、発生・成長過程においても環境温度が耳のサイズに影響を与える可塑性を持つことを示唆します。
耳の長さと他の生理・生産形質との関連も研究されています。いくつかの研究では、特に暑熱ストレス下において、耳の長さと成長率(日増体量など)の間に正の相関が見られることが報告されています 23。これは、より大きな耳を持つ個体の方が体温調節能力が高く、暑熱環境下でも成長を維持しやすい可能性を示唆しています。ただし、この相関関係の解釈には注意が必要です。単に体が大きい(つまり成長が良い)個体は、比例して耳も大きいという可能性も考えられるため、耳の長さ自体が直接的に成長を促進するとは断定できません 24。しかしながら、これらの研究結果は、体温調節器官としての耳の機能が、ウサギの生理状態や生産性にも影響を与えうることを示唆しています。
表1:ウサギの耳の機能的重要性
機能 (Function) | 主要な特徴 (Key Features) | 適応的利点 (Adaptive Advantage) | 関連資料 (Supporting Sources) |
聴覚 (Hearing) | 大きな耳介 (Large Pinnae) | 広範囲の音を効率的に集音 (Efficient sound capture) | 1 |
高い可動性 (High Mobility, up to 270° rotation) | 正確な音源定位 (Precise sound localization) | 1 | |
高周波感受性 (High-frequency sensitivity, up to 42 kHz) | 捕食者の微細な音や遠距離からの接近を検知 (Detect subtle/distant predator sounds) | 1 | |
体温調節 (Thermoregulation) | 大きな表面積 (Large surface area, ~12% of body) | 効率的な熱放散(放射・対流)(Efficient heat dissipation via radiation/convection) | 2 |
豊富な血管網 (Rich vascular network) | 血流調節による熱放散制御 (Control of heat loss via blood flow regulation) | 2 | |
気候との相関 (Correlation with climate) | 温暖/乾燥気候への適応 (Adaptation to warm/arid climates) | 7 | |
コミュニケーション (Communication) | 耳の位置・動き (Ear position and movement) | 感情状態や意図の伝達(警戒、弛緩、恐怖など)(Signaling emotional state/intent) | 1 |
社会的信号 (Social signaling) | 個体間相互作用の円滑化 (Facilitating social interactions) | 1 |
第一章の考察 (Considerations from Chapter 1)
ウサギの耳が持つ二つの主要な機能、すなわち鋭敏な聴覚と効率的な体温調節は、その特徴的な形態、特に大きなサイズと密接に関連しています 1。大きな耳介は、より多くの音波を捉えることで聴覚感度を高めると同時に、より広い表面積を提供することで熱放散効率を高めます。この事実は、ウサギの耳の進化を駆動した選択圧について興味深い問いを投げかけます。果たして、大きな耳は主に聴覚能力の向上のために選択され、体温調節機能はその副次的な利益(あるいは前適応、exaptation)として獲得されたのでしょうか?あるいは、体温調節の必要性が主要な選択圧だったのでしょうか?
気候と耳のサイズの間に見られる強い相関 7 は、特に温暖な地域においては体温調節が耳の大型化を促す強力な選択圧であったことを示唆しています。しかし一方で、初期のウサギ類が既に優れた聴覚、特に高周波域での感度を持っていたという証拠 10 は、聴覚能力の向上もまた、進化の初期段階からの重要な選択圧であったことを示唆します。おそらく、開けた生息環境で360度の音響監視を可能にするための大きく可動性の高い耳介 1 への選択がまず働き、その結果として得られた大きな表面積が、後にウサギ類が多様な気候帯へ進出したり、異なる体サイズへと進化したりする過程で、効率的な体温調節器官としての新たな利点をもたらしたのかもしれません。
したがって、ウサギの耳の大きさの進化は、単一の機能的要求によって説明できるものではなく、聴覚と体温調節という複数の、そして時には相互に関連し合う選択圧が複雑に作用した結果である可能性が高いと考えられます。一方の機能への適応が、他方の機能の進化を制約したり、あるいは逆に促進したりといった相互作用があった可能性も考慮に入れる必要があります。この機能的な統合こそが、ウサギの耳のユニークな形態と、それがもたらす生物学的な成功の鍵となっているのかもしれません。
第2章:ウサギの耳の進化的背景 (Chapter 2: Evolutionary Background of Rabbit Ears)
前章で述べたウサギの耳の顕著な機能は、長い進化の歴史の中で、様々な選択圧に応じて形成されてきたものです。本章では、ウサギ科(Lagomorpha)全体の進化的な文脈、自然選択の役割、そして家畜化という特殊なプロセスが、ウサギの耳の形態と機能にどのように影響を与えてきたのかを探ります。
2.1 ウサギ科(Lagomorpha)における耳の進化 (Ear Evolution in Lagomorpha)
ウサギ科の起源と多様性 (Origin and Diversity of Lagomorpha)
ウサギ科(Lagomorpha)は、ウサギ(rabbits)、ノウサギ(hares)、そしてナキウサギ(pikas)を含む哺乳類の一分類群(目)です 2。現生のウサギ科は、約90種が世界中に分布しており、多様な環境に適応しています 26。形態的には比較的保守的なグループとされることもありますが 5、特に家畜化されたアナウサギ(Oryctolagus cuniculus domesticus)においては、人為選択の結果、耳の長さ、体サイズ、毛色、毛質などにおいて驚くほど多様な表現型が見られます 29。そのサイズ変異は、ウサギ科(Leporidae)全体で見られる多様性を超えるほどです 29。
ウサギ科の起源は古く、化石記録に基づくと、新生代の暁新世後期から始新世前期(約5500万年前~5000万年前)には既に存在していたと考えられています 28。げっ歯類(Rodentia)と近縁であり、ともにグリレス類(Glires)という上位分類群を形成します 27。
祖先的形質と化石記録 (Ancestral Traits and Fossil Records)
ウサギ科の初期進化を理解する上で、化石記録は重要な情報源となります。特に、始新世中期から漸新世初期にかけて北米やアジアで繁栄したMegalagusやPalaeolagusといった初期のウサギ類の化石からは、頭蓋や内耳・中耳の構造に関する知見が得られつつあります 10。
前述の通り、Megalagus turgidusの内耳(骨迷路)の解析からは、この初期のウサギ類が既に現生のウサギに匹敵する聴覚感度、特に高周波音に対する高い感度を持っていたことが示唆されています 10。これは、ウサギ科の進化の比較的早い段階で、捕食者回避に有利な聴覚能力が重要な適応形質として確立されていたことを示します。また、Palaeolagus haydeniの研究からは、中耳の構造に関する情報も得られており、現生ウサギ類との比較を通じて、形態形質の進化的変化(極性)を推定する手がかりとなっています 30。
しかしながら、ウサギの耳の最も顕著な部分である外耳(耳介)は、主に軟骨組織で構成されているため、化石として保存されることは極めて稀です。そのため、外耳の形態、特にそのサイズや形状が、進化の過程でどのように変化してきたのかを化石記録から直接的に追跡することは非常に困難です。外耳の進化については、後述するように、現生種の比較形態学や機能、生態、そして遺伝的な情報から間接的に推測する必要があります。
他のウサギ類との比較 (Comparison with Other Lagomorphs)
現生のウサギ科は、主にウサギ・ノウサギ類(Leporidae)とナキウサギ類(Ochotonidae)の二つの科に大別されます 28。これらのグループ間では、耳の形態に顕著な違いが見られます。
ノウサギ(Lepus属)は、一般的にアナウサギ(Oryctolagus属)やワタオウサギ(Sylvilagus属)などの「ウサギ」と呼ばれる種よりも、さらに長い耳と長い後肢を持ちます 27。これは、開けた草原などで高速走行するのに適した形態的特徴と考えられています。
一方、ナキウサギ(Ochotona属)は、ウサギやノウサギとは対照的に、丸くて小さな耳を持っています 27。彼らは主に高山や岩場に生息し、社会構造や発声コミュニケーションの様式も異なります。中耳の構造(耳小骨の固定様式など)においても、ウサギ・ノウサギ類とは異なる特徴が見られ、これは聴覚特性の違いに関連している可能性があります 30。
これらのウサギ科内部での耳形態の多様性は、それぞれのグループが異なる生息環境、気候条件、捕食圧、社会性、移動様式といった多様な生態的要因に適応してきた結果を反映していると考えられます。
2.2 自然選択圧と適応進化 (Natural Selection Pressures and Adaptive Evolution)
ウサギの耳の形態と機能は、自然選択によって形作られてきました。特に重要な選択圧として、捕食圧と気候への適応が挙げられます。
捕食圧と聴覚・形態への影響 (Predation Pressure and Effects on Hearing/Morphology)
常に捕食の脅威に晒されているウサギにとって、捕食者を早期に発見し回避する能力は生存に直結します。この強い捕食圧が、第1章で述べたような鋭敏な聴覚 1 や、音源を正確に特定するための可動性の高い大きな耳介 1 の進化を強力に推進したと考えられます。
さらに、捕食からの逃走能力を高めるために、ウサギ・ノウサギ類(leporids)は走行や跳躍に適した特有の形態を進化させてきました 5。これには、軽量化と衝撃吸収に関連すると考えられる頭蓋骨の窓形成(fenestration)や、頭蓋骨内部の可動性(intracranial joint / cranial kinesis)といった特徴が含まれます 5。DuBrul (1950) や Bramble (1989) は、これらの頭蓋の特殊化が、高速移動時の衝撃、特に視覚器官への影響を軽減するための適応であると提唱しています 5。Bramble (1989) はさらに、比較的重い耳介を持つ走行性のウサギ・ノウサギ類において、この頭蓋の可動性が、走行中の負荷サイクル間で運動メカニズムを「リセット」するのに役立っている可能性を指摘し、大きな耳の存在が頭蓋の進化と機能的に関連している可能性を示唆しました 32。
気候適応と耳介形態 (Climate Adaptation and Pinna Morphology)
第1章で詳述したように、ウサギの耳は体温調節においても重要な役割を果たします。この機能は、特に温暖な気候や乾燥した気候への適応において、耳介の形態進化に影響を与えたと考えられます。アレンの法則に従い、温暖・乾燥地域に生息するウサギや近縁種では、体熱を効率的に放散するために、相対的に大きな(長い)耳を持つ傾向が見られます 7。
Carneyら (2016) によるウッドラット(Neotoma)の研究は、この現象の進化的・発生的な背景に光を当てています 7。彼らは、乾燥した気候勾配に沿ってウッドラットの耳が長くなるだけでなく、それに伴って隣接する外耳道(external auditory meatus)の形態も共変することを発見しました。具体的には、耳が長くなるにつれて、外耳を支える骨性の管である外耳道の形状、特に外耳を動かす筋肉が付着する後方部分が変化したのです。
この発見は、チャールズ・ダーウィンが家畜の「垂れ耳ウサギ(lop-eared rabbit)」で観察した現象と驚くほど類似しています。ダーウィンは、人為的に極端に長い耳を持つように選択された垂れ耳ウサギにおいて、外耳道の形態にも変化が生じることを見出し、これを表現型の協調(phenotypic accommodation)の一例、すなわち一つの形質(耳の長さ)への選択が、発生的な相互作用を通じて構造的に関連する別の形質(外耳道)の変化を誘発する例として提示しました 7。ウッドラットの研究は、同様の形質間の共変動パターンが、人為選択ではなく、気候に関連する自然選択によって駆動される形で、自然個体群にも存在することを示した初めての証拠となりました。これは、耳の長さに対する選択が、発生プログラムを通じて外耳道の形態にも影響を及ぼす、構造的・発生的な連関が存在することを示唆しています。
2.3 家畜化と人為選択による形態変化 (Domestication and Morphological Changes due to Artificial Selection)
ウサギの耳の形態に見られる著しい多様性の多くは、自然選択ではなく、家畜化の過程における人為選択によって生み出されたものです。
家畜化の起源と遺伝的影響 (Origin and Genetic Impact of Domestication)
現在世界中で飼育されているイエウサギ(Oryctolagus cuniculus domesticus)の祖先は、フランス南部に生息していた野生のアナウサギ(Oryctolagus cuniculus cuniculus)であると考えられています 29。家畜化が始まったのは比較的最近で、おそらく過去1500年以内、フランスの修道院などで始まったとされています 29。
遺伝学的研究によると、この家畜化は比較的小さな創始者集団(有効集団サイズとして1200個体未満と推定)から始まったため、強いボトルネック効果が生じました 29。その結果、現在のイエウサギが持つ遺伝的多様性は、祖先となった野生集団が持っていた多様性の一部(約60%)に過ぎません 29。
ゲノムワイドな解析からは、家畜化の過程で単一または少数の遺伝子だけでなく、多数の遺伝子座が人為選択の影響を受けたことが示唆されています 6。特に、神経堤細胞の発生や神経系の機能に関連する遺伝子群において、野生集団と家畜集団の間で顕著な対立遺伝子頻度の差が見られることが報告されています 6。これは、家畜化の初期段階において、より従順でおとなしい行動を示す個体が選択された結果を反映している可能性があります。
多様な品種と耳の形態 (Diverse Breeds and Ear Morphology)
家畜化以降、人間は特定の目的(食肉用、毛皮用、愛玩用など)のために、様々な形質を持つ個体を選択的に交配させてきました。その結果、体重、体型、毛色、毛質、そして耳の形態において、驚くほど多様な品種が生み出されました 29。耳の形態に関して言えば、ネザーランドドワーフのように体重1kg程度で耳も非常に短い品種から、フレミッシュジャイアントのように体重7kg以上にもなり耳も体に合わせて長大な品種まで、極端な変異が見られます 2。
垂れ耳(ロップイヤー)の形成メカニズム (Mechanism of Lop Ear Formation)
家畜ウサギに見られる最も顕著な耳の形態変異の一つが、垂れ耳(lop ears)です。これは完全に人為選択の産物であり、野生のアナウサギには見られません 7。垂れ耳を持つ品種(例:イングリッシュロップ、フレンチロップ)は、愛玩動物として人気があります。
垂れ耳が生じる直接的な原因は、耳介を支える軟骨の構造異常にあると考えられています 12。通常の直立耳(up-eared)のウサギでは、3つの軟骨片が連動して耳をしっかりと支えていますが、垂れ耳のウサギでは、これらの軟骨片の間に隙間(gap)が存在し、耳介を物理的に支えることができなくなるため、耳が垂れ下がってしまうのです 12。この軟骨形成異常を引き起こす具体的な遺伝的変異については、まだ完全には解明されていませんが、家畜化に伴う人為選択によって固定されたものと考えられます。
ダーウィンは、垂れ耳ウサギの極端に伸長した耳への人為選択が、隣接する外耳道の形態にまで影響を及ぼすことを観察しました 7。これは、一つの形質に対する強い選択圧が、発生的な可塑性や構造的な連関を通じて、予期せぬ他の形質の変化を引き起こす可能性を示唆しています。
機能的な観点からは、垂れ耳は必ずしも有利な形質とは言えません。耳道が垂れ下がった耳介によって覆われるため、通気性が悪くなり、耳垢が排出されにくくなります 12。その結果、外耳炎などの耳の感染症のリスクが高まることが指摘されています 12。また、聴覚能力、特に音源定位能力にも影響を与える可能性があります 12。これは、自然選択が機能的な最適化を促すのに対し、人為選択は時に審美的な理由などから、機能的には不利になりうる形質をも増幅させ得ることを示す顕著な例と言えます。
第二章の考察 (Considerations from Chapter 2)
ウサギの耳の進化を考察する上で、化石記録から得られる情報には限界があることを認識する必要があります。内耳の骨迷路は比較的よく保存され、Megalagusのような初期のウサギ類の聴覚能力や運動様式について貴重な情報を提供してくれます 10。しかし、外耳(耳介)は軟骨性であるため化石として残りにくく、そのサイズや形状、そして体温調節や集音効率といった機能が進化の過程でどのように変化してきたのかを直接的に知ることは困難です。したがって、外耳の進化に関する我々の理解は、現生するウサギ科動物(ウサギ、ノウサギ、ナキウサギ)の比較解剖学 27、現生個体群における形態と気候要因との相関関係 7、そして想定される選択圧(捕食、気候)からの機能的推論といった間接的な証拠に大きく依存しています。頭蓋形態(可動性や窓形成)と移動様式や耳の質量との関連性 5 も興味深い視点を提供しますが、これらも外耳の形態を直接示すものではありません。初期のウサギ類が優れた聴覚を持っていたことは示唆されていますが、その当時の耳介が具体的にどの程度の大きさで、体温調節にどれほど寄与していたのかを正確に復元することは、現時点では難しい課題です。
一方で、家畜化に伴って出現した垂れ耳という形質は、人為選択が生物の形態と機能に与える劇的な影響を浮き彫りにします。垂れ耳は、野生型とは異なる軟骨構造の異常に起因し 12、外耳炎などの健康問題を引き起こすリスクも伴います 12。これは、聴覚や体温調節、耳道の自浄作用といった、自然選択によって最適化されてきたであろう機能的な側面から見ると、明らかに不利な形質です。ダーウィンが指摘したように、極端な耳の長さへの選択が発生的な協調を乱し、関連する外耳道の形態変化を引き起こした可能性もあります 7。垂れ耳の存在は、人間による選択が、自然界での生存や繁殖における機能的な最適性とは異なる基準(例えば審美性)に基づいて働き、時には生物学的な制約を乗り越えて(あるいは無視して)特定の形質を極端に増幅させ得ることを示す好例と言えるでしょう。
第3章:耳の発生と形態形成の分子的・遺伝的基盤 (Chapter 3: Molecular and Genetic Basis of Ear Development and Morphogenesis)
ウサギの耳のユニークな形態と機能は、その発生と形態形成を制御する複雑な分子的・遺伝的メカニズムに基づいています。本章では、耳の発生に関与する遺伝子や転写因子、シグナル伝達経路、そして形態変異の遺伝的基盤について、現在までに得られている知見を概説します。
3.1 耳の発生に関与する遺伝子と転写因子 (Genes and Transcription Factors in Ear Development)
哺乳類における耳発生の基本メカニズム (Basic Mechanisms of Ear Development in Mammals)
哺乳類の耳、特に聴覚と平衡感覚を司る内耳の発生は、胚発生における精密な遺伝子制御ネットワークと細胞間シグナル伝達によって厳密にコントロールされる複雑なプロセスです。発生初期において、頭部外胚葉の一部が誘導を受けて肥厚し、耳プラコード(otic placode)を形成します。この耳プラコードが陥入して耳胞(otic vesicle)となり、さらに複雑な形態変化を経て、聴覚器官である蝸牛(cochlea)や平衡感覚器官である前庭(vestibule)、三半規管(semicircular canals)などが分化・形成されます 36。この過程には、多数の転写因子やシグナル分子が時空間的に協調して働くことが知られています。
候補遺伝子とその役割 (Candidate Genes and Their Roles)
ウサギの耳の形態形成や機能に関連する可能性のある遺伝子として、いくつかの候補が挙げられます。
- SOX2: SOX2遺伝子は、幹細胞性の維持に重要な役割を果たすSOX(SRY-box)ファミリーの転写因子をコードします。ゲノム解析により、ウサギの家畜化の過程で強い選択を受けたゲノム領域(selective sweep)の近傍にSOX2遺伝子が存在することが示唆されています 6。さらに、この遺伝子近傍の保存された非コード領域における遺伝子多型(SNP)が、家畜化に伴う対立遺伝子頻度の変化を示しており、SOX2の発現制御の変化が選択の対象となった可能性が考えられます 6。マウスを用いた研究では、SOX2が内耳の感覚上皮(有毛細胞や支持細胞を生み出す領域)の発生に必須であることが示されており 37、家畜化におけるSOX2周辺領域への選択が、聴覚を含む感覚器の発達や関連する形態に影響を与えた可能性があります。
- HMGA2: HMGA2(High-Mobility Group AT-hook 2)遺伝子は、クロマチン構造の調節に関与し、細胞増殖や分化、ひいては体全体の成長を制御する重要な因子です。ウサギにおいて、HMGA2遺伝子を含む12.1 kbのゲノム領域の欠失が、矮性(dwarfism)の原因となることが突き止められています 34。この欠失をヘテロ接合で持つウサギ(Dw/dw)は、正常な個体(Dw/Dw)の約3分の2の体サイズになるだけでなく、短い鼻、比較的小さな耳、そして体に対する頭部の比率が大きいといった特徴的な形態を示します 34。これは、HMGA2が全身のサイズだけでなく、頭蓋顔面部の形態形成、そして耳のサイズにも影響を与える多面的な機能を持つことを示唆しています。耳のサイズが、体全体の成長を制御する遺伝的プログラムと密接に連関していることを示す直接的な証拠と言えます。
- SOX8: SOX8もSOXファミリーに属する転写因子です。ニワトリ胚を用いた研究では、SOX8が耳の運命決定において重要な役割を果たし、階層的な遺伝子制御ネットワークの最上位に位置する可能性が示されています 36。この研究では、本来耳にならない運命を持つ頭部外胚葉細胞にSOX8を強制発現させると、それらの細胞が耳の前駆細胞へと転換し、耳胞様の構造を形成し、さらには神経細胞の分化まで誘導されることが示されました 36。ウサギにおけるSOX8の直接的な機能はまだ解明されていませんが、哺乳類においても耳のアイデンティティ確立に関与するマスター制御因子である可能性が考えられます。
- EYA1: EYA1遺伝子は、転写共役因子(transcriptional co-activator)をコードしており、SIXファミリーやDACHファミリーの転写因子と複合体を形成して遺伝子発現を制御します。ヒトにおいて、EYA1遺伝子の機能喪失変異(ハプロ不全)は、鰓弓(branchial arch)、耳(oto)、腎(renal)の発生異常を特徴とする先天性疾患、鰓弓耳腎症候群(Branchio-Oto-Renal syndrome)を引き起こします 37。この症候群は、高度難聴の主要な原因の一つです。マウスを用いた研究から、Eya1は内耳の感覚器官(蝸牛や前庭器官)の発生において、その発現量が重要であり(用量依存性)、感覚細胞(有毛細胞)の分化やパターン形成に必須の役割を果たすことが示されています 37。また、Eya1はSox2と共発現し、物理的にも相互作用することが報告されており 37、これらの因子が協調して感覚器官発生を制御している可能性が示唆されます。
- RBE (RABBIT EARS): RBE遺伝子は、モデル植物であるシロイヌナズナにおいて発見された遺伝子で、C2H2タイプのジンクフィンガー転写因子をコードします 39。この遺伝子の変異体(rbe変異体)が、ウサギの耳のように細長く小さい花弁を形成することから命名されました。RBEは、花弁の初期発生段階で特異的に発現し、別の転写因子であるTCP4の発現を直接抑制することで、花弁の成長を制御していることが示されています 39。この遺伝子は植物のものであり、ウサギの耳の発生に直接関与するわけではありませんが、器官のサイズや形態が特定の転写因子の発現制御によってどのように決定されるかを示す興味深い例として参考になります。
- その他の候補: ウサギの家畜化に伴うゲノム上の選択痕跡を解析した研究では、特定の遺伝子だけでなく、特定の機能を持つ遺伝子群が集積している領域も指摘されています。例えば、感覚器(聴覚、視覚)の発達や、頭蓋顔面形態の異常に関連する遺伝子群が、選択を受けたSNP(一塩基多型)の近傍に統計的に有意に多く見られることが報告されています 6。これらの領域には、まだ機能が特定されていないものの、ウサギの耳の形態や機能の進化に関与した未知の遺伝子が含まれている可能性があり、今後の研究対象として注目されます。
3.2 耳の発生におけるシグナル伝達経路 (Signaling Pathways in Ear Development)
個々の遺伝子だけでなく、細胞間のコミュニケーションを担うシグナル伝達経路も、耳を含む器官の発生と形態形成において中心的な役割を果たします。哺乳類の胚発生においては、いくつかの主要なシグナル伝達経路が繰り返し利用され、発生段階や組織に応じて異なる役割を担います。ウサギの耳の発生においても、これらの保存された経路が重要であると考えられます。
- FGF (Fibroblast Growth Factor) signaling: FGFシグナル伝達経路は、胚発生の非常に初期の段階から、細胞の増殖、分化、移動、パターン形成など、極めて多様な生命現象に関与しています 42。中胚葉や神経外胚葉の誘導・維持、原腸陥入などの形態形成運動の制御、体軸(特に前後軸)のパターン形成、体節形成、そして様々な器官(肢、肺、脳など)の発生に必須の役割を果たします 42。肢芽の発生においては、後述するShhシグナルやHox遺伝子と協調して、肢の伸長や指のパターン形成を制御します 44。ウサギにおいては、FGF5遺伝子の変異が毛の長さ(アンゴラ形質)に関与することが知られていますが 34、耳介のような付属器官の成長制御にもFGFシグナルが関与している可能性は十分に考えられます。
- BMP (Bone Morphogenetic Protein) signaling: BMPシグナル伝達経路は、TGF-βスーパーファミリーに属する分泌性タンパク質によって活性化され、胚の背腹軸のパターン形成において中心的な役割を担います 46。腹側化シグナルとして機能する一方で、神経誘導を抑制する働きも持ちます。BMPシグナルは、骨や軟骨の形成、器官形成(心臓、腎臓、眼など)を含む、発生における多岐にわたるプロセスに関与しています。耳の発生においては、マウスの研究で、中耳の耳小骨(特にアブミ骨)の形成に咽頭内胚葉からのBMP4シグナルが必要であることが示されています 47。また、ゼブラフィッシュを用いた研究では、BMPシグナルが単独でなく、FGFシグナルやNodalシグナルといった他の経路と組み合わせ的に作用することで、標的遺伝子の複雑な時空間的発現パターンを生み出し、胚のパターン形成を制御していることが示唆されています 46。
- Shh (Sonic Hedgehog) signaling: Shhシグナル伝達経路は、胚発生における最も重要なパターン形成シグナルの一つです。肢芽の発生においては、後方部に位置するZPA(Zone of Polarizing Activity)から分泌され、肢の前後軸(親指-小指軸)のパターン形成を決定します 44。また、神経管の発生においては、腹側正中線(脊索や床板)から分泌され、神経管の背腹軸に沿ったニューロンの種類の決定(腹側化)を制御します 47。内耳の発生に関する近年の研究では、内耳オルガノイド(in vitroで作成した内耳のミニチュア器官)において、Shhシグナルを活性化する薬剤(Shhアゴニスト)を投与すると、有毛細胞の感覚毛(stereocilia)の構造的な成熟が促進されることが報告されています 38。これは、Shhシグナルが内耳の感覚細胞の分化・成熟にも関与していることを示唆します。また、前脳や視床下部といった脳の腹側正中線構造の発達にもShhシグナルは必須です 47。
- Hox genes: Hox遺伝子群は、前後軸に沿った体の領域特異的な形態形成を制御するマスター制御遺伝子として知られています。これらの遺伝子は、DNAに結合するホメオドメインを持つ転写因子をコードしており、染色体上でクラスターを形成し、その並び順と発現領域が体の前後軸に沿った位置と対応するという特徴(共直線性、colinearity)を示します。肢芽の発生においては、FGFシグナルやShhシグナルと相互作用しながら、肢の各部分(上腕/大腿、前腕/下腿、手/足)の形成や指の数・形状の決定に関与します 44。耳の発生、特に内耳や中耳を構成する各構造の位置決めや形態形成においても、Hox遺伝子群が領域特異的なアイデンティティを与える役割を果たしている可能性がありますが、その詳細なメカニズムについては、まだ解明されていない点が多く残されています。
3.3 形態変異の遺伝的基盤 (Genetic Basis of Morphological Variation)
ウサギに見られる耳の形態(サイズ、形状)の多様性は、どのような遺伝的基盤に基づいているのでしょうか。
耳のサイズと形状の遺伝学 (Genetics of Ear Size and Shape)
耳の長さや幅といった形質は、連続的な変異を示す量的形質(quantitative trait)です。一般に、量的形質は、単一の遺伝子ではなく、多数の遺伝子座(ポリジーン、polygene)が関与し、それぞれの遺伝子の効果は比較的小さく、それらが累積的に作用することで表現型が決定されると考えられています 49。さらに、環境要因(栄養状態、温度など)も表現型に影響を与えます。
ウサギの耳のサイズに関しても、基本的にはこのポリジーンモデルが当てはまると考えられます。ただし、前述のHMGA2遺伝子のように、比較的大きな効果を持つ単一遺伝子(major gene)が存在することも示されています 34。HMGA2のヘテロ欠失は、体サイズ全体を縮小させるとともに、耳のサイズも小さくします。これは、この遺伝子が耳を含む全身の成長制御において重要な役割を担っていることを示しています。しかし、多くの品種間で見られる耳のサイズの微妙な差異や、個体間のばらつきは、HMGA2だけでは説明できず、効果のより小さな多数の遺伝子座における対立遺伝子の組み合わせによって生じている可能性が高いと考えられます。
垂れ耳形質については、前述のように耳介軟骨の構造異常が原因と考えられていますが 12、この異常を引き起こす具体的な原因遺伝子や変異は、まだ完全には特定されていません。おそらく、軟骨の発生や維持に関わる遺伝子の変異が関与していると考えられますが、単一の遺伝子による単純な劣性または優性遺伝ではなく、より複雑な遺伝様式を示す可能性もあります。
家畜化における選択のゲノム的証拠 (Genomic Evidence of Selection during Domestication)
近年のゲノム解析技術の進歩により、ウサギの家畜化の過程でどのような遺伝的変化が起きたのか、そのゲノム上の痕跡を探ることが可能になってきました。野生集団と多様な家畜品種のゲノム配列を比較することで、人為選択によって特定の対立遺伝子が急速に頻度を増した(あるいは固定した)と考えられるゲノム領域、すなわち選択的掃引(selective sweep)の痕跡を検出することができます 6。
Carneiroら (2014) の研究では、野生ウサギと6つの主要な家畜品種のゲノムを比較し、家畜化に関連する選択を受けた可能性のある多数のゲノム領域を同定しました 6。これらの領域に含まれる遺伝子の機能を解析したところ、特に神経系の発達や機能に関連する遺伝子が多く含まれていることが分かりました 6。これは、家畜化における行動形質(従順さなど)への選択を反映していると考えられます。
さらに、これらの選択を受けた領域や、野生集団と家畜集団の間で対立遺伝子頻度が大きく異なるSNP(ΔAFが高いSNP)の近傍にある遺伝子について、その機能カテゴリーを網羅的に解析した結果、感覚器(聴覚や視覚を含む)の発達に関連する遺伝子群が統計的に有意に濃縮されていることが示唆されました 6。これは、家畜化の過程で、聴覚能力や、あるいは耳の形態そのものに関連する遺伝子が、直接的または間接的に選択の対象となった可能性を示唆しています。
特に注目されるのは、SOX2遺伝子の近傍に見られる選択の痕跡です 6。この領域には、遺伝子の発現を制御する可能性のある保存された非コード領域が含まれており、この領域内のSNPが家畜化に伴って選択された可能性があります 6。SOX2自体が感覚器発生に重要な役割を果たすことを考えると、この遺伝子の発現制御の変化が、家畜ウサギの何らかの表現型(聴覚特性や関連する形態など)の変化に寄与した可能性は十分に考えられます。
これらのゲノムレベルでの証拠は、ウサギの耳を含む様々な形質の変化が、少数の遺伝子だけでなく、多数の遺伝子座における対立遺伝子頻度の変化という多因子的な基盤(polygenic basis)を持っていることを裏付けています。
表2:ウサギの耳の発生に関与する可能性のある主要な遺伝子とシグナル伝達経路
遺伝子/経路 (Gene/Pathway) | 既知/推定される発生上の役割 (Known/Hypothesized Role in Development) | 証拠源 (Evidence Source) | 関連資料 (Supporting Sources) |
HMGA2 | 体サイズ・耳サイズの制御、矮性の原因 (Regulation of body/ear size, cause of dwarfism) | ウサギ (Rabbit studies) | 34 |
SOX2 | 感覚器(内耳)発生、幹細胞性維持、家畜化候補 (Sensory organ (inner ear) dev., stemness, domestication candidate) | ウサギ (ゲノム), マウスモデル (Rabbit genome, Mouse models) | 6 |
SOX8 | 耳の運命決定(階層上位)(Ear fate determination (top of hierarchy)) | ニワトリモデル (Chick models) | 36 |
EYA1 | 感覚器(内耳)発生、ヒト難聴遺伝子 (Sensory organ (inner ear) dev., human deafness gene) | ヒト, マウスモデル (Human, Mouse models) | 37 |
FGF signaling | 軸形成、器官形成、肢芽/付属肢成長、Hox制御、毛長 (FGF5) (Axis formation, organogenesis, limb/appendage growth, Hox control, hair length (FGF5)) | 一般的な発生生物学, ウサギ (毛長), 培養細胞 (General dev bio, Rabbit (hair), In vitro models) | 34 |
BMP signaling | 背腹軸パターン形成、骨/軟骨形成、耳小骨形成、組み合わせシグナル (DV patterning, bone/cartilage form., ossicle form., combinatorial signaling) | 一般的な発生生物学, マウスモデル, ゼブラフィッシュモデル (General dev bio, Mouse models, Zebrafish models) | 46 |
Shh signaling | 前後軸/背腹軸パターン形成、有毛細胞成熟、頭蓋顔面正中線 (AP/DV patterning, hair cell maturation, craniofacial midline) | 一般的な発生生物学, マウスモデル, 内耳オルガノイド (General dev bio, Mouse models, Inner ear organoids) | 38 |
Hox genes | 前後軸パターン形成、肢芽パターン形成 (AP patterning, limb patterning) | 一般的な発生生物学, 培養細胞 (General dev bio, In vitro models) | 44 |
第三章の考察 (Considerations from Chapter 3)
ウサギの家畜化が約1500年という進化的に見れば比較的短期間に起こったにもかかわらず、耳のサイズや形状を含む形態的多様性がこれほど急速に拡大したという事実は 29、人為選択の強力な影響力を物語っています。この急速な表現型変化は、選択圧が非常に強かったことに加え、選択の対象となった形質を制御する遺伝的基盤が発生的に変更可能(plastic)であったことを示唆します。HMGA2遺伝子の欠失が矮小化と小さな耳をもたらすように 34、比較的大きな効果を持つ遺伝子への選択が働いた可能性もあります。同時に、家畜化が多因子的な基盤を持つこと 6、そしてSOX2のような重要な発生制御遺伝子の近傍にある非コード領域(遺伝子発現を調節するエンハンサーなどを含む可能性がある)に選択の痕跡が見られること 6 は、遺伝子そのものの変化だけでなく、遺伝子発現のタイミングや量を変化させる制御領域の変異が、急速な形態進化において重要な役割を果たした可能性を強く示唆しています。異なる品種がそれぞれ特徴的な耳の形態を持つことは、これらの様々な遺伝子座における異なる対立遺伝子の組み合わせが、各品種の系統で選択され、固定または高頻度化してきた結果と考えられます。
一方で、ウサギの耳の発生を支える分子メカニズムの根幹は、他の哺乳類と共通していると考えられます。FGF、BMP、Shhといった主要なシグナル伝達経路や、Soxファミリーのような転写因子群は、脊椎動物の発生において広く保存されており、器官形成の基本的なツールキットとして機能しています 36。これらの経路や因子が、ウサギの耳の発生においても同様に重要な役割を果たしていることは疑いありません。しかしながら、最終的に形成されるウサギの耳の形態、すなわち体に対して大きく、可動性に富み、高度に血管が発達した構造は、他の多くの哺乳類、例えば近縁のナキウサギ 27 と比べてもユニークです。これは、基本的な発生プログラム(分子ツールキット)は保存されているものの、その使い方、すなわち特定の遺伝子の発現のタイミング、場所、強さ、あるいは下流の標的遺伝子との相互作用といった側面に、ウサギ科特有の、あるいはウサギ属特有の改変が加わった結果、種特異的な形態が生み出されたことを意味します。この「保存されたプログラムの再配線」や「微調整」こそが、ウサギの耳の独自性を生み出した鍵であると考えられます。今後、他の哺乳類との比較ゲノム解析を通じてウサギ科特異的な遺伝子や制御領域を探索することや、ウサギ胚を用いた遺伝子発現解析や機能解析を進めることが、これらの種特異的な制御メカニズムを解明する上で不可欠となるでしょう。
結論 (Conclusion)
進化学的・分子生物学的視点の統合 (Synthesis of Evolutionary and Molecular Biological Perspectives)
本稿では、ウサギの耳が持つ特徴的な形態と機能について、進化学と分子生物学という二つの視点から考察を行いました。その結果、ウサギの耳の独自性は、長い進化の歴史の中で形成されてきた複雑な適応の産物であることが明らかになりました。鋭敏な聴覚は、捕食者からの回避という強い自然選択圧によって進化し、ウサギ科の初期段階から既に高度に発達していたと考えられます 1。一方、大きな耳介が持つ効率的な体温調節機能は、特に温暖な気候への適応において重要な役割を果たし、アレンの法則に合致する形態変化を促した可能性があります 3。さらに、家畜化という比較的新しいプロセスにおいては、人為選択が働き、垂れ耳のような自然界では見られない極端な形態を含む、驚くほど多様な耳の表現型が生み出されました 12。
これらの形態と機能の進化の基盤には、哺乳類で広く保存された耳の発生・形態形成に関わる遺伝子・シグナル伝達経路(例:FGF, BMP, Shh, Sox遺伝子)が存在します 36。しかし、ウサギ特有の耳の形態は、これらの保存されたプログラムの種特異的な改変、すなわち遺伝子発現の制御様式の変化や、特定の遺伝子(例:HMGA2)の効果によって生み出されていると考えられます 6。家畜化における急速な形態変化は、これらの発生プログラムが強い選択圧の下で比較的変更可能であることを示唆しています。
ウサギの耳の形態形成における要因の相互作用 (Interaction of Factors in Rabbit Ear Morphogenesis)
結論として、ウサギの耳の形態は、単一の要因によって決定されるのではなく、複数の要因が複雑に相互作用した結果として理解されるべきです。遺伝的要因(発生に関わる構造遺伝子、その発現を制御する調節領域)、発生的要因(細胞間のシグナル伝達、組織間の相互作用、成長パターン)、環境要因(生息地の気候、栄養状態)、そして選択圧(捕食圧、気候適応、人為選択)が、相互に影響を与え合いながら、最終的な耳の形態を形作ってきました。
特に興味深いのは、聴覚と体温調節という二つの主要な機能が、耳の形態進化においてどのように相互作用してきたかという点です。大きな耳は両方の機能に有利ですが、その進化の過程で、一方の機能への最適化が他方の機能に制約を与えたり(トレードオフ)、あるいは逆に有利に働いたり(相乗効果)した可能性が考えられます。この機能間の相互作用の歴史的・発生的なダイナミクスを解明することは、ウサギの耳の進化を深く理解する上で重要な課題です。
今後の展望 (Future Directions)
ウサギの耳に関する我々の理解は進展してきましたが、まだ多くの謎が残されています。特に、耳のサイズや形状の多様性を生み出す具体的な遺伝的基盤や、保存された発生プログラムがどのように種特異的に改変されてきたのかについては、さらなる研究が必要です。
近年のゲノム編集技術(CRISPR-Cas9など)の発展は、ウサギを対象とした分子遺伝学的な研究を加速させる可能性を秘めています 52。特定の遺伝子の機能をウサギ生体内で直接操作し、その表現型への影響を調べることで、耳の発生・形態形成に関わる遺伝子の役割や、シグナル伝達経路の相互作用をより詳細に解明することが期待されます。また、様々な品種や野生集団のゲノム情報を活用した比較ゲノム解析や集団遺伝学的解析は、耳の形態進化に関与した遺伝的変異や選択圧を特定する上で強力なツールとなるでしょう。
これらの研究を通じて、ウサギの耳という魅力的な生物学的構造の成り立ちに対する理解がさらに深まることが期待されます。
参考文献 (References)
本稿の執筆にあたり、以下の学術論文、書籍、オンラインリソース等を参照しました。詳細な文献リストは、学術的な慣例に従い別途記載されるべきですが、ここでは引用した情報源の同定情報(例:1など)を本文中に示しました。これらの情報源には、例えば以下のものが含まれます:
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- (その他、本文中で引用した, に対応する文献)
引用文献
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