プロジェクトの定義とは?今更聞けない基本とプログラムとの関係性を徹底解説

目次

1. はじめに

現代のビジネスや日常生活において、「プロジェクト」という言葉は頻繁に使われます。新しい製品の開発、システムの導入、イベントの開催、さらには引っ越しや結婚式の準備といった個人的な活動まで、私たちは様々な場面でプロジェクトに関わっています 1。しかし、「プロジェクトとは具体的に何か?」と改めて問われると、明確に答えられない、あるいは「今更聞けない」と感じる方も少なくないのではないでしょうか。

本稿では、この基本的な問いに答えるため、プロジェクトの定義を徹底的に解説します。日本における一般的な理解から始め、プロジェクトマネジメントの国際的な標準であるPMBOK®ガイドやPRINCE2®における定義も参照し、その本質的な特徴を明らかにします。さらに、プロジェクトと混同されやすい「日常業務」「タスク」「プロダクト」との違いを明確にし、複数のプロジェクトを束ねる上位概念である「プログラム」についても解説します。

これらの定義を正確に理解することは、目標達成に向けた活動を効果的に計画・管理し、関係者間の円滑なコミュニケーションを図る上で不可欠です 2。本稿が、プロジェクトに関わるすべての方々にとって、その基礎を固める一助となれば幸いです。

2. プロジェクトとは何か?基本定義の徹底解説

まず、日本において「プロジェクト」が一般的にどのように理解されているか、そしてその基本的な定義要素について掘り下げていきます。

2.1 日本における一般的な理解

日本においてプロジェクトは、一般的に「ある特定の目的を達成するための取り組みや計画」として認識されています 3。多くの場合、特定の目的達成のために臨時で構成される組織やその業務自体を指すこともあります 3。これは、新しい価値を創造したり、何らかの変化をもたらしたりするための、通常業務とは区別される特別な活動というニュアンスを含んでいます。

2.2 プロジェクトを定義づける主要な特徴

プロジェクトの本質を理解する上で、国内外の定義に共通する重要な特徴が二つあります。「有期性」と「独自性」です。

2.2.1 有期性 (Temporariness / Finite Duration)

プロジェクトの最も基本的な特徴の一つは、明確な始まりと終わりがあることです 1。プロジェクトは永遠に続く活動ではなく、設定された目標が達成された時点、あるいはプロジェクトが中止された時点で終了します 10。この期間は、数週間といった短期間の場合もあれば、数年間に及ぶ長期間の場合もありますが、いずれにせよ期限が定められている点が重要です 9。例えば、「夏の新商品開発プロジェクト」は夏の商品発売に向けて開始され、発売をもって一つの区切りを迎えます 6。個人の活動で言えば、「引っ越しプロジェクト」は引っ越し日に向けて準備を進め、新居での生活が始まることで完了します 1

この「有期性」という性質は、プロジェクトを継続的に繰り返される「日常業務(定常業務)」と明確に区別します 1。日常業務が既存の仕組みの中で効率性や安定性を追求するのに対し、プロジェクトは限られた期間内に特定の目標を達成する必要があるため、開始から完了までの各段階(立ち上げ、計画、実行、監視・管理、終結など)を意識した特別なマネジメントアプローチが求められます 4。多くの場合、プロジェクトのために一時的なチームが結成され、プロジェクト終了と共に解散することも、この有期性に起因します 3。つまり、プロジェクトが「一時的」であるからこそ、スコープ定義、スケジュール管理、リスク管理、ステークホルダー調整といったプロジェクトマネジメント特有の技法が必要となるのです。

2.2.2 独自性 (Uniqueness)

プロジェクトのもう一つの重要な特徴は、独自のプロダクト、サービス、あるいは所産(成果物)を生み出すことを目的としている点です 1。ここでいう「独自」とは、過去に全く同じものを作ったことがない、何らかの新しい要素や、既存のものとは異なる性質を持っていることを意味します 4。たとえプロジェクト活動の中に反復的な作業が含まれていたとしても、最終的な成果物全体としてはユニークなものとなります 10。例えば、新しい機能を持つアプリケーションの開発 1、企業へのERPシステムの導入 3、新しい販売戦略の策定 1 などがこれに該当します。

この「独自性」は、プロジェクトを、標準化された手順に従って同じ製品を繰り返し生産するような活動(例:工場での量産)と区別します 9。独自であるがゆえに、プロジェクトには未知の要素が含まれ、予期せぬ問題が発生する可能性、すなわち不確実性やリスクが、定常業務に比べて本質的に高くなります 4。このため、プロジェクトマネジメントにおいては、潜在的なリスクを事前に特定し、評価し、対応策を計画・実行するリスクマネジメントのプロセスが不可欠となります 3。プロジェクトが常に新しい挑戦であるからこそ、慎重な計画と変化への適応が求められるのです。

2.3 プロジェクトと関連用語の違い

プロジェクトの定義をより明確にするために、混同しやすい関連用語との違いを見ていきましょう。

2.3.1 vs. 日常業務 (Routine Operations / Business As Usual)

前述の通り、プロジェクトと日常業務(定常業務、オペレーション)の最も大きな違いは「有期性」と「独自性」にあります。日常業務は、事業の継続や現状維持、効率化を目的とした、反復的で継続的な活動です 1。例えば、毎月の売上報告書の作成や、工場での定型的な製品製造などが該当します 1。一方、プロジェクトは、新しい価値の創造や変革を目的とした、一時的で非反復的な活動です 1。新しい販売戦略の策定や、新製品ラインの立ち上げなどがプロジェクトにあたります 1。この性質の違いから、プロジェクトマネジメントは日常業務の管理(オペレーションマネジメント)とは異なるアプローチやスキルセットを必要とします 8

2.3.2 vs. タスク (Task)

タスクとは、プロジェクトを構成する個別の作業や活動単位のことです 2。プロジェクトの目標を達成するためには、多くのタスクを完了させる必要があります 3。つまり、プロジェクトはタスクの集合体であると言えますが、単なるタスクの寄せ集めではありません 2。プロジェクトは、個々のタスクを管理するだけでなく、それらを統合し、全体の目標達成に向けて進捗、品質、コスト、リスクなどを管理する、より大きな枠組みです 2。WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)のようなツールは、プロジェクト全体の目標を達成可能なタスク群へと階層的に分解し、その関係性を可視化するために用いられます 2

2.3.3 vs. プロダクト (Product)

プロダクトとは、プロジェクト活動の結果として生み出される「成果物」そのものを指します 2。これは、物理的な製品(建物、デバイスなど)だけでなく、ソフトウェア、データ、サービス、文書、あるいは何らかの能力といった無形の成果も含まれます 2。一方、プロジェクトは、そのプロダクトを「生み出すための活動や取り組み」全体を指します 2。つまり、プロジェクトはプロセスであり、プロダクトはその結果です。この区別は、プロジェクトマネジメント(プロセス管理)とプロダクトマネジメント(成果物管理)の役割の違いを理解する上でも重要です 2。なお、後述するPRINCE2®では、この「プロダクト(成果物)」に焦点を当てることが原則の一つとされています 17

3. 国際標準に見るプロジェクトの定義

プロジェクトの基本的な特徴である「有期性」と「独自性」は世界共通の認識ですが、プロジェクトマネジメントの実務においては、国際的に認知された標準フレームワークが広く参照されています。ここでは、特に影響力の大きいPMBOK®ガイドとPRINCE2®におけるプロジェクトの定義を見ていきます。

3.1 PMBOK®ガイド(PMI)における定義

PMBOK®ガイド(Project Management Body of Knowledge Guide)は、米国の非営利団体であるPMI(Project Management Institute:プロジェクトマネジメント協会)が策定・発行する、プロジェクトマネジメントの知識体系です 5。PMIはプロジェクトマネジメントの普及を目的とし、国際資格であるPMP®(Project Management Professional)の認定も行っています 5

PMBOK®ガイドでは、プロジェクトを「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期性のある業務 (a temporary endeavor undertaken to create a unique product, service, or result)」と定義しています 6。この定義は、前述の基本的な特徴である「有期性」と「独自性」を明確に含んでいます 6。ここでいう「所産(result)」とは、プロジェクトが生み出す結果のことであり、有形・無形を問いません 10

PMBOK®ガイドは、プロジェクトマネジメントの知識を体系的に整理し、「知識エリア」(スコープ、スケジュール、コスト、品質、リスク、資源、コミュニケーション、調達、ステークホルダー、統合マネジメントなど)と「プロセス群」(立ち上げ、計画、実行、監視・管理、終結)のマトリクスでフレームワークを提供します 5。この標準は、特に北米を中心に、IT、建設、製造など多様な業界で広く採用されており 5、PMP®資格を目指す専門家やPMBOK®に準拠した環境で働く人々にとって、この定義の理解は必須です。

注目すべき点として、PMBOK®ガイドは時代に合わせて改訂されており、その内容は進化しています。特に最新版(第7版)では、従来のプロセス中心のアプローチから、価値提供や原則(原理・原則)を重視する方向へとシフトが見られます 5。これは、プロジェクトの成功を単にQCD(品質・コスト・納期)といった制約条件(トリプルコンストレイント 7)の達成だけで測るのではなく、プロジェクトが生み出す「価値」や「ビジネス目標への貢献」、「ステークホルダー満足度」といった、より広範な視点から捉えようとする近年の動向を反映しています 23。プロジェクトの基本的な定義(有期性・独自性)は揺るぎませんが、その存在意義や成功尺度の解釈は、より戦略的な視点へと進化していると言えるでしょう。

3.2 PRINCE2®における定義

PRINCE2®(PRojects IN Controlled Environments)は、英国政府(元々はOGC、現在はAxelosが所有)によって開発されたプロジェクト管理手法です 26。特に英国、ヨーロッパ、国連機関などで広く採用されており、デファクトスタンダードとなっています 18

PRINCE2®では、プロジェクトを「合意された一つ若しくはそれ以上のビジネスプロダクトを、合意されたビジネスケースに従って提供する目的で作成される一時的な組織 (a temporary organization that is created for the purpose of delivering one or more business products according to an agreed Business Case)」と定義しています 14

この定義は、「一時的な組織(temporary organization)」という側面を強調している点が特徴的です。また、「ビジネスケース(Business Case)」への言及が含まれていることも重要です。PRINCE2®はプロセスベースの手法であり、「7つの原則」「7つのテーマ」「7つのプロセス」によって構成されています 17。その原則の中核には、「ビジネス正当性の継続的な立証(Continued Business Justification)」があり、プロジェクトが開始時から終了まで、常にビジネス上の価値を提供し続ける正当性があるかを問い続けることを要求します 17。他にも、「成果物(プロダクト)重視(Focus on Products)」や「段階によるマネジメント(Manage by Stages)」、「定義された役割と責任(Defined Roles & Responsibilities)」などが重要な原則として挙げられます 17

PRINCE2®の定義と原則は、プロジェクトのガバナンス、管理、そしてビジネス上の価値への貢献を強く意識したアプローチを提供します。特に「ビジネスケース」を定義に含め、「ビジネス正当性の継続的な立証」を原則とすることで、プロジェクトの存在意義とその価値実現へのコミットメントを、手法の根幹から要求している点が、従来のPMBOK®の定義と比較して際立っています(ただし、前述の通りPMBOK®も価値提供を重視する方向へ進化しています)。これは、プロジェクトが単に計画通りに実行されるだけでなく、常にその投資対効果が検証されなければならないという、より経営的な視点を反映していると言えるでしょう。

3.3 表: プロジェクト定義の比較

主要な側面日本の一般的理解PMBOK®ガイド (PMI)PRINCE2®
基本特性特定目的達成のための取り組み 3有期性のある業務 9一時的な組織 14
期間期限(納期)がある 2明確な開始と終了がある(有期性)9一時的(Temporary)14
成果独自の成果物 2独自のプロダクト、サービス、所産 91つ以上のビジネスプロダクト 14
主な焦点目的達成 3独自成果物の創造 9ビジネスケースに基づくビジネスプロダクトの提供 14
関連標準/フレームワーク(特になし)PMBOK®ガイド 5PRINCE2® メソドロジー 17
背景/開発元(慣習的理解)PMI (米国) 5英国政府 (OGC/Axelos) 26

この比較表は、日本における一般的なプロジェクトの捉え方と、国際的な二大標準であるPMBOK®およびPRINCE2®における定義の共通点と相違点を整理したものです。いずれも「期限がある(一時的である)」ことと「独自のアウトプットを生み出す」ことを核としていますが、PMBOK®が成果物そのものの「独自性」を強調するのに対し、PRINCE2®はプロジェクトを実行するための「一時的な組織」と、その活動の根拠となる「ビジネスケース」を定義の中心に据えている点が特徴的です。

4. プログラムとは何か?プロジェクトの集合体

プロジェクトの定義を理解した上で、次はその上位概念である「プログラム」について解説します。プログラムは、複数のプロジェクトを束ねて管理する考え方です。

4.1 プログラムの定義

プログラムとは、一般的に、相互に関連する複数のプロジェクト、サブプログラム、およびプログラム活動を、調和の取れた方法でマネジメント(管理)することを指します 11。個々のプロジェクトを別々に管理するだけでは得られないような、より大きなベネフィット(便益や効果)を実現することを目的としています 11。言い換えれば、共通の目的や組織の戦略目標を達成するために、関連性の高いプロジェクト群を一つの集合体(ポートフォリオやグループ)として捉え、統合的に管理する活動です 11

4.2 PMBOK®ガイドにおけるプログラムの定義

PMBOK®ガイドにおいても、プログラムは同様に定義されています。「調和の取れた方法でマネジメントされる、関連するプロジェクト、サブプログラム、プログラム活動。個別にマネジメントしていては得られないベネフィットを実現する」とされています 11。ここでも、個別のプロジェクト管理を超えた「ベネフィットの実現」と「統合的な管理(コントロール)」が強調されています 11

PMBOK®の文脈では、プログラムは単に大規模で複雑な一つのプロジェクトを指すのではなく、あくまで複数の関連プロジェクトの集合体です 34。例えば、「次世代自動車開発プログラム」は、「制御基盤開発プロジェクト」「エコ型エンジン開発プロジェクト」「軽量車体開発プロジェクト」といった複数の個別プロジェクトで構成されます 11。また、「経費削減プログラム」という目標の下に、「節電推進プロジェクト」や「交通費削減プロジェクト」などが含まれるケースも考えられます 35。プログラムには、プロジェクトだけでなく、継続的な業務活動(オペレーション)が含まれることもあります 34

4.3 プログラムマネジメントの目的

なぜ組織はプロジェクトをプログラムとして束ねて管理するのでしょうか? プログラムマネジメントの主な目的は以下の通りです。

  • 戦略目標の達成: 個々のプロジェクトの成果を統合し、組織全体のより大きな戦略目標やビジネス目標の達成に貢献すること 30
  • プロジェクト間の相互依存関係の管理: プロジェクト間の依存関係(成果物の連携、スケジュールの同期など)を効果的に管理し、全体最適化を図ること 30
  • リソースの最適配分: 複数のプロジェクト間で、人材、予算、設備などの共有リソースを効率的に配分・調整すること 30
  • 統合的なリスク管理: 個別プロジェクトのリスクに加え、プログラム全体に影響を及ぼす可能性のあるリスクを特定し、管理すること 30
  • 戦略との整合性確保: すべての構成プロジェクトが、組織の戦略的方向性と一貫性を保ち、貢献していることを確認すること 30

プログラムマネジメントは、単に複数のプロジェクトを同時に管理するだけでなく、それらを戦略的に連携させ、個々のプロジェクトの合計以上の価値(シナジー効果)を生み出すことを目指す活動なのです 34

この観点から見ると、プログラムマネジメントは、組織の経営戦略と個々のプロジェクト実行との間の重要な「橋渡し役」を果たしていると言えます。経営層が描く戦略的な目標を、具体的なプロジェクト群へと展開し、それらが連携して実行されるように調整・管理します。そして、各プロジェクトが生み出す成果(アウトプット)が、最終的に組織が意図したビジネス上の成果(アウトカム)や便益(ベネフィット)に確実に結びつくように導く役割を担います。この戦略的な調整と連携こそが、プログラムマネジメントの本質であり、単一プロジェクトの管理や、関連性のない複数のプロジェクトを個別に管理することとは一線を画す点です。

5. プロジェクトとプログラムの関係性と違い

プロジェクトとプログラムは密接に関連していますが、その目的、範囲、管理方法において明確な違いがあります。両者の関係性と違いを理解することは、それぞれのマネジメントを効果的に行う上で重要です。

5.1 階層関係と戦略的連携

一般的に、プログラムはプロジェクトよりも上位の概念と見なされます 36。一つのプログラムは、その目標達成に貢献する複数の関連プロジェクトを含んでいます 11。個々のプロジェクトは、プログラム全体の目標達成に必要な特定の成果物(Deliverable)を提供します 37。プログラムマネジメントは、これらのプロジェクトが組織の広範な戦略目標と整合し、全体として貢献するように調整・管理する役割を担います 30。例えるなら、プログラムは同じ目的地(戦略目標)に向かう列車の集合体であり、各列車(プロジェクト)はその目的地に到達するための特定の役割を果たしている、と考えることができます 37

5.2 目的と焦点の違い:成果物 vs ベネフィット/成果

プロジェクトとプログラムの最も本質的な違いの一つは、その目的と焦点にあります。

  • プロジェクト: 主な焦点は、定義されたスコープ、期間、予算、品質といった制約の中で、特定の成果物(Output/Deliverable) を作り出すことです 33。プロジェクトの成功は、伝統的に、計画通りに成果物を完成できたか(QCD達成)によって測られることが多いです 24
  • プログラム: 主な焦点は、構成プロジェクト群の成果を通じて、より広範な成果(Outcome)や便益(Benefit) を実現することです 33。プログラムの成功は、単にプロジェクトが完了したかどうかではなく、その結果として意図した戦略的な目標が達成され、組織に具体的な価値や変化がもたらされたかによって評価されます 35

この「アウトプット(成果物)」と「アウトカム/ベネフィット(成果/便益)」の違いは重要です。なぜなら、個々のプロジェクトが計画通りに成果物を納品して「成功」したとしても、それらが組み合わさって期待されたビジネス上の成果や便益に繋がらなければ、プログラムとしては「失敗」と見なされる可能性があるからです。このギャップを埋め、プロジェクトの成果物が確実にプログラム全体の戦略的便益に転換されるように管理すること、すなわち「ベネフィット実現マネジメント」は、プログラムマネジメントの重要な責務ですが、従来のプロジェクトマネジメントでは比較的焦点が当てられにくい領域でした。プログラムは、成果物を生み出した後も、その成果が維持・活用され、目標とする便益が継続的に得られているかを監視する活動を含む場合があります 39

5.3 期間と性質の違い

  • 期間: プロジェクトは明確な開始日と終了日を持つ「一時的な」活動です 1。一方、プログラムは複数のプロジェクトにまたがるため、より長期間(数年からそれ以上)に及ぶことが多く、組織の戦略変更などに応じて内容が進化したり、継続的な性質を帯びたりすることもあります 33
  • 性質と複雑性: プロジェクトは「独自の」成果物を目指す個別の取り組みですが、プログラムは相互に関連する複数の取り組みを管理します。そのため、プログラムは一般的にプロジェクトよりもスコープが広く、関係するステークホルダーも多岐にわたり、管理すべき依存関係や不確実性が増大し、より複雑な性質を持ちます 37

5.4 表: プロジェクト vs プログラム比較

特徴プロジェクト (Project)プログラム (Program)
対象/スコープ特定の目標を持つ単一の取り組み 33共通の目標を持つ、相互に関連する複数のプロジェクト群 11
目的定義された成果物(Output/Deliverable)を期限・予算・品質内で完成させること 33構成プロジェクトを通じて、組織の戦略目標達成やビジネス上の成果(Outcome)・便益(Benefit)を実現すること 32
期間明確な開始と終了がある一時的なもの 2複数のプロジェクトにまたがるため、より長期的。継続的な場合もある 33
焦点特定の成果物、タスク、QCD(品質・コスト・納期)33戦略的目標、プロジェクト間の整合性、全体の最適化、ベネフィット実現 30
成功指標成果物のQCD達成、スコープの充足 24意図したベネフィットの実現、戦略目標への貢献度 35
管理者プロジェクトマネージャー (PM) 33プログラムマネージャー (PgM) 30
複雑性比較的小さく、不確実性は限定的 40比較的大きく、部門間の関係性が複雑で、不確実性が高い 37
新機能開発、ウェブサイト構築、特定の建設工事 1新製品ライン全体の市場導入、全社的なデジタルトランスフォーメーション、都市開発計画 11

この表は、プロジェクトとプログラムの主な違いをまとめたものです。両者は階層関係にあり、プロジェクトが具体的な「実行」を担うのに対し、プログラムはそれらを束ねて「戦略的な成果」へと導く役割を果たします。それぞれの特性を理解し、適切なマネジメントアプローチを適用することが、組織全体の目標達成に繋がります。

6. まとめ

本稿では、「プロジェクトとは何か?」という基本的な問いに答えるため、その定義と本質的な特徴について、日本における一般的な理解と国際標準(PMBOK®ガイド、PRINCE2®)の両面から解説しました。

プロジェクトの核心的な特徴は、「有期性(明確な始まりと終わりがあること)」と「独自性(ユニークな成果物を生み出すこと)」にあります。この二つの性質が、プロジェクトを日常的な定常業務と区別し、特別なマネジメントアプローチを必要とする理由です。

さらに、プロジェクトの上位概念である「プログラム」についても解説しました。プログラムは、共通の戦略目標達成のために、関連する複数のプロジェクトを統合的に管理する活動であり、個々のプロジェクトの成果を束ねて、より大きなビジネス上の便益や成果を実現することを目指します。

プロジェクトが特定の「成果物(アウトプット)」の創出に焦点を当てるのに対し、プログラムはより広範な「成果(アウトカム)」や「便益(ベネフィット)」の実現に焦点を当てるという違いは、両者の役割と成功の定義を理解する上で極めて重要です。

これらの基本的な定義、すなわち「今更聞けない基本」を明確に理解することは、目標設定、計画立案、コミュニケーション、リソース配分、リスク管理といった、あらゆるマネジメント活動の基盤となります 2。個別のプロジェクトを成功に導くだけでなく、それらが組織全体の戦略目標達成に確実に貢献するように連携させるためにも、プロジェクトとプログラムの定義と関係性についての正確な理解が不可欠です。本稿で得られた知識を、ぜひ日々の業務や活動の中で活用してください。

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  37. プログラム管理とプロジェクト管理の比較 | Atlassian, 5月 5, 2025にアクセス、 https://www.atlassian.com/ja/agile/project-management/program-management
  38. プロジェクト管理vs.プログラム管理vs.ポートフォリオ管理:全体像を読み解く – ClickUp, 5月 5, 2025にアクセス、 https://clickup.com/ja/blog/199344/project-vs-program-vs-portfolio-management
  39. プロジェクトとプログラムの違いとは – CLOVER Light, 5月 5, 2025にアクセス、 https://clover.lt-s.jp/2138/
  40. プログラムマネージャーとプロジェクトマネージャーの違いとは? [2025] – Asana, 5月 5, 2025にアクセス、 https://asana.com/ja/resources/program-manager-vs-project-manager
  41. プロジェクト管理の手法を専門家が解説 代表的な3つを図解つきで紹介 | ツギノジダイ, 5月 5, 2025にアクセス、 https://smbiz.asahi.com/article/14179661
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