I. はじめに:Mermaid図法との出会い
現代のソフトウェア開発や技術ドキュメンテーションにおいて、複雑なシステムやプロセスを視覚的に表現する図の重要性はますます高まっています。しかし、従来のグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)ベースの作図ツールには、更新の手間やバージョン管理の難しさといった課題も存在しました。このような背景の中、テキストベースで作図を行う新しいアプローチが注目を集めています。その代表的なツールの一つが「Mermaid図法」です。
A. Mermaidとは?テキストで描く新しい作図体験
Mermaidは、JavaScriptを基盤とした作図・グラフ化ツールであり、テキストとコードを用いて図やフローチャートを簡単に作成することができます 1。これは、「ダイアグラム・アズ・コード(Diagrams as Code)」として知られる大きな潮流の一部です 3。具体的には、システムやプロセスを表現するコードを記述することで、それに対応する図が自動的に生成される仕組みです 3。
この「ダイアグラム・アズ・コード」という考え方は、従来のGUIツールとは一線を画すものです。テキストベースでの作成を重視することで、バージョン管理システムとの親和性が高まり、チームでの共同作業やドキュメンテーションの自動化といった面で大きな利点をもたらします。特に、コードに慣れ親しんだ開発者にとっては、専用の作図ツールを習得するよりも効率的な選択肢となり得ます 1。また、ドキュメントが開発のスピードに追いつくことを助け、いわゆる「ドキュメンテーションの陳腐化(Documentation-Rot)」という問題を解決する一助となることも期待されています 5。
Mermaidのようなツールは、図の作成と維持をより身近なものにします。従来の作図ツールが特定のライセンスやソフトウェア、あるいは一定のデザインスキルを必要とすることがあったのに対し 6、Mermaidはテキストベースであるため、Markdownライクな構文に慣れていれば誰でも比較的容易に図を作成できます 2。無料のオンラインエディタ(例えば公式のLive Editor)の存在も、利用開始のハードルを大きく下げています 2。これにより、専門のデザイナーや一部のエンジニアだけでなく、チーム内のより多くのメンバーが視覚的なドキュメント作成に貢献できるようになり、結果として、より最新で包括的な図が維持されやすくなるのです。
B. なぜMermaidが注目されるのか?主な利点と特徴
Mermaidが多くの開発者やテクニカルライターから支持を集めている背景には、いくつかの明確な利点と特徴があります。
- 使いやすさと効率性: Mermaidは複雑な図のメンテナンスを簡素化します 1。開発者は、図形をドラッグ&ドロップするよりも、コードでアイデアを表現する方が速いと感じることが多く 4、日本語のコミュニティでも「書く消費カロリーが少ない」「脳死で書ける」といった手軽さが評価されています 9。公式のLive Editorを使えば、簡単に図を作成・確認できます 2。
- バージョン管理と共同作業: テキストベースで記述されるため、Gitなどのバージョン管理システムで図の変更履歴を容易に追跡でき、チームでの共同作業がスムーズになります 9。
- 豊富なインテグレーション: GitHub、Notion、VSCodeといった人気のプラットフォームやツールと幅広く連携しており、既存のワークフローに容易に組み込めます 2。
- 一貫性のあるデザイン: 誰が作成しても同じような見た目の図が生成されるため、ドキュメント全体で統一感を保ちやすいという利点があります 9。
- オープンソースと活発なコミュニティ: Mermaidは受賞歴のあるオープンソースプロジェクトであり 1、活発なコミュニティによって支えられています。
これらの利点は、従来の作図方法が抱えていた多くの課題、例えば図の維持管理の煩雑さ、視覚的なファイルのバージョン管理の難しさ、チーム内での表現の不統一などを直接的に解決するものです。Markdownを中心としたテキストベースのドキュメンテーションが普及する中で、Mermaidはその流れに自然と適合するツールと言えるでしょう。
さらに、Mermaidの「ダイアグラム・アズ・コード」という思想は、アジャイル開発やDevOpsといった現代的な開発プラクティスとも深く関連しています。これらのプラクティスでは、ドキュメントは軽量で、バージョン管理可能であり、開発ライフサイクルに統合されていることが求められます。従来の図は、その手作業による作成・更新プロセスから、時に開発のボトルネックとなることもありました 5。Mermaidで作成された図はテキストデータとしてバージョン管理システムに保存されるため 9、コードと同様にブランチ作成、マージ、レビューの対象とすることができます。また、図を動的に生成できる能力は 2、自動化されたドキュメンテーションパイプラインへの組み込みを容易にします 14。このように、Mermaidは単なる作図ツールに留まらず、現代のソフトウェア開発とドキュメンテーションのエコシステムを構成する重要な要素となりつつあります。
II. Mermaidで実現できる多彩な表現:対応図形タイプ一覧
Mermaidの大きな魅力の一つは、その表現力の豊かさです。シンプルなフローチャートから複雑なシステム構成図まで、多種多様な図をテキストベースで作成することができます。
A. フローチャート、シーケンス図からER図まで
Mermaidは、フローチャート、シーケンス図、クラス図、状態遷移図、ER図(エンティティ関連図)、ユーザージャーニー図、ガントチャート、円グラフ、四分円グラフ、要求図、Gitグラフ、C4コンテキスト図、マインドマップ、タイムライン図など、非常に幅広い種類のダイアグラムをサポートしています 7。
この多様性により、Mermaidはさまざまなドキュメンテーションニーズに対応可能です。プロセスの流れ、システム間のインタラクション、データベースのスキーマ、プロジェクトのスケジュールなど、伝えたい情報に応じて最適な視覚表現を選択できます。この汎用性が、開発者、ビジネスアナリスト、テクニカルライター、マネージャーといった多様な役割の人々にMermaidが受け入れられている理由の一つです 1。
Mermaidがサポートする図の種類は固定されたものではなく、コミュニティのニーズを反映して継続的に追加・拡張されています。例えば、C4コンテキスト図やマインドマップ、サンキー図といった比較的新しい、あるいは特定の分野で活用される図もサポートリストに含まれています 8。これは、Mermaidがオープンソースプロジェクトとして、ユーザーコミュニティからのフィードバックやコントリビューションを積極的に取り入れている証左と言えるでしょう 1。新しいバージョンがリリースされるたびに、対応する図の種類が増えていく傾向にあり 12、Mermaidが静的なツールではなく、新しい視覚化のパラダイムやユーザーの要求に適応し続ける、成長するプラットフォームであることを示唆しています。これにより、将来にわたって安心して利用できる選択肢となっています。
一方で、Mermaidは多くの図の種類をサポートしていますが、UMLやSysMLのような高度に専門化された図に関しては、それぞれの専用ツールと比較した場合、機能の深さやカスタマイズ性において限界がある可能性も考慮に入れるべきです。例えば、PlantUMLは「複雑な図」や「豊富な種類の図」に対応し、「詳細設計や大規模プロジェクト」に向いているとされるのに対し、Mermaidは「素早いプロトタイピング」に適しているという比較があります 17。また、「凝ったUML系の図」を作成したい場合はPlantUMLが適しているという意見も見られます 18。Mermaidの核となる思想は、Markdownライクな構文によるシンプルさであり 2、極端な複雑性や微細な制御の実現は、この思想と相反する場合があります。したがって、特定の図の種類についてMermaidを利用する際には、その実装が要求される詳細度やカスタマイズ性を満たしているか、特に専用ツールとの比較において評価することが重要です。
B. 各図形タイプの特徴と代表的な利用シーン
以下に、Mermaidで作成可能な主要な図形タイプとその特徴、代表的な利用シーンをまとめます。
- フローチャート (Flowchart): プロセス、ワークフロー、意思決定経路などを視覚化します 7。業務の流れやアルゴリズムの表現に用いられます。
- シーケンス図 (Sequence Diagram): コンポーネント間の相互作用やメッセージの流れを時系列で示します 7。システムの各ステップがどのように連携し、何が起こるかを明確にします。
- ガントチャート (Gantt Chart): プロジェクトのスケジュールや進捗状況を可視化します 1。タスクの期間や依存関係を管理するのに役立ちます。
- クラス図 (Class Diagram): システムの構造、クラス、属性、操作(メソッド)、およびクラス間の関係を記述します 1。オブジェクト指向設計のドキュメント化に不可欠です。
- ER図 (Entity Relationship Diagram): データベースの構造、エンティティ(テーブル)、およびそれらの関係を視覚化します 8。データベース設計の際に重要なツールです。
- 状態遷移図 (State Diagram): 入力やユーザーのアクションによってシステムの振る舞いがどのように変化するかを示します 7。
- 円グラフ (Pie Chart): 全体に対する各部分の割合を表現します 7。
- Gitグラフ (Git Graph): Gitのブランチングフローを記述します 7。特に、外部コントリビューターや新しいチームメンバーへの説明に有効です。
これらの図形タイプを理解し、適切に使い分けることで、より効果的なコミュニケーションと情報共有が可能になります。
表1: Mermaid対応主要図形タイプ一覧
図の種類 | 記法キーワード例 | 簡単な説明 | 代表的な利用シーン |
フローチャート | graph LR または flowchart TD | プロセスやワークフローの流れを視覚化します。 | 業務プロセス定義、アルゴリズム説明、意思決定支援 |
シーケンス図 | sequenceDiagram | オブジェクト間のメッセージのやり取りを時系列で示します。 | システム間のインタラクション分析、API通信の設計 |
クラス図 | classDiagram | クラス、属性、メソッド、およびそれらの関係性を記述します。 | オブジェクト指向設計、ソフトウェアアーキテクチャの文書化 |
ER図 | erDiagram | データベースのエンティティ(テーブル)とその関連を視覚化します。 | データベース設計、データモデリング |
ガントチャート | gantt | プロジェクトのタスク、期間、進捗を時系列で管理します。 | プロジェクト管理、スケジュール管理 |
状態遷移図 | stateDiagram-v2 | システムやオブジェクトの状態と、状態間の遷移を示します。 | システムの振る舞いのモデリング、状態機械の設計 |
円グラフ | pie | 全体に対する各要素の割合を円形で示します。 | データ構成比の表示、アンケート結果の可視化 |
Gitグラフ | gitGraph | Gitリポジトリのブランチ、コミット、マージの履歴を視覚化します。 | バージョン管理戦略の説明、開発フローの共有 |
ユーザージャーニー図 | journey | ユーザーが目標を達成するまでのステップ、感情、タッチポイントを記述します。 | UXデザイン、顧客体験の分析・改善 |
マインドマップ | mindmap | 中心的なアイデアから放射状に関連するトピックを展開していく思考整理ツールです。 | ブレインストーミング、アイデア整理、情報構造化 |
タイムライン図 | timeline | 時系列に沿ったイベントやマイルストーンを直線的に表示します。 | 歴史的出来事の整理、プロジェクトの主要日程表示 |
この表は、Mermaidが提供する多様な表現力の一端を示すものです。各図の詳細な構文については、後続のセクションや公式ドキュメントで確認できます。
III. Mermaidの基本の「き」:構文ルールと書き方入門
Mermaid図法を実際に使い始めるために、まずは基本的な構文ルールと書き方を理解することが重要です。ここでは、Markdown環境でのMermaid記法の基本から、主要な図の具体的な書き方までを解説します。
A. MarkdownでのMermaid記法:最初の一歩
多くの環境でMermaid図を記述する際の基本的な作法は共通しています。Markdownファイル内に専用のコードブロックを作成し、その中でMermaidの構文に従って図の定義を記述します 7。
具体的には、以下のようにバッククォート3つで囲まれたコードブロックを用意し、言語識別子として mermaid を指定します。
mermaid
ここにMermaidのコードを記述します
このコードブロック内に、作成したい図の種類に応じたMermaidの構文を記述することで、対応するプラットフォーム(GitHub、Notion、VSCodeのプレビューなど)がそれを解釈し、図としてレンダリングします。基本的な構文パターンとしては、「図の種類を指定し、要素を定義し、それらの関係性を記述する」という流れになります 10。例えば、graph TD で上から下へのフローチャートを開始し、次にノード(要素)を定義し、–> でノード間を繋ぐ、といった具合です。このシンプルな開始方法が、Mermaidの大きな利点の一つです。
Mermaidの構文は、一見すると各図の種類ごとに異なるミニ言語を学ぶ必要があるように感じられるかもしれません。フローチャートの graph TD 10 とシーケンス図の sequenceDiagram 15、クラス図の classDiagram 21 では、内部で使用するキーワードや構造が異なります。しかし、この多様性こそが、それぞれの図の特性に最適化された表現を可能にしているとも言えます。重要なのは、“`mermaid という共通の入り口から、目的に応じた図の「世界」に入っていくという感覚です。
幸いなことに、Mermaidの構文は、多くの場合、シンプルな図であれば非常に少ないコードで表現できるように設計されています。例えば、基本的なフローチャートは数行の記述で作成可能です 10。そして、より複雑な表現や詳細なカスタマイズが必要になった場合には、各図の公式ドキュメント(例えば、フローチャートの公式ドキュメント 23 やシーケンス図の公式ドキュメント 24 など)を参照することで、豊富なオプション機能を利用できます。このように、初心者でもすぐに始められ、習熟度に応じてより高度な機能へとステップアップできる「段階的な複雑性(Progressive Disclosure of Complexity)」がMermaidの構文設計の妙と言えるでしょう。これにより、幅広いユーザー層がそれぞれのニーズに合わせてMermaidを活用できるのです。
B. 主要な図の基本的な書き方と実践例
ここでは、Mermaidでよく利用される主要な図について、基本的な書き方と簡単な実践例を紹介します。これらの例を参考に、実際に手を動かしてMermaidの作図を体験してみてください。より詳細な構文やオプションについては、Mermaid公式サイトの各図のドキュメントを参照することをお勧めします。
フローチャート (Flowchart)
フローチャートは、プロセスやワークフローの流れを視覚的に表現するのに適しています。Mermaidでは graph または flowchart というキーワードで宣言し、続けて図の方向を指定します(例: TD は上から下へ、LR は左から右へ)10。ノード(処理や判断などの要素)はIDとオプションのラベルで定義し、角括弧 “(四角形)、丸括弧 ()(角丸四角形)、二重丸括弧 (())(円形)などで形状を指定できます。ノード間は矢印 (–>、-.-> など) で接続します 10。また、subgraph を使うことで、関連するノードをグループ化することも可能です 10。
基本的なフローチャートの例:
コード スニペット
graph TD;
A[開始] –> B{処理1を実行しますか?};
B — Yes –> C[処理1を実行];
B — No –> D[処理2を実行];
C –> E[終了];
D –> E;
この例では、「開始」ノードから始まり、条件分岐を経て「終了」ノードに至るシンプルなフローを示しています。日本語のラベルも問題なく使用できます。より詳しいノードの形状や線の種類、方向指定については、日本語で詳しく解説された情報源も参考になります 26。
シーケンス図 (Sequence Diagram)
シーケンス図は、オブジェクトやコンポーネント間のメッセージのやり取りを時系列に沿って表現します。sequenceDiagram キーワードで宣言します 15。まず参加者(participant)を定義し、次に参加者間で送受信されるメッセージを様々な種類の矢印(例: ->> は同期メッセージ、–>> は非同期メッセージ、-x は破線矢印)で記述します 11。アクティベーション(処理中を示す縦長の長方形)、ノート(注釈)、ループ、代替処理(alt)、オプション処理(opt)、並行処理(parallel)などもサポートされています 24。
基本的なシーケンス図の例:
コード スニペット
sequenceDiagram
participant User
participant System
User->>System: ログイン要求
activate System
System–>>User: 認証成功
deactivate System
User-)System: データ照会
Note right of System: データベース検索中…
この例では、ユーザーがシステムにログインし、データを照会する一連の流れを示しています。メッセージの送信に伴い、System がアクティベートされ、処理後にディアクティベートされる様子も表現されています。
クラス図 (Class Diagram)
クラス図は、システムの静的な構造を、クラス、その属性、メソッド、およびクラス間の関係性(継承、集約、関連など)を用いて記述します。classDiagram キーワードで宣言します 21。クラスは名前で定義し、属性やメソッドは {} 内に記述します。可視性(public +, private -, protected #)も指定可能です。クラス間の関係は、継承 <|–、コンポジション *–、集約 o–、関連 –>、依存 ..> といった専用の矢印で表現します。多重度(カーディナリティ)や注釈(<<Interface>>、<<Abstract>>など)も記述できます 21。
基本的なクラス図の例:
コード スニペット
classDiagram
class Animal {
+String name
+int age
+eat()
+sleep()
}
class Dog {
+bark()
}
class Cat {
+meow()
}
Animal <|– Dog
Animal <|– Cat
Animal “1” — “*” Owner : has
この例では、Animal クラスがあり、それを Dog と Cat クラスが継承しています。また、Animal と Owner の間に1対多の関連があることを示しています。
ER図 (Entity Relationship Diagram)
ER図は、データベースの構造を視覚化するための図で、エンティティ(テーブルに相当)とその属性、エンティティ間のリレーションシップ(関連)を表現します。erDiagram キーワードで宣言します 12。エンティティは名前で定義し、属性は {} 内に型と名前、そして必要に応じて主キー(PK)や外部キー(FK)を指定して記述します。リレーションシップはエンティティ間を線で結び、その線の両端にカーディナリティ(多重度、例: | |–|{ は1対多、|o–o| は0または1対0または1)を記述します 11。
基本的なER図の例:
コード スニペット
erDiagram
CUSTOMER |
|–o{ ORDER : places
ORDER |
|–|{ LINE-ITEM : contains
PRODUCT-CATEGORY |
|–|{ PRODUCT : includes
PRODUCT |
|–o{ LINE-ITEM : ordered_in
CUSTOMER {
string customerId PK
string name
string email
}
ORDER {
string orderId PK
string customerId FK
date orderDate
}
LINE-ITEM {
string orderId PK
string productId PK
int quantity
}
PRODUCT {
string productId PK
string name
string categoryId FK
float price
}
PRODUCT-CATEGORY {
string categoryId PK
string categoryName
}
この例は、顧客(CUSTOMER)、注文(ORDER)、注文明細(LINE-ITEM)、商品(PRODUCT)、商品カテゴリ(PRODUCT-CATEGORY)間の関係と、各エンティティの属性を示しています。
ガントチャート (Gantt Chart)
ガントチャートは、プロジェクトのスケジュール管理に用いられ、タスク、期間、進捗状況を視覚的に表現します。gantt キーワードで宣言します 28。日付の書式を指定する dateFormat、タスク、セクション、マイルストーンを定義し、タスク間の依存関係を after taskID のように記述します。タスクの期間や開始日・終了日も指定可能です。axisFormat で軸の表示形式を、excludes で週末などの非稼働日を指定することもできます 11。
基本的なガントチャートの例:
コード スニペット
gantt
dateFormat YYYY-MM-DD
title プロジェクト計画
excludes weekends
section 設計フェーズ
要件定義 :a1, 2024-01-01, 30d
基本設計 :a2, after a1, 20d
section 開発フェーズ
詳細設計 :crit, b1, after a2, 25d
実装 :crit, b2, after b1, 40d
テスト :crit, b3, after b2, 20d
section リリース
リリース準備 :2024-05-01, 10d
リリース :milestone, 2024-05-15, 0d
この例では、「設計フェーズ」「開発フェーズ」「リリース」の各セクションにタスクが割り当てられ、期間や依存関係、クリティカルパス(crit)、マイルストーン(milestone)が示されています。
状態遷移図 (State Diagram)
状態遷移図は、システムやオブジェクトが取りうる状態と、それらの状態間の遷移をモデル化します。Mermaidでは stateDiagram-v2 キーワードで宣言します 7。状態は単純なIDや説明付きで定義でき、複合状態(サブグラフ)も {} を使って表現可能です。状態間の遷移は –> で示し、遷移のトリガーとなるイベントや条件を記述できます。<<choice>> で選択分岐、<<fork>> や <<join>> で並行処理の分岐と合流、– で同時並行状態を表現できます。注釈(ノート)の追加も可能です 7。
基本的な状態遷移図の例:
コード スニペット
stateDiagram-v2
[*] –> アイドル状態
アイドル状態 –> 処理中 : タスク受信
処理中 –> 完了状態 : 処理成功
処理中 –> エラー状態 : 処理失敗
完了状態 –> [*]
エラー状態 –> アイドル状態 : リトライ
エラー状態 –> [*] : 処理中止
state 処理中 {
[*] –> データ検証
データ検証 –> データ処理 : 検証OK
データ検証 –> エラー状態 : 検証NG
データ処理 –> 完了状態
}
この例では、システムの基本的な状態(アイドル、処理中、完了、エラー)とそれらの間の遷移、さらに「処理中」状態の内部的なサブ状態(データ検証、データ処理)が示されています。
これらの基本的な書き方をマスターすることで、Mermaid図法の強力な表現力を活用し始めることができます。
表2: Mermaid基本構文チートシート
要素 | 構文例 | 説明/目的 |
共通 | ||
コードブロック定義 | “`mermaid <br> …図のコード… <br> “` | Mermaid図を記述するためのMarkdownコードブロック。 |
コメント | %% これはコメントです | 図のレンダリングに影響しない注釈。 |
方向指定(フローチャート、状態遷移図など) | graph TD (上から下), LR (左から右) | 図全体のレイアウト方向を指定。TD, TB, BT, LR, RL など。 |
フローチャート (graph / flowchart) | ||
ノード定義(四角) | id[ラベル] | 四角形のノードを作成。idは一意の識別子、ラベルは表示テキスト。 |
ノード定義(角丸) | id(ラベル) | 角丸四角形のノードを作成。 |
ノード定義(円) | id((ラベル)) | 円形のノードを作成。 |
ノード定義(ひし形) | id{ラベル} | ひし形(判断など)のノードを作成。 |
矢印(実線) | A –> B | ノードAからノードBへ実線の矢印で接続。 |
矢印(点線) | A -.-> B | ノードAからノードBへ点線の矢印で接続。 |
矢印(テキスト付き) | A –テキスト–> B | 矢印上にテキストを表示。 |
サブグラフ | subgraph サブグラフ名 <br> A –> B <br> end | 関連するノードをグループ化。 |
シーケンス図 (sequenceDiagram) | ||
参加者定義 | participant ActorA as A | 参加者を定義。asでエイリアス指定可能。 |
同期メッセージ | A->>B: メッセージ内容 | AからBへ同期メッセージを送信(実線矢印)。 |
非同期メッセージ | A–)B: メッセージ内容 | AからBへ非同期メッセージを送信(点線オープン矢印)。 |
応答メッセージ | B–>>A: 応答内容 | BからAへ応答メッセージを送信(点線矢印)。 |
ノート | Note right of A: 注釈内容 | 参加者の右側(または左側、上)に注釈を追加。 |
ループ | loop ループ条件 <br> A->>B: 処理 <br> end | 繰り返し処理を表現。 |
選択処理 (alt/else) | alt 条件1 <br> A->>B: 処理1 <br> else 条件2 <br> A->>C: 処理2 <br> end | 条件に応じた代替処理を表現。 |
クラス図 (classDiagram) | ||
クラス定義 | class ClassName { <br> +attribute: String <br> +method(): void <br> } | クラスとそのメンバー(属性、メソッド)を定義。可視性(+, -, #)も指定可能。 |
継承関係 | `SuperClass < | — SubClass` |
関連関係 | ClassA –> ClassB : relationName | ClassAとClassBの関連。カーディナリティも指定可能(例: “1” — “*”)。 |
インターフェース | <<Interface>> MyInterface | インターフェースを定義。 |
ER図 (erDiagram) | ||
エンティティ定義 | ENTITY_NAME { <br> dataType attributeName PK <br> dataType attributeName FK <br> } | エンティティ(テーブル)とその属性を定義。主キー(PK)、外部キー(FK)を指定。 |
リレーションシップ(1対多) | `ENTITY1 | |
— | { ENTITY2 : label` | ENTITY1が1、ENTITY2が多の関係。 |
リレーションシップ(多対多) | `ENTITY1 } | — |
ガントチャート (gantt) | ||
日付書式 | dateFormat YYYY-MM-DD | タスクの日付入力書式を指定。 |
セクション定義 | section セクション名 | プロジェクトのフェーズやカテゴリを定義。 |
タスク定義 | タスク名 :taskId, startDate, durationOrEndDate | タスクを定義。ID、開始日、期間または終了日を指定。依存関係は after otherTaskId。 |
マイルストーン | マイルストーン名 :milestone, date, 0d | プロジェクトの重要な期日や達成点を示す。 |
状態遷移図 (stateDiagram-v2) | ||
状態定義 | StateName : 説明 | 状態を定義。IDとコロンの後に説明を記述。 |
開始/終了状態 | [*] –> StateA <br> StateB –> [*] | [*] を使用して開始状態と終了状態を示す。 |
遷移 | StateA –> StateB : event | StateAからStateBへの遷移。遷移トリガーとなるイベント名を記述可能。 |
複合状態 | state “Composite State” { <br> [*] –> InnerState <br> } | 内部状態を持つ複合状態を定義。 |
選択 (Choice) | StateA –> <<choice>> ChoicePoint <br> ChoicePoint –> StateB : Condition1 | 条件に基づく分岐。 |
このチートシートは、Mermaidの基本的な構文を網羅するものではありませんが、よく使われる要素をまとめたものです。これらを足がかりに、より複雑な図の作成に挑戦してみてください。
IV. Mermaidをはじめよう:便利なツールと開発・実行環境
Mermaid図法を実際に試したり、日々の業務に取り入れたりするためには、適切なツールや環境の選択が重要です。幸いなことに、Mermaidはその手軽さから多くのツールやサービスでサポートされており、利用シーンに応じた選択肢が豊富に存在します。
A. オンラインエディタですぐに試す
Mermaidを最も手軽に体験する方法は、オンラインエディタを利用することです。特別な環境構築を必要とせず、ブラウザ上でMermaidのコードを記述し、リアルタイムで図のプレビューを確認できます。
- Mermaid Live Editor: Mermaidの公式サイト (mermaid.js.org) で提供されている公式のオンラインエディタです 2。Mermaidの構文を試したり、簡単な図を作成したりするのに最適です。サンプルコードの参照、作成した図の画像ファイル(SVG、PNGなど)としてのエクスポート、共有可能なURLの生成、Markdown形式での画像URL取得といった機能も備えています 12。
- Mermaid Flow: Mermaid Flowは、Mermaid図の作成と維持を簡素化することを目的とした、もう一つのオンラインMermaidライブエディタです 29。視覚的なインタラクティブエディタを備えている点が特徴で、描画の容易さとバージョン管理可能なコードの安定性を両立させています。さらに、生成AI技術を活用し、理想の図を説明するだけで数秒で図を生成する機能も提供しています 29。
これらのオンラインエディタは、特にMermaid初心者にとって、構文を学びながら実際に図がどのようにレンダリングされるかを確認できるため、非常に有効な学習ツールとなります。また、複雑な設定なしにすぐに利用開始できるため、アイデアを素早く視覚化したい場合にも便利です。
B. 主要な対応ツール・サービスでの活用法
Mermaidの普及を支える大きな要因の一つは、既存の多くの開発ツールやドキュメンテーションプラットフォーム、情報共有サービスとの広範なインテグレーションです。これにより、ユーザーは普段使い慣れた環境の中でシームレスにMermaidを利用できます。
- GitHub: Markdownファイル(例: README.md、Wikiページ)内でMermaid記法を使用すると、図が自動的にレンダリングされます 11。ソースコードと共に設計図やフローチャートをリポジトリで管理する際に非常に便利です。
- Notion: 高機能なドキュメントツールであるNotionもMermaidをサポートしており、ページ内にMermaidのコードブロックを埋め込むことで図を表示できます 11。
- VSCode (Visual Studio Code): 人気のコードエディタであるVSCodeでは、専用の拡張機能をインストールすることでMermaidの構文ハイライトやプレビュー機能を利用できます 11。Markdown All in One や Markdown Preview Mermaid Support といった拡張機能がよく用いられます 12。
- WordPress: ブログプラットフォームのWordPressでも、プラグイン(例: 「Mermaid Diagrams」)を利用するか、手動でスクリプトをテーマに追加することでMermaid図を記事内に挿入できます 32。
- Doctave: DoctaveのようなドキュメンテーションジェネレータもMermaidをサポートしており、生成されるドキュメント内にMermaidで記述した図を埋め込むことができます 15。レンダリングされた図は、選択したカラースキーム(ライトモード/ダークモード)に自動的に適合します。
- Writerside (JetBrains): JetBrains社が提供するテクニカルライティング向けIDEであるWritersideは、Mermaidの組み込みサポートを提供しています 7。
- CLI (コマンドラインインターフェース): 公式の mermaid-cli を利用すると、コマンドラインからMermaid記法で書かれたテキストファイルを画像ファイル(SVG、PNG、PDFなど)に変換できます 12。これにより、バッチ処理や自動化パイプラインへの組み込みが可能になります。
- その他のプラットフォーム:
- Jupyter/Python: Jupyter NotebookやPython環境でも、mermaid.inkサービスを利用したり、専用ライブラリを介したりすることでMermaid図を統合できます 8。
- Confluence: Atlassian Confluenceでは、「Mermaid Diagrams Viewer for Confluence」のようなプラグインを利用することで、ページ内にMermaid図を埋め込めます 33。
このように多岐にわたるツールやサービスでのサポートは、Mermaidの採用を促進する上で極めて重要な役割を果たしています。ユーザーは、特定の新しいスタンドアロンツールを習得する必要なく、日常的に使用しているワークフローやプラットフォーム内でMermaidの利便性を享受できるのです 1。この広範なエコシステムが形成するネットワーク効果こそが、Mermaidの成長を支える原動力の一つと言えるでしょう。
多くのMermaidインテグレーション、特にIDEのプラグイン 12 やオンラインエディタ 2 は、ライブプレビュー機能を提供しています。この即時フィードバックの仕組みは、Mermaidの構文を学習し、効率的に図を修正・改善していく上で非常に有効です。Mermaidの構文は比較的シンプルであるとはいえ、特に初心者にとっては記述ミスが起こりやすいものです 19。ライブプレビュー機能 14 を利用すれば、テキストコードの変更が即座に視覚的な図に反映されるため、構文エラーの特定や修正、さらには様々な構文要素が最終的な図にどのような影響を与えるかを直感的に理解する助けとなります。これにより、手作業での描画や、コードを書いてから別途レンダリングするサイクルと比較して、開発プロセスが大幅に高速化されます。
表3: Mermaid利用ツール・サービス比較
ツール/サービス名 | Mermaid関連の主な特徴 | 日本語対応状況 (言及あれば) | 主な用途 |
Mermaid Live Editor | 公式オンラインエディタ、リアルタイムプレビュー、サンプル多数、画像エクスポート、共有URL生成 2 | UIは英語中心 | Mermaid構文の学習、簡単な図の作成、動作確認 |
Mermaid Flow | オンラインエディタ、視覚的・インタラクティブ編集、AIによる図生成機能 29 | 不明 | より直感的なMermaid図作成、AI支援による作図 |
GitHub | Markdownファイル内でのネイティブサポート、プレビュー表示 11 | プラットフォーム依存 | ソースコードと共に設計図やドキュメントをバージョン管理 |
Notion | コードブロックでのMermaidサポート、プレビュー表示 11 | プラットフォーム依存 | ドキュメント作成、情報共有、ナレッジベース構築 |
VSCode (拡張機能利用) | 構文ハイライト、リアルタイムプレビュー (例: Markdown Preview Mermaid Support) 11 | エディタ・拡張機能依存 | ローカル環境での開発ドキュメント作成、Markdownベースの執筆 |
WordPress (プラグイン等) | プラグインまたは手動スクリプト追加によるMermaid図の挿入 32 | プラグイン・テーマ依存 | ブログ記事やウェブサイトコンテンツへの図の埋め込み |
Doctave | ドキュメンテーションサイトへのMermaid図レンダリングサポート、ライト/ダークモード対応 15 | 不明 | 静的サイトジェネレータを用いた技術文書作成 |
Writerside (JetBrains) | Mermaidの組み込みサポート、IDE内での作図 7 | IDE依存 | JetBrains環境でのテクニカルライティング、ソフトウェアドキュメンテーション |
mermaid-cli | コマンドラインからの図生成 (SVG, PNG, PDF等) 12 | CLIツール依存 | バッチ処理、ドキュメント生成パイプラインへの組み込み、オフラインでの図生成 |
Jupyter/Python | mermaid.inkサービスやライブラリ経由での統合 8 | 環境依存 | データ分析ノートブック内での視覚化、Pythonスクリプトからの図生成 |
Confluence (プラグイン) | 「Mermaid Diagrams Viewer」等のプラグインによるMermaid図の埋め込み 33 | プラグイン依存 | 企業内Wiki、プロジェクトドキュメント共有 |
この表は、読者が自身の既存のツールセットやニーズに基づいて、Mermaid作業に最も適した環境を選択するのに役立ちます。エコシステムに関する情報を集約し、ライブプレビューやAI生成といった特徴を強調することで、ユーザーが最適なツールを見つける手助けとなるでしょう。
V. 世界中で使われるMermaid:国内外の文献と活用事例
Mermaidは、その手軽さと強力な表現力から、日本国内だけでなく世界中で注目され、活用されています。ここでは、国内外の文献やコミュニティの声、具体的な活用事例を紹介し、Mermaidがどのように受け入れられているかを探ります。
A. 日本国内での利用状況、コミュニティの声、評判
日本国内においても、Mermaidの利用は着実に広がっています。特に、開発者やテクニカルライターが多く利用する情報共有プラットフォームでの対応が進んだことが、その普及を後押ししています。
- 普及と採用: Qiita、Zenn、Notion、esa.ioといったプラットフォームがMermaidをサポートするようになり、多くのユーザーが日常的にMermaidに触れる機会が増えています 12。中には、従来PlantUMLなどのツールを利用していたユーザーがMermaidへ移行するケースも見られます 12。
- 日本のユーザーが感じるメリット: Mermaidの利点として、プロセスの追加が容易であること、図を作成する際の労力が少ないこと(「書く消費カロリーが少ない」と表現されることも)9、レイアウト調整が基本的に不要であること、Gitなどでのバージョン管理が容易で差分が明確になること、そして誰が作っても統一された見やすい図になることなどが挙げられています 6。特に、「Markdownで書ける」という手軽さが、日本のユーザーにとって大きな魅力となっているようです 6。
- 国内での活用事例:
- システム概要資料の作成・管理: GitLabでソースコードを管理しているプロジェクトにおいて、Mermaidで作成したシステム概要図をリポジトリに含めることで、新規参加者や引き継ぎ担当者の理解を助ける活用法が提案されています 9。
- 詳細設計ドキュメント: 機能ごとにクラス図やシーケンス図を作成し、ドキュメントとして残す際に役立ちます 9。
- ER図の作成: データベース設計ツールとして、ER図の作成にもMermaidが利用されています 30。
- 学術・教育分野: 生化学の代謝経路のような複雑な情報をフローチャートで整理し、理解を助けるためにMermaidとChatGPTを組み合わせる事例も報告されています 26。
- 情報共有プラットフォームでの活用: Qiitaの記事内で、異なるMermaid記法のコードブロックを並べて比較表示したり、Mermaidのコードとその実行結果の図を並べて解説したりする際にも活用されています 12。
- 利用されているツール: VSCodeやIntelliJといったエディタ(拡張機能経由)、各種オンラインエディタが利用されています 12。また、データベース定義書をMarkdown形式で出力できる「A5:SQL Mk-2」のようなツールと連携させる動きも見られます 9。
これらの国内事例やコミュニティの声は、Mermaidが日本の技術者にとって実用的で価値のあるツールとして認識され、積極的に活用されていることを示しています。特に、Qiita 6 や個人の技術ブログ 11 といったプラットフォームで共有される日本語の情報は、Mermaidのようなツールの国内での普及と定着に不可欠です。公式ドキュメントが主に英語で提供される中で 1、日本語による解説、具体的な使用例、トラブルシューティングのヒント(例えば、日本語の文字エンコーディングの問題 19 やIntelliJでの日本語表示に関する注意点 12)は、日本のユーザーにとって非常に価値が高いと言えます。これらのコミュニティ主導の知識共有は、公式ドキュメントではカバーしきれないローカルなニュアンスやツール設定、利用シーンに対応する上で重要な役割を担っており、ツールのグローバルな成功のためには、このような地域コミュニティの育成と参照が鍵となることを示唆しています。
また、日本のユーザーがExcel 9 やPlantUML 12 といった既存のツールからMermaidに移行している背景には、Mermaidが従来の作図方法における特定の課題を解決するという明確な理由が存在します。例えば、PowerPointやExcelでの作図におけるレイアウトの不整合、ライセンスの問題、ツールの動作の重さ、変更履歴の追跡困難といった問題点が指摘されており、Mermaidはこれらの解決策として提示されています 6。Excelと比較して「レイアウト調整がいらない」「差分も分かる」といったメリットが、移行の動機となっているのです 9。これは、Mermaidの採用が単に目新しさによるものではなく、ワークフローの効率性やドキュメント品質の具体的な改善への期待に基づいていることを示しています。
B. 海外の先進事例と公式ドキュメント・チュートリアル
Mermaidは、その開発者であるKnut Sveidqvist氏によって、「技術ドキュメンテーションをより楽しく、効率的にする」という目的のもとに生み出されました 1。この思想は国境を越えて共感を呼び、Mermaidは国際的にも広く利用されています。
- 公式リソース:
- 書籍: Packt Publishingから出版されている「The Official Guide to Mermaid.js」(Knut Sveidqvist, Ashish Jain著)は、Mermaidの包括的なガイドブックとして活用できます 1。
- 公式サイト (Mermaid.js.org): Mermaidの最も重要な情報源であり、Live Editor、詳細な構文ドキュメント、チュートリアル、豊富な使用例などが提供されています 2。
- 国際的な利用シーン:
- Mermaidは、テクニカルドキュメンテーション、ソフトウェア開発、プロジェクトドキュメンテーション、ビジネス分析、マネジメントなど、多岐にわたる分野で活用されています 1。
- Doctave 15 やWriterside 7 のようなドキュメンテーションシステムやオーサリングツールにもMermaidのサポートが組み込まれています。
- Kubernetes (K8s.io) の公式ドキュメンテーションでも、図の作成にMermaidが利用されている事例があります 8。
- 開発者の意図: Mermaidプロジェクトの主な目標は、技術文書の作成をより楽しく効率的にすることであり、この目標は現在も引き継がれています 1。
これらの海外での事例や公式リソースは、Mermaidの信頼性とグローバルなサポート体制を示すものです。また、ユーザーがさらに深く学ぶための権威ある情報源としても機能します。
VI. Mermaidをさらに使いこなす:応用テクニックとヒント
Mermaidの基本的な使い方をマスターしたら、次はより高度なテクニックや便利なヒントを活用して、作図の効率と表現力をさらに高めていきましょう。ここでは、日本語テキスト利用時の注意点から、見た目のカスタマイズ、他のツールとの比較、複雑な図を作成する際のベストプラクティスまで、Mermaidをより深く使いこなすための情報を提供します。
A. 日本語テキスト利用時の注意点と対策(文字化け、フォントなど)
Mermaidで日本語テキストを利用する際には、いくつかの注意点があります。最も一般的な問題は文字化けです。これは、ファイルや環境の文字エンコーディング設定が不適切な場合に発生することがあります 19。
- 対策:
- 文字エンコーディングの確認: HTMLファイルやMermaidを処理する環境で、文字エンコーディングがUTF-8などの適切な形式に設定されていることを確認してください 19。
- ツール固有の問題: 特定のツール環境では、日本語の表示に問題が生じることが報告されています。例えば、IntelliJ IDEAのMarkdownプレビューでMermaidを使用する際に日本語が文字化けする場合があるため、そのような環境では日本語テキストの使用を避けるか、代替手段を検討する必要があるかもしれません 12。
- フォント: レンダリングされる図のフォントは、実行環境やブラウザの設定に依存することがあります。意図した通りに日本語が表示されない場合は、CSSによるフォント指定や、Mermaidのテーマ設定(後述)でのフォントファミリー指定を試みることが考えられます。
これらの点に留意することで、日本語を含む図をよりスムーズに作成・表示できるようになります。
B. 見た目をカスタマイズ:テーマとスタイリングの適用
Mermaidで作成される図の見た目は、デフォルトでも十分に機能的ですが、テーマや個別のスタイリングを適用することで、ドキュメント全体のデザインに合わせたり、特定の要素を強調したりすることが可能です。
- テーマの利用: Mermaidには、いくつかの組み込みテーマが用意されています。代表的なものには default、neutral(白黒印刷向け)、dark(ダークモード向け)、forest(緑基調)、そしてカスタマイズの基盤となる base があります 35。
- サイト全体へのテーマ適用: mermaid.initialize() JavaScript呼び出し時に theme オプションを指定することで、ページ全体のMermaid図に共通のテーマを適用できます 35。
JavaScript
mermaid.initialize({ theme: ‘forest’ }); - 図ごとのテーマ適用: 個別の図に対して異なるテーマを適用したい場合は、Mermaidコードブロック内の %%{init: {}}%% ディレクティブを使用します 35。
コード スニペット
%%{init: {‘theme’:’dark’}}%%
graph TD
A –> B
- テーマ変数のカスタマイズ: base テーマは、themeVariables を通じて詳細なカスタマイズが可能です 35。これにより、ノードの背景色 (primaryColor)、線の色 (lineColor)、フォントファミリー (fontFamily)、文字サイズ (fontSize)などを自由に変更できます。
コード スニペット
%%{
init: {
‘theme’: ‘base’,
‘themeVariables’: {
‘primaryColor’: ‘#A52A2A’,
‘primaryTextColor’: ‘#fff’,
‘lineColor’: ‘#777’,
‘fontFamily’: ‘”Arial”, sans-serif’
}
}
}%%
graph TD
A[カスタムカラー] –> B(ノード);
シーケンス図のアクターの色 (actorBkg) など、特定の図の種類に固有のテーマ変数も存在します 35。 - CSSライクなスタイリング: ノード、リンク、テキストなどの外観は、CSSに似た構文で直接スタイルを指定することも可能です 14。
- クラス定義 (classDef): フローチャート、クラス図、状態遷移図などでは、classDef を使ってスタイルクラスを定義し、それを特定のノードに適用することができます 21。これにより、一貫したスタイリングを効率的に行うことができます。
コード スニペット
flowchart TD
A:::important –> B;
classDef important fill:#f00,color:#fff,stroke:#333,stroke-width:2px;
これらのカスタマイズ機能を活用することで、より視覚的に魅力的で、情報伝達効果の高い図を作成できます。
C. 高度な設定オプションとAPI活用
Mermaidは、基本的な構文以外にも、より高度な設定オプションやAPIを提供しており、これらを活用することで、Mermaidの動作や外観を細かく制御したり、プログラムから動的に図を生成したりすることが可能になります。
- initialize() 呼び出しによる全体設定: JavaScript経由でMermaidを利用する場合、mermaid.initialize() 関数は非常に強力な設定手段となります。サイト全体のテーマ設定 14、セキュリティレベルの指定、デフォルトのレイアウトアルゴリズムの選択 36、さらには各図タイプ固有の設定(例えば flowchartConfig でフローチャートのマージンを設定するなど 14)を一元的に行うことができます。
- ディレクティブ (%%{init: {}}%%) による図ごとの設定: 個々のMermaid図に対して、レンダリング直前に限定的な再設定を行うための仕組みです 7。主にテーマの変更や、特定のテーマ変数の上書きなどに利用されます。ただし、Writersideのような一部のツールでは、テーマディレクティブがサポートされていない場合があることに注意が必要です 7。
- 選択可能な「ルック (Looks)」: Mermaidは、図の全体的な視覚スタイルを変更するための「ルック」という概念を提供しています。例えば、「手描き風 (Hand-Drawn Look)」や、従来のMermaidスタイルを維持する「クラシックルック (Classic Look)」などを設定ファイルや initialize() 呼び出しで選択できます 36。これにより、図に特定の雰囲気や個性を与えることができます。
- レイアウトアルゴリズムの選択と設定: 図のノードやエッジの配置方法を決定するレイアウトアルゴリズムも選択・設定可能です 36。
- Dagre (デフォルト): 多くの図に適した、シンプルさと視覚的な明瞭さのバランスが良いアルゴリズムです。
- ELK (Eclipse Layout Kernel): 大規模で複雑な図に対して、より最適化された配置を提供し、重なりを減らして可読性を向上させることができます。ただし、ELKを利用するには、Mermaidをサイトやアプリケーションに統合する際に別途追加設定が必要になる場合があります。 レイアウトアルゴリズムは、図のメタデータセクション(— config: layout: elk — のように記述)や initialize() 呼び出しで指定できます。ELKを選択した場合は、さらにノード配置戦略 (nodePlacementStrategy) や並行エッジのマージ (mergeEdges) といった詳細設定も可能です 36。
- JavaScript APIの直接利用: MermaidのJavaScript APIを直接呼び出すことで、Mermaid構文の文字列をプログラムに渡し、SVGやHTML形式の図を動的に生成・レンダリングすることができます 14。これにより、アプリケーションのデータに基づいてリアルタイムに図を更新するような高度な連携が実現できます。
- プラグイン: Mermaidの機能を拡張したり、React、Angular、Vue.jsといった人気のウェブフレームワークと統合したりするためのプラグインも存在します 14。
これらの高度なオプションを理解し活用することで、Mermaidを単なる静的な作図ツールとしてではなく、より動的で柔軟な情報視覚化プラットフォームとして利用する道が開けます。公式ガイドブック 34 なども、これらの詳細な設定について深く学ぶ上で役立つでしょう。
D. 他の作図ツールとの比較(PlantUML、Draw.ioなど):Mermaidを選ぶ理由
Mermaidの特性をより深く理解するためには、他の代表的な作図ツールとの比較が有効です。ここでは、PlantUMLやDraw.io(およびExcel/PowerPointのような従来のGUIツール)との違いを中心に、Mermaidがどのような場合に適しているかを見ていきましょう。
- Mermaid vs. PlantUML:
- 技術基盤と記述スタイル: MermaidはJavaScriptベースであり、PlantUMLはJavaベースです 12。一般的に、Mermaidの方が記述がシンプルで手軽に始められる一方、PlantUMLはより詳細なカスタマイズが可能で、UML図の表現力に長けているとされます 12。
- 得意分野: Mermaidは素早いプロトタイピングやMarkdownベースのドキュメントへの埋め込みに適しているのに対し、PlantUMLはより詳細な設計や大規模プロジェクト、複雑なUML図の作成に向いていると言われます 17。
- 連携: GitHub上でのプレビュー機能においては、Mermaidの方が容易に利用できるという点で評価されることがあります 18。
- 総評: どちらのツールもテキストベースで作図するという点では共通していますが、Mermaidは手軽さと広範なツール統合、PlantUMLはUMLを中心とした表現の豊富さとカスタマイズ性が特徴です 17。
- Mermaid vs. Draw.io (およびExcel/PowerPointなどのGUIツール):
- 操作性: Mermaidはテキストで図を定義するため、手動でのレイアウト調整が不要です 9。一方、Draw.ioのようなGUIツールは、ドラッグ&ドロップで直感的に図形を配置できますが、頻繁な変更には手間がかかることがあります 30。ExcelやPowerPointでの作図は、レイアウトの一貫性維持やバージョン管理、ツールの動作の重さといった点で課題が指摘されています 6。
- バージョン管理: テキストベースのMermaidはGitなどでのバージョン管理と非常に相性が良く、変更履歴の追跡や差分確認が容易です 6。GUIツールで作成されたバイナリ形式のファイルでは、これが困難な場合があります。
- 変更の容易さ: Mermaidではテキストを修正するだけで図が更新されるため、変更が比較的容易です 13。GUIツールでは、矢印一つを動かすにも手作業が必要になることがあります。
- Draw.ioの利点: Draw.ioは、図の最終的な見た目を細かく調整したい場合や、一度完成したらあまり変更がない静的な図を作成する場合には、その自由度の高さが活きます 30。また、Mermaidで作成した図の要素をDraw.ioで微調整するといった連携も考えられます 13。
- 総評: Mermaidは「コードとして図を管理する」思想に基づき、効率性、バージョン管理、自動化に強みがあります。GUIツールは、視覚的な自由度や直感的な操作性を重視する場合に適しています。
- Mermaid vs. Graphviz: Graphvizも古くからあるテキストベースの作図ツールですが、Mermaidはそれと比較して、より直感的でMarkdownフレンドリーな記法であると評価されることがあります 6。
これらの比較から、Mermaidは特に以下のような場合に強力な選択肢となります。
- ドキュメントをMarkdownで管理しており、図もテキストベースで統一したい場合。
- 図の変更履歴をGitで管理し、コードと同様にレビュープロセスに含めたい場合。
- 手動でのレイアウト調整の手間を省き、内容の記述に集中したい場合。
- 多くの開発者やライターが利用するプラットフォーム(GitHub, Notionなど)でシームレスに図を利用したい場合。
Mermaidの採用は、単に新しいツールを導入するというだけでなく、「テキストから図へ」というパラダイムシフトを受け入れることを意味します。これには、バージョン管理や自動化といった大きな利点がある一方で、GUIエディタのような直接的な視覚的操作による微調整の難しさや、コードに不慣れなユーザーにとっては学習コストが伴うといった側面もあります 37。レイアウト調整が不要であるというメリット 9 は、裏を返せばレイアウトの完全な制御をレンダリングエンジンに委ねることを意味し、これが細部の見た目の調整を難しくする要因にもなり得ます 37。最適なツールは常に状況に依存するため、これらのトレードオフを理解した上で、プロジェクトの特性やチームのスキルセットに合わせてMermaidを選択することが重要です。
表4: Mermaid vs. 他の主要作図ツール
比較項目 | Mermaid | PlantUML | Draw.io (またはExcel/PPTなどのGUIツール) |
学習の容易さ | 比較的容易(Markdownライク)2。ただし各図の構文は別途学習が必要。 | Mermaidよりやや複雑な場合があるが、UML経験者には馴染みやすい。 | 直感的だが、高機能なものは多機能ゆえの学習コストあり。Excel等は機能限定的。 |
バージョン管理 | テキストベースのため非常に容易(Git等と好相性)9。 | テキストベースのため容易。 | バイナリ形式が多く困難。Draw.ioはXMLベースで可能だが差分判読はMermaidに劣る。 |
レイアウト制御 | 自動レイアウトが基本。微調整は限定的 9。 | 自動レイアウトが基本。Mermaidより詳細な制御オプションを持つ場合がある。 | 手動で完全に制御可能。自由度が高い 30。 |
カスタマイズ性 | テーマ、スタイルクラス、CSSで可能 21。 | 高度なカスタマイズが可能。スキンパラメータ等も豊富。 | GUI上で色、形、フォント等を自由に設定可能。 |
インテグレーション | 非常に豊富(GitHub, Notion, VSCode等多数)11。 | 多くのIDEやWikiでプラグイン提供。 | Web版はブラウザで利用可。デスクトップ版もあり。他サービス連携は限定的。 |
オフライン利用 | CLIやローカルエディタで可能 12。 | ローカル実行可能。 | デスクトップ版や自己ホスト版で可能。 |
コスト | オープンソース(無料)1。Mermaid Flow等一部サービスは有償プランあり。 | オープンソース(無料)。 | Draw.ioは無料。MS VisioやExcel/PPTは有償。 |
得意な図 | フローチャート、シーケンス図、ER図など広範。手軽な作図 8。 | UML全般、ER図、ガントチャートなど。複雑な図や詳細なUML表現 17。 | あらゆる種類の図。手作業による整形やプレゼンテーション用途。 |
日本語対応 | 文字化けに注意が必要な場合あり 19。 | 概ね良好だが環境依存の場合あり。 | ツールによる。多くのGUIツールは日本語UI・フォント対応。 |
この比較表は、各ツールの特性を大まかに示したものです。実際の選択にあたっては、プロジェクトの具体的な要件やチームのスキル、既存のワークフローなどを総合的に考慮することが重要です。
E. 複雑な図や大規模プロジェクトでのベストプラクティス
Mermaidは手軽に図を作成できるツールですが、図が複雑になったり、大規模なプロジェクトで利用したりする際には、いくつかのベストプラクティスを意識することで、可読性や管理性を高く保つことができます。
- シンプルさを保つ: 一つの図に情報を詰め込みすぎないように注意しましょう。複雑な概念は、複数の小さな図に分割することを検討します 39。
- 意味のあるラベルを使用する: ノードや関係性には、内容を明確に理解できるような、具体的で意味のあるラベルを付けましょう 39。専門用語や略語の使用は、対象読者に合わせて慎重に判断します。
- 一貫したスタイリング: 図全体でフォント、色、形状などのスタイルに一貫性を持たせることで、プロフェッショナルな印象を与え、読者の理解を助けます 39。テーマやclassDefを効果的に活用しましょう。
- 構文の検証: 定期的にMermaidの構文エラーをチェックし、レンダリングの問題を未然に防ぎましょう 15。多くのエディタやツールにはプレビュー機能があり、これを利用して構文の正しさを確認できます。
- モジュール化と再利用: 共通して使用する図のコンポーネントやコードスニペットは保存しておき、再利用できるようにすると効率的です 39。
- 文字数制限への配慮: 一部のプラットフォームでは、Mermaidコードの文字数に制限が設けられている場合があります。例えば、GitLabの古いバージョンでは2000文字という制限がありましたが、Mermaid自体のデフォルトの最大テキストサイズは5000文字から50000文字へと大幅に引き上げられています 40。Qiitaのコードブロック内では2000文字を超えると表示されないという情報もあります 30。長大な図を作成する際には、ターゲットプラットフォームの制約を確認することが重要です。
- レイアウトアルゴリズムの選択: 特に大規模で複雑な図の場合、デフォルトのDagreアルゴリズムではなく、ELKのようなより高度なレイアウトアルゴリズムの利用を検討すると、可読性が向上する可能性があります 36。ただし、ELKは環境によっては追加の設定が必要です。
- HTMLやリンク機能のプラットフォーム差: 図中のノードにHTML要素を埋め込んだり、クリック可能なリンクを設定したりする機能は、Mermaid自体には備わっていますが、実際に動作するかどうかは利用しているプラットフォームのセキュリティポリシーや実装に依存します。例えば、GitHub上でのMermaid図におけるHTMLやリンクのレンダリングが、GitHub側の内部的な変更により意図通りに動作しなくなったという報告があります 41。
- サイズと配置の調整: Obsidianのような一部の環境では、レンダリングされたMermaid図のサイズや配置を調整するために、カスタムCSSによる対応が必要になる場合があります 42。
これらのプラクティスを念頭に置くことで、Mermaidの利便性を最大限に引き出しつつ、複雑な情報も効果的に伝えることができます。また、Mermaidのレンダリングや機能サポートは、利用するプラットフォームやツールによって差異が生じることがあります 15。そのため、作成した図は必ずターゲット環境でテストし、意図通りに表示・動作することを確認する習慣が重要です。「一度書けばどこでも完璧にレンダリングされる」という期待は必ずしも常に成り立つわけではないため、プラットフォーム固有の癖や制限を認識しておく必要があります。
さらに、近年ではChatGPTのようなAIツールを活用して、自然言語の記述や既存のテキストからMermaidのコードを生成する試みも行われています 26。例えば、複雑な科学論文の説明文からフローチャートのMermaidコードを生成したり 26、ToDoアプリケーションのシーケンス図をAIに記述させたりする事例があります 31。これは、Mermaidの構文に不慣れなユーザーにとって参入障壁を下げたり、初期の図作成を高速化したりする可能性を秘めています。ただし、AIが生成したコードは必ずしも完璧ではないため、内容を確認し、必要に応じて修正する作業が依然として重要であるという指摘もあります 26。
VIII. まとめ:Mermaid図法でドキュメンテーションと情報共有を革新する
Mermaid図法は、テキストベースで作図を行うという新しいアプローチを通じて、技術ドキュメンテーションや情報共有のあり方に革新をもたらす可能性を秘めています。その簡便さ、強力な表現力、そして広範なエコシステムは、多くの開発者やテクニカルライターにとって魅力的な選択肢となっています。
A. Mermaidの将来性と今後の展望
Mermaidは、単なる一過性のツールではなく、今後も継続的に発展していくことが期待されます。
- 活発な開発とコミュニティ: Mermaidは受賞歴のあるオープンソースプロジェクトであり 2、活発な開発とコミュニティによって支えられています 1。新しい図の種類が追加され続け、既存機能も改善されており 8、その進化は止まりません。技術ドキュメンテーションをより楽しく効率的にするという当初の目標 1 は、今もプロジェクトの原動力となっています。
- 「ダイアグラム・アズ・コード」の潮流: 「ダイアグラム・アズ・コード」という考え方 3 は、ソフトウェア開発における自動化やバージョン管理の重要性が高まる中で、今後ますます主流になっていくと予想されます。Mermaidはこの潮流を代表するツールの一つとして、その地位を確固たるものにしていくでしょう。
- AIとの連携: Mermaid FlowのようにAIによる図生成支援機能を備えたツールが登場していること 29 や、ChatGPTを用いてMermaidコードを生成する活用事例 26 は、AI技術との融合がMermaidの利用をさらに容易にし、新たな可能性を切り拓くことを示唆しています。
- エコシステムの拡大: Mermaidをサポートするプラットフォームやツールが増え続けていることは 11、そのエコシステムが今後も拡大していくことを示しており、ユーザーにとってより利用しやすい環境が整備されていくと期待できます。
これらの要素は、Mermaidが今後も技術ドキュメンテーションの分野で重要な役割を果たし続けることを強く示唆しています。特に、「ドキュメンテーションの陳腐化」という長年の課題に対するMermaidの貢献 1 は注目に値します。テキストベースの図をバージョン管理システムでコードと共に管理し 9、CI/CDパイプラインに組み込むことで図の生成やチェックを自動化する 14 といったアプローチは、ドキュメントがソフトウェアと共に進化し、常に最新の状態を保つ「リビングドキュメンテーション」の実現を後押しします。この文脈において、Mermaidは単なる作図ツールを超え、動的な環境で正確かつ適切な技術ドキュメントを維持するための思想を体現する存在と言えるでしょう。
また、Mermaidの成功は、Markdownの普及と密接に結びついています。MermaidはMarkdownライクな構文を採用し、Markdownのコードブロック内に埋め込まれる形で利用されることが一般的です 2。GitHub、Notion、Zenn、QiitaといったMarkdownをサポートする多くのプラットフォームがMermaidにも対応していること 11 は、この共生関係を象徴しています。Markdownが技術文書作成における軽量なテキストフォーマットのデファクトスタンダードとしての地位を維持し続ける限り、Mermaidのようなシームレスに連携できるツールもまた、そのエコシステムの中で発展を続けると考えられます。
B. 学習リソースとコミュニティの紹介
Mermaidをこれから学びたい、あるいはさらに深く活用したいと考える方々のために、役立つ学習リソースとコミュニティを紹介します。
- 公式サイト (Mermaid.js.org): Mermaidに関する最も信頼性の高い一次情報源です。最新のドキュメント、各図の詳細な構文解説、チュートリアル、Live Editorなどが提供されています 2。
- 公式ガイドブック: Packt Publishingから出版されている「The Official Guide to Mermaid.js」1 は、体系的にMermaidを学ぶための良い資料となります。
- GitHubリポジトリ: Mermaidの公式GitHubリポジトリ (mermaid-js/mermaid) では、バグ報告や機能要望、開発に関するディスカッションが行われています 51。コントリビューションに関心がある場合もこちらを参照すると良いでしょう。
- 国内外のコミュニティ記事・ブログ:
- Qiita, Zenn: 日本国内では、QiitaやZennといった技術情報共有サイトに、多くのユーザーによるMermaidの活用事例、解説記事、Tipsなどが投稿されています 6。日本語での具体的な情報収集に役立ちます。
- 海外ブログ・チュートリアル: 公式サイト以外にも、多くの技術ブログやチュートリアルサイトでMermaidの使い方が紹介されています 8。
- オンラインエディタ: Mermaid Live Editor 2 や Mermaid Flow 29 は、実際にコードを書きながら学ぶための実践的な環境を提供します。
これらのリソースを活用し、コミュニティと繋がることで、Mermaid図法のスキルを効果的に向上させることができるでしょう。Mermaidは、ドキュメンテーションの未来を形作る強力なツールの一つです。ぜひ、その可能性を探求してみてください。
引用文献
- The Official Guide to Mermaid.js: Create complex diagrams and beautiful flowcharts easily using text and code – Amazon.com, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.amazon.com/Official-Guide-Mermaid-js-beautiful-flowcharts/dp/1801078025
- Mermaid | Diagramming and charting tool, 5月 31, 2025にアクセス、 https://mermaid.js.org/
- www.gliffy.com, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.gliffy.com/blog/mermaid-diagrams#:~:text=Mermaid%20provides%20a%20way%20to,as%20%22diagrams%20as%20code.%22
- A Comprehensive Guide to Mermaid Diagrams | Gliffy, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.gliffy.com/blog/mermaid-diagrams
- 关于Mermaid – daobook 0.0.1 文档, 5月 31, 2025にアクセス、 https://daobook.github.io/mermaid/README.html
- mermaid.js で上流工程を好きになろう #設計 – Qiita, 5月 31, 2025にアクセス、 https://qiita.com/caesar_cat/items/e8a116a585863633d15a
- Mermaid diagrams | Writerside Documentation – JetBrains, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.jetbrains.com/help/writerside/mermaid-diagrams.html
- Tutorials | Mermaid, 5月 31, 2025にアクセス、 https://mermaid.js.org/ecosystem/tutorials.html
- Excelでフローチャート書くの辞めてmermaid.jsで書きます。 – Qiita, 5月 31, 2025にアクセス、 https://qiita.com/sgrs38/items/192c11a0ddcdcb0693d8
- Mermaid (マーメイド) 記法と書き方 – ダッシュボード – DocBase, 5月 31, 2025にアクセス、 https://help.docbase.io/posts/3719897
- mermaid 記法(マーメイド記法)とは?使い方を分かりやすく解説, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.edrawsoft.com/jp/draw-diagram-by-mermaid.html
- 【Qiitaでも使える】テキストから図が生成できるMermaidについて …, 5月 31, 2025にアクセス、 https://qiita.com/b-mente/items/97a4296666faccd53a72
- Mermaidでアーキテクチャ図が書けるようになったらしい #AWS – Qiita, 5月 31, 2025にアクセス、 https://qiita.com/hiroto_0411/items/3f4c950fa27430355e5a
- Mermaid.js: A Complete Guide – Swimm, 5月 31, 2025にアクセス、 https://swimm.io/learn/mermaid-js/mermaid-js-a-complete-guide
- Mermaid · Doctave Documentation, 5月 31, 2025にアクセス、 https://docs.doctave.com/components/mermaid
- www.edrawsoft.com, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.edrawsoft.com/jp/draw-diagram-by-mermaid.html#:~:text=Mermaid%E8%A8%98%E6%B3%95%E3%81%AF%E3%80%81%E3%83%86%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%88%E3%81%A7,%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%92%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
- 簡単に図を描こう!Mermaid記法の基本と応用, 5月 31, 2025にアクセス、 https://hissori.com/mermaid-diagrams-basic-advanced/
- Mermaid記法とPlantUMLを比較する、どちらを採用すべきか? – Zenn, 5月 31, 2025にアクセス、 https://zenn.dev/manase/scraps/415300a7a0631f
- Mermaid.jsの書き方: 初心者向け完全ガイド – ONES.com, 5月 31, 2025にアクセス、 https://ones.com/ja/blog/mermaid-js-writing-guide/
- How to Create Stunning Mermaid Diagrams (With Examples) – ClickUp, 5月 31, 2025にアクセス、 https://clickup.com/blog/mermaid-diagram-examples/
- Class diagrams | Mermaid, 5月 31, 2025にアクセス、 https://mermaid.js.org/syntax/classDiagram.html
- State diagrams | Mermaid, 5月 31, 2025にアクセス、 https://mermaid.js.org/syntax/stateDiagram.html
- Flowcharts Syntax | Mermaid, 5月 31, 2025にアクセス、 https://mermaid.js.org/syntax/flowchart.html
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- Examples | Mermaid, 5月 31, 2025にアクセス、 https://mermaid.js.org/syntax/examples.html
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- Theme Configuration | Mermaid, 5月 31, 2025にアクセス、 https://mermaid.js.org/config/theming.html
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- Mermaidとは何か:基本概要とその役割を解説, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.issoh.co.jp/tech/details/3374/
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- increase Mermaid MAX_CHAR_LIMIT to a more reasonable default (!60490) · Merge requests – GitLab, 5月 31, 2025にアクセス、 https://gitlab.com/gitlab-org/gitlab/-/merge_requests/60490
- Mermaid no longer render links · community · Discussion #106690 – GitHub, 5月 31, 2025にアクセス、 https://github.com/orgs/community/discussions/106690
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- ChatGPTでマーメイド記法を行うには?具体的な手順と注意点を徹底解説 – WEEL, 5月 31, 2025にアクセス、 https://weel.co.jp/media/innovator/mermaid-notation/
- MermaidとChatGPTで図解を楽々作成!図解のコード化とAI活用術 – Toolify.ai, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.toolify.ai/ja/ai-news-jp/mermaidchatgpt%E5%9B%B3%E8%A7%A3%E6%A5%BD%E4%BD%9C%E6%88%90%E5%9B%B3%E8%A7%A3%E5%8C%96ai%E6%B4%BB%E7%94%A8%E8%A1%93-3442295
- mermAIdとは何か?Mermaidとの違いや特徴を詳しく解説 – 株式会社一創, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.issoh.co.jp/tech/details/6583/
- 無料で使える!AI競合分析ツール5選とマーケター向け実践手順 – バクヤスAI 記事代行, 5月 31, 2025にアクセス、 https://bakuyasu.techsuite.co.jp/29165/
- テキストマイニングツールおすすめ12選比較!種類や選び方も徹底解説 – ITトレンド, 5月 31, 2025にアクセス、 https://it-trend.jp/textmining/article/124-0028
- 【2025年】ダイアグラム作成(作図)のおすすめ10製品(全20製品)を徹底比較!満足度や機能での絞り込みも – ITreview, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.itreview.jp/categories/diagramming
- キーワード選定ツールおすすめ比較14選【2025年版】無料から多機能な有料ツールまで紹介, 5月 31, 2025にアクセス、 https://keywordmap.jp/academy/keyword-selection-tools/
- 【ツールNo.343】今更聞けない!SEOptimerをサクッと解説 – 副業ブログ, 5月 31, 2025にアクセス、 https://www.siteproducts.jp/tools/13177/
- Questions or Suggestions? – Mermaid, 5月 31, 2025にアクセス、 https://mermaid.js.org/community/questions-and-suggestions.html