はじめに
17世紀、イギリスの科学者ロバート・フックがコルクを観察していた際に発見した言われている細胞。
21世紀の現在も生命科学という広大なフィールドの主役の一人であると多くの科学者は考えています。
しかしながら、細胞にどのような種類があるか、またその機能や性質は21世紀現在でも全てが解明されているわけではありません。
本記事では、そんな細胞がどのようなものであるか、そして細胞の種類についてその概要をご紹介していきたいと思います。
ヒトの細胞の数
生きとし生けるものは全て細胞から構成されています。
植物も動物も細菌も全てです。
細胞を表現する言葉にBridge between life and ‘non-life’ なんて言葉があります。生物と無生物の架け橋的な意味でしょうか。生物には細胞があって、無生物には細胞が無いということですね。
ヒトほどの大きな生物になると、非常に多くの数の細胞から構成されていることは皆さん想像に難くありませんね。
Eva Bianconi博士の研究グループによると、ヒトの細胞の数は約37兆個であるとされています。
さらに、その種類は270種類にもなるといわれていて、それぞれ見た目もはたらきも異なります。
生物を構成する構成単位である細胞は、ベースとなる形が定められていながらもこんなにも多様性に満ちているのです。
出典:https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/03014460.2013.807878?journalCode=iahb20
色んな形の細胞
細胞には色々な形があります。
神経、筋肉、脳、腎臓、骨、他免疫系を司る細胞などなど、様々な細胞が様々な機能を持っています。
下の図では代表的な細胞をまとめています。
好中球、運動ニューロン、心筋細胞など、聞いたことがあるものも多いのではないでしょうか。

臓器だけじゃない細胞の種類
腸、腎臓、肝臓といった臓器ごとに細胞の種類が異なることは当然わかりますが、これらそれぞれの臓器も単一の細胞で生成されているわけではありません。
例えば腎臓は身体から有害な物質を濾過して排出し、体内の水分量と電解質量のバランスを保つはたらきがある臓器ですが、腎臓を例に1つの臓器がどのような細胞から構成されているか見てみましょう。

腎臓は最も複雑な臓器の一つと言われています。ざっくり言うと尿を生成することが腎臓の最も重要な仕事ですが、尿を生成することによって浸透圧を調整していることは知られているようであまり知られていません。そしてその腎臓の浸透圧調整はあまりに複雑なため、生命科学系の学生を最初に悩ませる一つの領域であったりもします。
腎臓の機能と細胞の構成
腎臓が複数の細胞から構成されていることを知るために、もう少し細かい腎臓の解剖に目を落としていきましょう。
糸球体と呼ばれる器官に注目します。
糸球体は腎臓の中で有害物質を濾過する役割を持っている器官ですが、糸球体一つとっても上皮細胞、内皮細胞、メザンギウム細胞などそれぞれ存在する場所によって形、機能、役割が異なってきます。

メサンギウム細胞:糸球体の構造維持と糸球体濾過などの機能にも関与しているとされている。
内皮細胞:糸球体を構成する血管の内皮細胞。糸球体は毛細血管の固まりである。Created with BioRender
参考文献:https://cdn.jsn.or.jp/jsn_new/iryou/kaiin/free/primers/pdf/43_7.pdf
https://www.city.fukuoka.med.or.jp/kensa/ensinbunri/enshin_40.pdf
https://www.healthcare.nikon.com/ja/ss/cell-image-lab/glossary/mesangial-cells.html
このように、糸球体はあくまで例ですが、それぞれの細胞が役割を持って一つ一つの臓器の機能を維持させていることがわかります。
細胞のターンオーバー

細胞が役割を終えて新しい細胞と入れ替わることを細胞のターンオーバーと言います。
お肌の細胞を例にとるとわかりやすいでしょう。
肌サイクルを健康にするために、「肌のターンオーバーを改善!!」などという化粧水のメーカーの売り文句を一度は聞いたことはないでしょうか。
肌の細胞のように比較的短いターンオーバーを持つ細胞がある一方で、一度出来てから二度とその細胞が新しいものと入れ替わらない細胞も存在します。
例えば、中枢神経(脳・脊髄)の細胞が上げられます。中枢神経系の疾患がなぜ恐ろしいかと言うと一度破壊された脳・脊髄の細胞はヒトは自力では復活させることが出来ないからです。
子どもの頃、帰り道に転んで膝下を擦りむいた怪我はすぐにほぼ完全に治癒しても、一度損傷を受けた脊髄は二度と自然治癒はしないということです。
細胞のターンオーバーに必要な期間について、こちらのサイト(http://book.bionumbers.org/how-quickly-do-different-cells-in-the-body-replace-themselves/)を参考にすると、
水晶体細胞や中枢神経など一生変わらないものから小腸の上皮細胞、胃、そして血球系の細胞はターンオーバーに10日も必要としないものまでやはり細胞ごとにかなり異なりそうですね。
そして細胞のターンオーバーが異なるということは、それぞれの細胞が持つ運命も異なってきそうです。
細胞の運命 -ヘイフリック限界とテロメア-
細胞の運命は生命科学の用語では細胞周期(Cell cycle)に従います。
細胞周期はG1期、S期、G2期、M期と4つのフェーズに分かれます。これは高校生物でもおそらく学習するでしょうし、生命科学系の大学であれば必ず1年生で学習します。

細胞周期は上図のように細胞が分裂(体細胞分裂)していくための周期ですが、この周期は無限に回されるわけではありません。
哀しいかな、いつかは細胞にも「死」が訪れるのです。
細胞周期の考え方をベースにその細胞分裂の回数の限界をその細胞のヘイフリック限界と呼びます。
ヘイフリック限界とテロメア
ヘイフリック限界はテロメアと呼ばれる染色体の一部のパーツの長さによって定義されます。
ざっくり言うと、テロメアがどんどん短くなるごとにヘイフリック限界に近付いていく(=老化)と表現したりもします。

レナード・ヘイフリックによってヘイフリック限界が提唱された以後は生命の老化・寿命とヘイフリック限界・テロメアは同じフィールドで論じられることが多くなっています。
ヘイフリック限界提唱以前は、細胞単体で見ると不死であると信じられていたそうです。
近年日本でも老化や不老不死に関わるような書籍が多く発行されていますが、そのほとんどでヘイフリック限界の記載がありますね。
しかしながら、本記事のテーマとして取り上げているような細胞ごとの違いに焦点を当てて細胞の運命を考えてみるといかがでしょうか。
腎細胞の寿命と腸の細胞の寿命は同じでしょうか。
各細胞、組織ごとのテロメアの長さについて調べた研究が近年報告されています。
細胞ごとのテロメアの長さ
イタリアのボローニャ大学の研究グループは952人のドナー(20歳から70歳)から得た25種類以上の組織を対象にテロメアの長さを調査した研究を2020年にScienceにリリースしました。
この研究はScienceに受理されるだけあって、人種、年齢、組織特異性等様々な角度からテロメアの長さを解析した凄まじく手の混んだ研究となっています。
出典:https://www.science.org/doi/10.1126/science.aaz6876
色々と述べられていますが、骨子としては以下の三点が重要に感じました。
- テロメアの長さはほとんどどの組織においても年齢によって短くなる
- 一般に用いられている全血のテロメアの長さの測定は疫学的には重要な指標になる
- 精巣のテロメアは他の体組織に比べて1.5-2.5倍ほど長い
論文を読んだ限り、どの組織・臓器においても加齢によってテロメアが短くなる一方で、テロメアの短縮化には組織特異性があることから、テロメアを長いままでいさせることができればそのまま抗加齢に繋がるかというと微妙そうに思いました。
今回は細胞ごとの違いという意味で多くの説明を端折りながら記載しています。また別の記事でこのあたりについては詳しくご紹介させていただきたいと思います。
biorxivでも同じ論文が上がっていたためURLを掲載しておきます。https://www.biorxiv.org/content/10.1101/793406v1.full.pdf
終わりに〜あぁ美しき細胞の世界〜
細胞には形態学的な特徴、機能、そしてターンオーバーなど、細胞ごとによって異なる性質がたくさんあります。
それゆえに細胞は2023年現在も多くの研究者の興味を引き続けるのです。
今回このページでは記載しきれませんでしたが、細胞には細胞小器官や放出するサイトカインにも細胞ごとに特徴があります。
いずれこの記事内もしくは別記事にてご紹介させていただきたいと思います。
乞うご期待。