現代のビジネスは、あらゆる場面でコンピュータネットワークに支えられています。非エンジニアの初心者や企業の経営層・マネージャー層にとっても、ネットワークの基本を理解することは、適切なIT投資やDX（デジタルトランスフォーメーション）推進に欠かせません。本稿では、インターネットの仕組みやIPアドレス・DNS・VPN・LAN/WANの違い・クラウドとの関係といった技術的視点と、業務効率・インフラ投資・セキュリティ・DX推進といったビジネス的視点をバランス良く織り交ぜながら、ネットワークの基本的な仕組みや用語を丁寧に解説します。具体的なユースケース（社内システム導入、セキュリティ対応、テレワーク環境整備など）も紹介し、ネットワークの重要性をわかりやすく伝えていきます。
インターネットとは何か？ ～「ネットワークのネットワーク」～
まず押さえておきたいのは、インターネットという言葉の意味です。インターネットとは、簡単にいえば世界中のコンピュータネットワークが相互接続された巨大なネットワークのことです (情報セキュリティを考える)。企業内や家庭内のネットワーク同士が国や地域を超えて繋がり合い、全体としてひとつの通信網を形作っている状態を指します。つまり、インターネットは**「ネットワーク同士が繋がったネットワーク」**なのです (情報セキュリティを考える)。この仕組みにより、地球上のどこからでも他の場所にあるシステムや情報にアクセスできるようになっています。
インターネットは元々軍事目的で生まれ、後に大学や研究機関をつないで情報交換をするネットワークへと発展し、現在では全世界規模の情報インフラになりました (情報セキュリティを考える)。インターネット上では**共通の通信規約（プロトコル）**が使われており、異なる機器やOS同士でも通信できるよう標準化されています。このおかげで、どんなメーカーのコンピュータからでもメール送信（SMTP）やWeb閲覧（HTTP）といったサービスを共通ルールで利用できます (情報セキュリティを考える)。
ポイント：ネットワークとインターネット – 「ネットワーク」という言葉は本来コンピュータ同士の繋がり全般を指し、**社内ネットワーク（LAN）も広域ネットワーク（WAN）**も含む広い概念です。一方、「インターネット」は不特定多数が参加する公開ネットワークを意味することが多く、複数のネットワークを世界規模で相互接続したものを指します (〖基礎偏〗LANとWANの違いを3つの視点で解説！代表的な3つの構成とサービスも紹介｜コラム｜おまかせ監視サポート（おまかせITマネージャー）｜法人のお客さま｜NTT東日本) (〖基礎偏〗LANとWANの違いを3つの視点で解説！代表的な3つの構成とサービスも紹介｜コラム｜おまかせ監視サポート（おまかせITマネージャー）｜法人のお客さま｜NTT東日本)。社内など限定された人だけが使うネットワークは一般にインターネットとは区別されます。
データはどう届く？ ～ネットワークの仕組みとIPアドレス～
インターネットや社内LAN上でデータをやり取りする際、情報は**「パケット」と呼ばれる小さな塊に分割されて送られます。各パケットには宛先と送り元の住所にあたる情報が付与され、ネットワーク上を中継されて目的地へ運ばれます。ここで登場する重要な用語がIPアドレス**です。
IPアドレスとは、ネットワークに接続されたパソコンやサーバーなどの機器一つひとつに割り振られる識別番号です (〖基礎偏〗LANとWANの違いを3つの視点で解説！代表的な3つの構成とサービスも紹介｜コラム｜おまかせ監視サポート（おまかせITマネージャー）｜法人のお客さま｜NTT東日本)。いわばデジタル社会における「住所」や「電話番号」のようなもので、ネットワーク上の通信はこの番号を手がかりに届け先を見つけます (〖基礎偏〗LANとWANの違いを3つの視点で解説！代表的な3つの構成とサービスも紹介｜コラム｜おまかせ監視サポート（おまかせITマネージャー）｜法人のお客さま｜NTT東日本)。例えば、社内のパソコンからWebサイトを閲覧しようとすると、パソコンは自分のIPアドレス（送り元）と閲覧したいWebサイトのIPアドレス（宛先）をパケットに記載してインターネットに送り出します。途中いくつものルーター（経路選択を行う中継機器）を経由しながら、パケットは宛先サーバーに届けられ、回答パケットがまた送り元のIPアドレスめがけて返送されます。このようにして情報のやり取りが行われています。
IPアドレスの種類にも触れておきましょう。社内LANなど閉じたネットワーク内で使用されるプライベートIPアドレスと、インターネット上でグローバルに一意となるグローバルIPアドレスがあります (〖基礎偏〗LANとWANの違いを3つの視点で解説！代表的な3つの構成とサービスも紹介｜コラム｜おまかせ監視サポート（おまかせITマネージャー）｜法人のお客さま｜NTT東日本) 。プライベートIPアドレスは各企業や家庭内で自由に設定でき（例えば192.168.×.×で始まるもの）、社内の機器を識別します。一方、グローバルIPアドレスはインターネット接続の際にプロバイダ（通信事業者）から割り当てられる世界で唯一の番号で、通常は各家庭や企業のルーターに付与されます 。ルーターはインターネットから届いたデータをまず自分（ルーター自身）のグローバルIPで受け取り、社内LAN内の対応するプライベートIP（目的のPCやサーバー）にデータを転送する役割を担います。この仕組みにより、社内の複数端末も一つのグローバルIPを介してインターネットにアクセスできるわけです。
名前解決：DNSとドメイン名
インターネット上ではIPアドレスが「住所」ですが、人間にとって「203.0.113.」のような数字列を覚えるのは大変です。そこで登場するのがDNS（Domain Name System）という仕組みです。普段私たちは「example.com」や「google.co.jp」のようなドメイン名**でサイトにアクセスしますが、実際の通信ではこのドメイン名が対応するIPアドレスに変換される必要があります。この変換を行うのがDNSサーバーです。
DNSはしばしば**「インターネットの電話帳」**に例えられます (DNSとはなにかをわかりやすく解説｜DNSサーバーの仕組みや役割 – Shopify 日本)。電話帳が人名から電話番号を引けるように、DNSはドメイン名から対応するIPアドレスを探し出す役割を果たします。例えば、ブラウザに「www.example.com」を入力すると、まずDNSサーバーに問い合わせが送られ、そのドメインに対応するIPアドレス（例えば203.0.113.10といった形式）が返ってきます。ブラウザは得られたIPアドレス宛てに通信を行い、目的のWebサーバーと接続できます。このようにDNSのおかげで、私たちは覚えやすい名前でインターネット上のリソースにアクセスでき、背後ではネットワークが適切なIPアドレスへと橋渡ししてくれています (DNSとはなにかをわかりやすく解説｜DNSサーバーの仕組みや役割 – Shopify 日本)。
なお、ドメイン名の問い合わせは世界中に分散配置されたDNSサーバー群で処理されます。一連のやり取りは通常ほんの一瞬で完了しますが、もしDNSが機能しなければ多くのサービスが「名前が解決できない」状態となり利用不能になります。それだけDNSはインターネットの基盤を支える重要な存在なのです。
LANとWANの違い：社内と社外をつなぐネットワーク
ネットワークの種類としてよく登場するのがLANとWANという用語です。これは主にネットワークがカバーする範囲の違いを表しています (〖基礎偏〗LANとWANの違いを3つの視点で解説！代表的な3つの構成とサービスも紹介｜コラム｜おまかせ監視サポート（おまかせITマネージャー）｜法人のお客さま｜NTT東日本)。
- LAN（ラン：Local Area Network）：オフィスのフロア内や建物内など限られた範囲で機器同士を接続したネットワーク。社内ネットワーク、家庭内ネットワークとも言えます。イーサネットケーブルやWi-Fiで繋がれた社内のPC・プリンター・サーバーなどがこれに該当します。
- WAN（ワン：Wide Area Network）：地理的に離れた場所同士のネットワークを繋ぐ広域ネットワーク。例えば東京本社と大阪支社のLANを結ぶようなケースです。通常、通信事業者の提供する回線サービス（専用線やVPNサービス）やインターネットを経由して構築されます。
(Small Office LAN Network Diagram Template | MyDraw)上図は小さなオフィスのLANネットワーク構成の一例です。社内には複数のPCやサーバーがスイッチ（ハブ）で接続され、ルーターを通じて外部のインターネットに繋がっています。またセキュリティのためにファイアウォール（通信を監視・遮断する機器）が設置され、外部との境界で不正なアクセスを防いでいます。LAN内の機器同士（例えば社内PCと社内サーバー）は高速かつ安定的に通信できますが、インターネットを介した外部との通信では回線速度やセキュリティ対策が重要になります。
企業ネットワークでは、社内LAN同士をWANで接続するケースがよくあります。例えば本社と各支店でそれぞれLANを構築し、拠点間を専用のWAN回線で結ぶことで、まるで一つのLANのように社内システムを共有できます。複数拠点を持つ企業では、LANとWANを組み合わせたネットワーク構成が必要になるでしょう。
補足：インターネットとWANはどう違う？ – どちらも広域を繋ぐ点では似ていますが、WANは特定の組織内の閉じたネットワークであるのに対し、インターネットは世界中の誰もが参加できる開かれたネットワークです (〖基礎偏〗LANとWANの違いを3つの視点で解説！代表的な3つの構成とサービスも紹介｜コラム｜おまかせ監視サポート（おまかせITマネージャー）｜法人のお客さま｜NTT東日本)。そのため、インターネットに接続する際にはファイアウォールや暗号化などのセキュリティ対策が不可欠です。自社専用のWANであれば外部からの不正アクセスリスクは低いですが、インターネットは便利な反面リスクも存在することを念頭に置く必要があります。
VPNとセキュアなリモートアクセス
社外から社内ネットワークに安全に接続する技術として重要なのがVPN（Virtual Private Network）です。VPNは「仮想専用線」とも呼ばれ、インターネットなどの公衆回線上に暗号化された専用トンネルを作ることで、あたかも直接ケーブルで繋がっているかのように拠点間を接続します (VPNの仕組みと脆弱性の課題。テレワーク・リモートワークを安全に行う方法とは？ – moconavi NOTE) 。これにより、離れた場所にいる社員でも社内にいるのと同じ感覚で業務システムにアクセスできるようになります。
VPNのメリットはセキュリティと利便性です。通信内容は常に暗号化されており盗聴されにくく、社内のファイルサーバーやデータベースにも安全にアクセスできます (テレワーク移行で失敗したくない貴社におすすめ！VPN接続する際の問題点と解決方法)。たとえばテレワークや在宅勤務では、自宅のPCからインターネット経由で会社のLANに接続する必要がありますが、VPNを使えばその経路が暗号化されるため、社外からでも社内と同等の環境で業務を行うことができます。実際、昨今のリモートワーク普及に伴い、多くの企業がVPNを導入しています)。
もっとも、VPNにも注意点があります。例えば、同時に多数の社員がVPN接続するとVPN装置（ルーターやサーバ）の処理能力がボトルネックとなり、通信速度が低下したり不安定になることがあります (テレワーク移行で失敗したくない貴社におすすめ！VPN接続する際の問題点と解決方法)。そのため、テレワーク導入時にはVPN機器の性能や回線帯域を十分に見積もり、必要に応じて増強することが重要です。またVPNの接続アカウント管理や端末認証の徹底など、運用面のセキュリティ対策も求められます。
クラウドサービスとネットワークの関係
近年、多くの企業がシステムをオンプレミス（自社設置）からクラウドへと移行しています。クラウドサービス（例えばAWSやAzure、Google Cloudなど）を活用することで、自社でサーバーを抱えずに必要なときに必要なだけコンピューティング資源を利用できます。しかし、クラウド活用を成功させるカギもやはりネットワーク環境にあります。
クラウド上のシステムにアクセスするにはインターネット経由の通信が必要なため、社内インターネット回線の帯域と安定性が業務パフォーマンスを左右します。例えば、基幹システムをクラウドERPに移行した場合、各拠点からクラウドへのアクセスが遅いと業務全体が滞ってしまいます。このため、クラウド導入時には現行ネットワークの回線増強や冗長化（バックアップ回線の用意）を検討する必要があります。
また、クラウドと自社ネットワークを直結する専用ネットワークサービス（専用線接続やクラウド専用VPNなど）もあります。例えばAWSにはDirect Connect、AzureにはExpressRouteといったサービスがあり、インターネットを介さずクラウドとデータセンター間をセキュアに結ぶことができます。これにより通信の遅延やセキュリティリスクを低減でき、クラウド利用時のユーザー体感を向上させることができます。コストとの兼ね合いになりますが、クラウド活用がビジネスの柱となる場合にはネットワーク経路の品質確保に投資する価値があります。
クラウドとネットワークのもう一つの視点は、拠点やテレワーク端末からクラウドサービスへの直接アクセスです。従来は全ての通信を一度本社に集約し、そこから外部アクセスさせる構成も一般的でしたが、クラウド利用が増えた現在では各拠点・各端末からインターネット経由で直接クラウドに繋ぐケースも増えています。SD-WAN（Software-Defined WAN）のような新しいWAN技術を用いれば、インターネット回線を組み合わせて高品質かつ柔軟なネットワークが構築でき、クラウドと各拠点を効率よく繋げることができます。いずれにせよ、クラウドのメリットを享受するにはネットワーク戦略の見直しが欠かせません。
業務効率とネットワーク：見えないインフラが生産性を左右する
ネットワークの質は、そのまま業務効率に影響します。例えば社内ネットワークの速度が遅かったり頻繁に切断されたりすると、社員はファイルのダウンロードや業務システムの利用に無駄な待ち時間を強いられます。メール送受信に時間がかかったり、ウェブ会議中に音声や映像が途切れるようなことがあれば、生産性低下やストレスの原因になります。経営層にとってネットワークは見えにくい存在ですが、実は**従業員の体験（エクスペリエンス）**に直結する重要なファクターなのです (ネットワークの変革なしにDXは語れない 著名人が語るDXのポイント)。
コミュニケーションの円滑化にもネットワークは貢献します。今日ではメールだけでなく、SlackやTeamsといったコラボレーションツール、クラウド上のドキュメント共有、オンライン会議システムなどが日常業務に組み込まれています。これらはすべてネットワーク経由で動作するサービスです。ネットワークが安定して高速であれば、部署間・支店間のコミュニケーションもスムーズに行え、情報共有のスピードが増します。逆にネットワーク障害が起これば全社的なコミュニケーション断絶すら招きかねません。
顧客対応の面でもネットワークの品質は鍵を握ります。例えばコールセンターのオペレーターがクラウドCRMにアクセスして顧客情報を参照する場面を考えてみましょう。ネットワークが遅いと顧客をお待たせする時間が長くなり、満足度低下に繋がります。ECサイトを運営する企業でネットワークやサーバーが不安定だと、ピーク時にサイトが閲覧できなくなり販売機会を逃すリスクもあります。近年は顧客サービスもデジタル化が進み、ネットワークの質がそのまま顧客体験の質に影響すると言っても過言ではありません (ネットワークの変革なしにDXは語れない 著名人が語るDXのポイント)。
そのため、多くの企業がネットワークの監視や可用性向上に取り組んでいます。ネットワーク機器のログ監視やトラフィック分析によりボトルネックを把握し、必要なら帯域増強や機器交換を行います。Wi-Fi環境の整備も働きやすさに直結します。オフィス内で高速な無線LANが利用できれば、会議室やフリーアドレス席でもシームレスに仕事ができ、業務効率や柔軟性が向上します。このようにネットワークインフラへの投資は裏方ながら大きなリターンを生みうるのです。
インフラ投資とリスク管理：ネットワークにどこまでお金をかけるか
ネットワーク設備への投資は一見するとコストセンターに思えるかもしれません。しかし、適切な投資はダウンタイム（サービス停止時間）の削減やセキュリティインシデント防止によって、結果的に企業の損失を防ぎます。ネットワーク障害による業務停止は企業に甚大な被害をもたらし得ます。ある調査では、企業は平均してシステムダウンにより年間4900万ドル（約79億円）の収益を失っているとの報告もあります (人的ミスなどによるシステムダウン、損害は世界で「約65兆円」 | Forbes JAPAN 公式サイト（フォーブス ジャパン）)。さらに罰金や違約金といった二次的損害も加わり、ダウンタイムは経営課題となっています。
ユースケース：ネットワーク障害のビジネス影響 – とあるEC企業では、社内ネットワーク機器の故障により物流システムが半日停止し、受注処理ができない事態に陥りました。結果、多数の注文出荷が遅延し、一部顧客には謝罪と補償を行う羽目になりました。この経験から経営陣はネットワーク冗長化投資を決断。バックアップ回線と予備機の導入にコストはかかりましたが、その後は障害発生時も迅速に切り替えてサービス継続でき、結果的に顧客信頼と機会損失防止の面で投資に見合う効果が得られました。
インフラ投資判断では、単に設備費用だけでなく、それによって防げるリスクや得られる効果を定量・定性の両面で評価することが大切です。ネットワークの場合、以下のような観点で検討できます。
- 可用性向上の効果: 二重化や高品質回線により障害によるダウンタイムを何時間削減できるか。その時間あたり売上や生産性損失を算出し、投資対効果を見積もる (【解説】アクセス集中時にシステム障害が起こる理由とは？ – Queue-it) (インシデントの平均修復時間6時間12分、システムダウンタイムの …)。
- パフォーマンス向上の効果: 帯域増強や最新機器導入でレスポンスが向上し、業務処理量やユーザー満足度がどれだけ上がるか。例えばページ応答が速くなればECコンバージョン率が上がる可能性もあります。
- セキュリティ強化の効果: 新たなファイアウォールや監視システム導入でサイバー攻撃リスクをどれだけ低減できるか。仮に情報漏えいが起きた場合の損失（信用低下・賠償等）と比較すれば投資妥当性が見えてきます。
- 将来需要への対応: DX推進で今後データ通信量が倍増する予測があるなら、先行投資でボトルネックを排除しておくことが長期的な競争優位に繋がります。
このように、ネットワークは“攻め”のDX戦略を支える守りの土台とも言えます。適切なインフラ投資は企業のレジリエンス（復元力）を高め、環境変化への対応力を強化します。
セキュリティとネットワーク：玄関口を守る
ネットワークは社内外のシステムを繋ぐ便利な通路である反面、脅威の侵入経路にもなりえます。近年、サイバー攻撃は巧妙化しており、ネットワークを標的にした不正アクセスやマルウェア侵入が後を絶ちません。経営層にとっても情報セキュリティは大きな関心事ですが、その第一歩となるのがネットワークレベルでの防御策です。
ファイアウォールは代表的なネットワークセキュリティ機器です。社内LANとインターネットの境界に配置し、外部からの不要な通信を遮断します (Physical LAN and WAN diagram – Template | Network Diagram Examples | Firewall between LAN and WAN | Diagram Of Lanand Wan)。例えばWebサーバーを公開するにしても、許可した通信（特定のポート、プロトコル）以外はファイアウォールでブロックする設定にします。これにより未知の攻撃や不審なアクセスをシャットアウトできます。また、社内から外部への通信についても不要なものは遮断することで、内部からの情報漏えい（例えばマルウェアによる外部送信）を防ぐ効果もあります。
ネットワークのセグメント化（分割）も有効な対策です。社内LANを部署ごとや役割ごとに分離し、セグメント間の通信を制限します。例えば来客用Wi-Fiネットと社内重要データネットを完全に分離すれば、万が一来客用ネットワークからウイルス感染が起きても社内重要データ側には届きにくくなります。ネットワークスイッチのVLAN機能やファイアウォールの内部セグメンテーション機能を活用して、**「侵入されても被害を局所に留める」**設計にすることがポイントです。
さらに近年注目される考え方にゼロトラストネットワークがあります。従来は社内ネットワーク内は信頼できる前提で内部通信をあまりチェックしないケースもありましたが、ゼロトラストでは内部・外部を問わず常に認証・検査を行い、「誰も信頼しない」方針でセキュリティを強化します (VPNとは？リモートワークのセキュリティ向上とこれから｜IT Insight｜Rentec Insight｜レンテック・インサイト｜オリックス・レンテック株式会社)。これに対応するには、ネットワーク機器だけでなく認証基盤や端末セキュリティなど総合的な見直しが必要ですが、ネットワーク自体もマイクロセグメンテーション（細かな区切り）を施すなど高度な管理が求められます。経営層としては少し難しい用語に感じるかもしれませんが、「社内だろうと常に厳重にアクセス制御する時代」と認識しておくとよいでしょう。
ユースケース：セキュリティ対応 – ある中堅企業では、取引先へのファイル送信に使っていたサーバーがランサムウェア感染するインシデントが発生しました。原因は、外部からの通信を受け付けるポートが開いたままで脆弱なプロトコルを利用していたことでした。経営層はこの事故を重く見て、専門家の助言のもとネットワークセキュリティ強化プロジェクトを立ち上げました。具体的には(1)ファイアウォールの更改とルール最適化、(2)DMZ（非武装セグメント）の構築による公開サーバーの社内分離、(3)VPN経由以外の社内システムアクセス禁止、(4)ネットワーク監視システムの導入による24時間体制の異常検知、といった施策を実施しました。その結果、以後は外部脅威の遮断率が飛躍的に高まり、万が一ウイルスメールの踏み台にされそうになっても早期にブロックできるようになりました。ネットワークは企業の情報資産への玄関口であり、しっかり鍵をかけ監視カメラを置く（比喩的に言えば）ことがいかに重要かを経営層も実感したケースです。
DX時代におけるネットワーク：基盤としての重要性
DX（デジタルトランスフォーメーション）を推進する企業にとって、ネットワークは基盤中の基盤です。AI活用、IoT導入、ビッグデータ分析、クラウド移行――これら先進的取り組みはいずれもネットワークを介してデータが行き交うことで成り立ちます。高速で安定したネットワークは、DXの土台となるデータ連携やクラウドサービス利用を支える重要な要素であり、その改善は多くのプラス効果をもたらします (ネットワーク環境の改善がDX推進のカギ！優先すべき理由と効果を解説 | ビジネスコラム | 楽天モバイル)。
例えばIoTで工場設備からリアルタイムにデータ収集し分析する場合、工場内ネットワークからクラウドへの通信が滞ればタイムリーな判断ができません。同様に、AIを用いた需要予測システムをクラウドで動かすなら、店舗や倉庫からデータを継続的に送り込むネットワークが信頼できるものでなければ成果は出せません。DXとは新技術の導入だけでなく社内のITインフラ全体の変革でもあります。レガシーなネットワークをそのままにDXを進めようとしてもうまくいかないでしょう。
その意味で、まずネットワーク環境を整備することがDX推進のカギとなります。具体的には、老朽化したルーター・スイッチの更新、オフィスのWi-Fi最適化、クラウド時代に即したネットワークアーキテクチャ（例えばインターネットブレークアウト戦略やSD-WAN採用）の検討などです。これらは一見地味ですが、DXをスムーズに進める下地となります。ネットワークがボトルネックにならなければ、新しいデジタル施策の効果を最大限引き出せるからです。
人材の働き方改革においてもネットワークの果たす役割は大きいです。リモートワークやモバイルワークが定着する時代、社員がどこにいても社内と同様に働ける環境＝ネットワーク環境を用意することが求められます。5Gや公衆Wi-Fiの整備も進んでいますが、企業として社給PCにモバイル通信環境を持たせたり、ゼロトラストネットワークで社内リソースに安全にアクセスできる仕組みを導入したりと、「場所に依存しない働き方」をネットワークで実現することがDXの一側面でもあります。
ユースケースで学ぶネットワークの重要性
最後に、ネットワークがビジネスに直結する具体的なシナリオをいくつか見てみましょう。現実の企業活動において、ネットワーク理解が意思決定を左右した例です。
ケース1：社内システム導入とネットワーク計画
ある製造業A社では、老朽化した基幹業務システムを刷新するプロジェクトが立ち上がりました。経営層は最新のクラウドERP導入を検討しましたが、一方で工場内はネットワークが古く、インターネットも細帯域の回線しかありませんでした。ここでIT部門から「クラウドに移行するならネットワーク増強が先決です」との提案が上がりました。経営層は当初ピンと来ていませんでしたが、現場の声として「現在ですら受注データ送信に時間がかかっており、回線遅延が業務のボトルネックになっている」という実態を知ります。そこでA社はシステム導入と並行してネットワーク刷新にも投資する決断をしました。具体的には光回線を高速プランに変更し、各拠点もSD-WANで結んでクラウドへの経路を最適化しました。結果、クラウドERPへの移行後もレスポンス良くシステムが使え、現場からも「ネットワークが速くなり仕事がしやすい」と好評でした。教訓：新しいIT施策導入時には、その基盤となるネットワーク要件を無視しないこと。ネットワーク計画とセットで検討することで投資効果を最大化できます。
ケース2：テレワーク環境整備とVPN
情報サービス業B社では、コロナ禍をきっかけに全社員テレワーク可能とする方針を立てました。急遽VPN環境を導入し在宅勤務を開始したものの、当初は通信が不安定で「自宅から社内ファイルサーバーへのアクセスが遅い」「VPNがよく切れる」と苦情が相次ぎました。原因を調べると、B社のVPN装置が同時接続500名程度までの中型機で、全社員1000名以上が接続するには性能不足だったのです。また社内ネットワーク経由でしか使えない旧来システムもあり、VPNにトラフィックが集中していました。そこでB社はネットワークの専門家と相談し、(1)VPN装置をハイエンドモデルに交換し回線も増速、(2)一部社内システムをクラウド化し直接アクセス可能に変更、(3)テレワーク中の利用が少ないサービスは一時停止して通信負荷軽減、といった対策を実施しました。これによりVPN経由の通信量が適正化され、テレワーク環境は大幅に改善しました。社員は在宅から円滑に業務を遂行でき、生産性も向上。教訓：テレワークインフラ整備では、VPNやネットワークのキャパシティ計画が不可欠。全社員が利用する前提で負荷試算を行い、必要なら機器増強やクラウド活用で柔軟に対応しましょう。
ケース3：店舗システムのネットワーク冗長化
小売業C社は全国に多数の店舗を展開し、各店舗のPOSレジや在庫管理は本部データセンターのサーバーとオンラインで連携していました。ある日、主要通信キャリアの大規模障害が発生し、一部地域で店舗から本部への通信が途絶。結果、その地域の店舗ではクレジット決済ができず売上機会を逃すトラブルとなりました。C社はこの事故を教訓に、ネットワークの冗長化を進めました。具体的には、主要キャリア回線と別キャリアの予備回線を店舗に二重で引き、片方がダウンしてももう一方に自動切替できるようルーターを設定しました。また店舗POSにもスタンドアロンモード（オフラインでも一時稼働可能な機能）を持たせ、通信断が起きても一定時間は営業継続できるようにしました。こうした対策により、後日別の回線障害があった際も店舗業務への影響は最小限に留まりました。教訓：ネットワークは外部要因で切れるリスクもあるため、重要業務を預かる場合は冗長構成を検討しましょう。一見コストに思えても、止まらない仕組みは信頼性という無形の価値を生みます。
まとめ：ネットワーク基礎知識がもたらす前向きな一歩
ネットワークの基本的な仕組みや用語について、技術面とビジネス面から概観してきました。普段意識することの少ないインフラですが、ネットワークは企業活動の血脈であり、その健全性が業務効率やセキュリティ、ひいてはビジネスの成長を左右しています。経営層やマネージャーであっても、今回解説したようなIPアドレスやDNS、LAN/WAN、VPNといった基礎知識を持っていれば、IT担当者との議論や意思決定において適切な判断材料を持つことができます。例えばクラウドへの投資判断時に「ネットワーク帯域は十分か？」といった問いを発するだけでも、プロジェクトの成功率を上げることに繋がるでしょう。
また、ネットワークに目を向けることで新たな業務改革のヒントが見えることもあります。古いネットワークを見直して最新技術を取り入れれば、結果としてDX推進の加速や運用コスト削減につながるケースも少なくありません。高速で安定したネットワーク環境は、それ自体が競争力の源泉にもなり得るのです (ネットワーク環境の改善がDX推進のカギ！優先すべき理由と効果を解説 | ビジネスコラム | 楽天モバイル)。ぜひ本稿をきっかけに、自社のITインフラ、とりわけネットワーク基盤に関心を持ち、前向きにクラウドやデジタル技術の活用を検討してみてください。ネットワークの理解を深めた皆さんが、安心・安全で効率的なIT環境の構築に乗り出すことを期待しています。
