BFF (Backend for Frontend) の責任領域を徹底解説:Netflix、Spotifyの事例とアンチパターンから学ぶAPI設計の未来

現代のデジタルプロダクト開発において、優れたユーザーエクスペリエンス(UX)の提供はビジネスの成功に直結します。しかし、デスクトップWeb、モバイルアプリ(iOS/Android)、スマートデバイスなど、多様化するフロントエンドの要求に、単一のバックエンドAPIで応え続けることは困難を極めます。

この課題を解決するアーキテクチャパターンとして「BFF (Backend for Frontend)」が注目を集めています。BFFは単なる技術的な流行ではなく、NetflixやSpotifyのようなグローバル企業が採用し、開発速度とUXを両立させてきた戦略的なアプローチです。

本レポートは、国外の主要な技術文献(ThoughtWorks、Microsoft、AWSなど)と豊富な実例に基づき、BFFパターンの責任領域(責務)を徹底的に解剖します。特に、開発チームが最も悩む「BFFとフロントエンドのロジック分離」について、アンチパターンを交えながら詳細に解説します。さらに、BFFの歴史的背景から、GraphQLやサーバーレスといった未来のトレンドまでを網羅し、技術者だけでなく、ビジネスリーダーにも本パターンの戦略的価値が理解できるように構成されています。

目次

第1章: BFF (Backend for Frontend) とは何か?その誕生の背景

BFFパターンを正確に理解するためには、まずそれがどのような課題を解決するために生まれてきたのかを知る必要があります。

1.1. BFF登場以前の課題:「ワンサイズ・フィッツ・オール」APIの限界

BFFが登場する以前、多くのシステムは「ワンサイズ・フィッツ・オール(One-Size-Fits-All)」と呼ばれるアプローチを採用していました 1。これは、単一の汎用バックエンドAPIが、デスクトップWeb、モバイルアプリ、場合によってはパートナー企業向けのAPIなど、すべてのクライアントに対してデータを提供するアーキテクチャです 2

このアプローチは、クライアントが少なかった時代には有効でしたが、提供先が多様化するにつれて深刻な問題を引き起こしました。

  1. クライアント要求の不一致(Mismatch):
  • デスクトップWebは広範なデータを一度に表示したい一方、モバイルアプリは画面サイズや通信環境の制約から、より軽量で必要最小限のデータ(ペイロード)を求めます 2
  • 例えば、モバイルクライアントはデスクトップに比べて「より少ない」データ、あるいは「異なる」データを必要とします 6。この「要求の不一致」 2 に対応するため、汎用APIは複雑化の一途をたどりました。
  1. 開発のボトルネック化:
  • 汎用APIは、複数のフロントエンドチームからの競合する要求にさらされます 2
  • 例えば、モバイルチームが要求したAPIの変更が、Webチームの機能に意図せず悪影響を及ぼす「破壊的変更」 7 にならないよう、慎重な調整が必要になりました。
  • 結果として、バックエンドチームは単一のデプロイリソース 2 の互換性を維持することに追われ、APIの変更とデプロイが開発プロセス全体のボトルネックとなったのです 2
  1. コードベースの肥大化:
  • 各クライアント固有の要求(例:「モバイル用にはこのフィールドを除外する」)をすべて汎用APIが吸収しようとした結果、APIのコードベースは肥大化し、メンテナンス性が著しく低下しました 9

1.2. 歴史的背景:Sam Newman氏とThoughtWorksが提唱した「エクスペリエンスのためのバックエンド」

こうした「ワンサイズ・フィッツ・オール」APIの限界に対する明確な解決策として提示されたのが、BFFパターンです。

このパターンは、著名なコンサルティング企業ThoughtWorksに在籍していたSam Newman(サム・ニューマン)氏によって、2015年のブログ記事で明確に定義・提唱されました 2。なお、「BFF (Backend For Frontend)」というキャッチーな用語自体は、当時SoundCloudに在籍していたPhil Calçado(フィル・カルサド)氏によって造語されたとされています 6

Newman氏が提唱したBFFの核心は、「クライアントインターフェースごとに1つのバックエンドを持つ」 2、すなわち「特定のユーザーエクスペリエンスに特化したサーバーサイドコンポーネント」 11 を導入することにあります。

ここで重要なのは、BFFが単なる技術パターンとしてではなく、組織論的な解決策として考案された点です 2。Newman氏が指摘した根本的な問題は、フロントエンドチームとバックエンドチームが組織的に分離され、両者の間に「断絶(disconnect)」 2 が生じていることでした。フロントエンドチームは、機能開発に必要なAPIの変更を、優先順位の異なるバックエンドチームに「依頼」し、その合意形成と実装を待たなければなりませんでした。

BFFは、この組織的ボトルネックを解消します。BFFパターンでは、フロントエンドチーム(例:iOSチーム)が、自分たちのクライアントアプリ(iOSアプリ)と、そのアプリ専用のバックエンド(iOS-BFF)の両方を自ら所有し、管理するのです 11。これにより、フロントエンドチームは他チームとの調整を最小限にし、自律的に開発を進められるようになります。

1.3. APIゲートウェイとBFFの根本的な違い:混同の回避

BFFはしばしば「APIゲートウェイ」と混同されますが、両者の目的と責任領域は根本的に異なります 15

  • APIゲートウェイ (API Gateway):
  • 目的: サービス中心的(service-centric) 15
  • 責務: 複数のマイクロサービスへの「単一のエントリーポイント」 16 として機能します。主な責務は、認証(Authentication)、レート制限、リクエストルーティングといった、すべてのクライアントに共通する「横断的(horizontal)かつインフラ関連」 15 の懸念事項の処理です 2。APIゲートウェイは、特定のクライアントがそのデータをどう表示するかについては関知しません 15
  • BFF (Backend for Frontend):
  • 目的: クライアント中心的(client-centric) 15
  • 責務: 「特定のクライアント(ユーザーエクスペリエンス)」 16 に最適化されたAPIを提供します。主な責務は、データ集約(Aggregation)やデータ変換(Transformation)といった、「垂直的(vertical)かつアプリケーション関連」 15 の懸念事項の処理です 16

これら二つは競合するものではなく、多くの場合、補完的なパターンとして共存します 15。

典型的な現代的アーキテクチャでは、まずAPIゲートウェイがインフラ全体の「玄関口」としてリクエストを受け取り、JWTトークンの検証などの共通認証処理を行います 2。その後、認証済みのリクエストを適切なBFF(例:Mobile-BFF)に転送します。BFFは、そのモバイルクライアントのためだけに、下流の複数のマイクロサービスを呼び出し、データを集約・変換して応答します。

もし、汎用APIゲートウェイがBFFの役割(クライアント固有のデータ変換ロジック)まで担おうとすると、そのAPIゲートウェイ自体がかつての汎用APIのように肥大化し、新たなモノリスとなってしまうため注意が必要です 8

第2章: BFFの「責任領域」:何をすべきで、何をすべきでないか

BFFパターンを正しく実装する鍵は、その「責任領域」を明確に定義することにあります。BFFは万能のレイヤーではなく、特定の責務に特化すべきです。

2.1. 責務1:APIアグリゲーションとオーケストレーション

BFFの最も主要な責務は、APIの集約(Aggregation)とオーケストレーション(Orchestration)です 2

マイクロサービスアーキテクチャでは、データが機能ごとに分割されています。例えば、eコマースの製品詳細ページを表示するには、「製品情報サービス」「在庫情報サービス」「レビューサービス」という3つの異なるマイクロサービスからデータを取得する必要があるかもしれません 4

BFFがない場合、フロントエンドクライアント(例:モバイルアプリ)が、これら3つのAPIを個別に呼び出す必要があります 4。これは、特に通信環境が不安定なモバイルデバイスにとって「高価(expensive)」な操作であり、ネットワークの往復遅延(Round Trip Time)が蓄積し、UXを著しく低下させます 11

BFFは、この問題を解決します。クライアントはBFFが提供する単一のエンドポイント(例:/product-details/123)を呼び出すだけです 19。BFFは、リクエストを受け取ると、サーバーサイドでこれら3つのマイクロサービスへの呼び出しを**集約(Aggregate)**し、それらの結果を1つの応答ペイロードにまとめてクライアントに返します 20

さらに、BFFは単なる集約だけでなく、呼び出しの**オーケストレーション(Orchestration)**も担当します。例えば、「まず製品情報サービスを呼び出し、その結果に含まれるSKUを使って、在庫情報サービスとレビューサービスを並列で呼び出す」といった「複雑なワークフロー」 11 を管理します。この複雑さをクライアントから隠蔽することがBFFの価値です。

2.2. 責務2:データ変換とクライアント最適化

第二の重要な責務は、データの変換(Transformation)とクライアントへの最適化です 14

下流のマイクロサービスが返すデータは、特定のドメイン(例:在庫管理)にとっては汎用的で完璧なデータ構造かもしれませんが、フロントエンドのUIがそのまま表示するには不適切であることが多々あります。

BFFは、これら汎用的なデータを、そのBFFが担当する特定のUIにとって都合の良い、「フロントエンドフレンドリーなフォーマット」 14 に**変換(Transform)**します。

この変換には以下のような処理が含まれます:

  • ペイロードの削減: モバイルクライアントに不要なフィールド(例:内部管理用のタイムスタンプ)を削ぎ落とし、ペイロードを軽量化する 4
  • データの整形: マイクロサービスが返す生データ(例:”2025-10-01T00:00:00Z”)を、UIが表示しやすい形式(例:”10月1日”)に整形する 21
  • データのマージ: 複数のサービスからの応答を、UIが扱いやすい単一のJSONオブジェクトにマージする。

BFFにおけるAPI設計は、バックエンドのデータベース構造から開始するのではなく、UI/UXのニーズから逆算して開始されます 14。この責務は、従来フロントエンド(ブラウザやモバイルアプリ)が担っていた「データ整形ロジック」 22 の多くをサーバーサイド(BFF)に移行させることを意味します。これにより、クライアントのコードベースはUIの描画と状態管理に集中でき、よりシンプルになります 22

2.3. 責務3:エラーハンドリングとフォールトトレランス

BFFは、複数のダウンストリームサービスに依存するため、それらの障害モード(Failure modes)を管理し、クライアントに対してフォールトトレランス(耐障害性)を提供する責任を負います 11

例えば、前述の製品詳細ページ(製品・在庫・レビューを集約)において、もしレビューサービスだけが一時的にダウンした場合 11、BFFはどのような挙動をすべきでしょうか。

BFFがない場合、クライアントはレビューAPIの呼び出しに失敗し、UI全体がエラー表示になるかもしれません。一方、BFFはここでインテリジェントな判断を下すことができます。BFFは、レビューサービスの障害を検知しつつも、製品情報と在庫情報(主要な機能)のデータは正常にクライアントに返します。そして、レビューデータ部分には「現在レビューを読み込めません」という情報(あるいは空の配列)を付加して応答します。

このような、一部の機能が失敗してもシステム全体としては動作を継続する「グレースフル・デグラデーション(Graceful Degradation、優雅な縮退)」 11 の実装は、BFFの重要な責務です。

さらに、BFFは、サーバー側で発生した技術的なエラー(例:InventoryService Database Connection Timeout)を、フロントエンドが解釈可能で、ユーザーにとって意味のあるエラーメッセージ(例:{ “error_code”: “INVENTORY_UNAVAILABLE” })に「翻訳」 22 します。これにより、クライアント側のエラーハンドリングロジックが大幅に簡素化されます。

2.4. 責務4:認証とセキュリティの「境界」

BFFのセキュリティに関する責任領域は、しばしば議論の的となりますが、非常に重要です。

このテーマに関しては、文献によって見解が分かれる側面があります。Sam Newman氏自身は、BFFが認証/認可(Auth)を実装することについて「引き裂かれている(torn)」と述べています 11。一方で、Microsoft 2 やUber 24 のアーキテクチャでは、認証処理はBFFの前段に位置するAPIゲートウェイによって処理されることが推奨されています 2。しかし、BFFが認証を処理する 23、あるいはBFFが「安全なサーバー」として機能すべき 26 という記述も見られます。

この一見矛盾する見解は、**「何を」**処理するかで整理できます。

  1. 認証 (Authentication – 彼は誰か?):
    JWT(JSON Web Token)の検証 2 やセッションの確立など、すべてのリクエストに共通する横断的な認証処理は、APIゲートウェイが担うのがベストプラクティスです 15。BFFは、この処理をAPIゲートウェイに**「オフロード」 2 されるべきであり、自身は認証済みのリクエストを前提**として動作するのが効率的です。
  2. 認可 (Authorization – 彼は何ができるか?):
    これも粒度によります。「userロールを持つユーザーは、このBFFを呼び出せる」といった粗い粒度の認可はAPIゲートウェイが適しています。しかし、「このユーザーはこの記事を編集できる」といった、よりドメインに密着した細かい粒度の認可は、BFFではなく、そのドメインを管轄するマイクロサービス(例:Articleサービス)が最終的な責任を持つべきです。
  3. BFFの真のセキュリティ責務 (セキュリティ境界):
    BFFが担うべき最も重要なセキュリティ責務は、クライアント(特にブラウザのような安全でない環境)に公開してはならない**機密情報(APIキーや秘密鍵)を「隠蔽」**することです 26。
    例えば、下流のマイクロサービスやサードパーティAPIが、独自のAPIキーを要求する場合があります。フロントエンドアプリのコード内にこのAPIキーを埋め込むことは、極めて危険です 26。BFFは、フロントエンドからのリクエストを受け取り、安全なサーバーサイド環境でこれらの秘密のAPIキーを付与し、下流のサービスへリクエストを仲介します。

結論として、BFFは認証処理そのもの(トークン検証)を積極的に行うべきではありませんが、安全でないクライアントと信頼された内部ネットワークとの間に立つ**「セキュリティ境界」**として、機密情報を仲介・隠蔽する重要な責任を担います。

第3章: 【最重要】ロジックはどこに置くべきか:BFF vs フロントエンド

BFFアーキテクチャを採用する上で、開発者が直面する最大の問いは「どのロジックを、どこに実装すべきか?」です。この責任分界点を誤ると、BFFは本来の価値を発揮できないどころか、開発の足かせにすらなり得ます。

3.1. 原則:プレゼンテーションロジックとドメインロジックの分離

ロジックの配置を決定するための大原則は、「プレゼンテーションロジック」と「ドメインロジック」を明確に分離することです 21

  • ドメインロジック (Domain Logic) / ビジネスロジック (Business Logic):
  • 定義: アプリケーションの中核的なビジネスルールそのもの 21
  • 特徴: クライアント(Web, Mobile, 管理画面)が何であれ、一貫して適用されるべきロジックです。
  • : 「注文の合計金額(税、割引を含む)を計算する」「ユーザーを新規登録する」「銀行口座の残高を更新する」 21
  • 配置場所: マイクロサービス。ドメインロジックはBFFに実装してはなりません 21
  • プレゼンテーションロジック (Presentation Logic):
  • 定義: データを特定のUI(ユーザーインターフェース)に**「どう表現するか」** 21 というロジック。
  • 特徴: クライアントごとに異なるのが普通です。
  • : 「モバイルユーザーには価格を簡潔に表示し、Webユーザーには税込み価格も併記する」「データをグラフ表示用に整形する」。
  • 配置場所: BFF 21
  • ビューロジック (View Logic):
  • 定義: UIコンポーネントの状態管理や、ユーザーイベント(クリックなど)の処理 26
  • 特徴: ユーザーとのインタラクションに直接関わります。
  • : 「ドロップダウンメニューが開いているかどうかの状態(isOpen)を管理する」「ボタンがクリックされたらBFFのAPIを呼び出す」。
  • 配置場所: フロントエンド(クライアントアプリ)。

BFFの役割は、マイクロサービスが提供する「ドメインロジック」の結果を受け取り、それをフロントエンドが扱いやすい形に変換する「プレゼンテーションロジック」に特化することです 21

3.2. Heuristic (経験則):ロジックの置き場所を見極める

原則を理解していても、実際の開発現場では「この処理はドメインロジックか? プレゼンテーションロジックか?」と悩むグレーゾーンが必ず発生します。

その際、以下の**経験則(Heuristic)**となる質問が役立ちます。

質問: 「このロジックは、他のクライアント(例:管理画面やパートナーAPI)でも全く同じように再利用される必要があるか?」

  • 答えが「Yes」の場合:
    それはドメインロジックです。そのロジックは、特定のUI(例:Webアプリ)のためだけのものではなく、ビジネスの核となるルールです。
    したがって、BFFではなく、下流のマイクロサービスに実装すべきです 11。もしBFFに実装してしまうと、将来別のクライアント(例:モバイルアプリ)が登場した際に、同じロジックをそのBFFにも重複して実装する必要が生じます 28。
  • 答えが「No」の場合:
    それはプレゼンテーションロジックです。そのロジックは、今開発している特定のUIのためだけに必要な処理です。
    したがって、BFFに実装するのが適切です。

具体例:

  • 「商品の割引率(例:30%)に基づいて割引後の価格を計算する」処理
  • 質問: この計算は管理画面でも同じルールで必要か? → Yes。
  • 結論: ドメインロジックマイクロサービス(Productサービス)が実装する。
  • 「割引後の価格を ‘30% OFF!’ という赤文字用のテキストラベルに変換する」処理
  • 質問: このテキスト表現は管理画面でも同じか? → No(管理画面は単に 30% と表示したいかもしれない)。
  • 結論: プレゼンテーションロジックBFF(Web-BFF)が実装する。
  • 「’30% OFF!’ というラベルをクリックしたら詳細モーダルを開く」処理
  • 質問: これはUIの挙動か? → Yes。
  • 結論: ビューロジックフロントエンド(Reactコンポーネント)が実装する。

3.3. 【重要テーブル】ロジック配置の責任分界点

BFF、フロントエンド、マイクロサービスの間の責任分界点を明確化するため、以下の表にまとめます。この表は、アーキテクチャ設計時の議論における共通言語として機能します。

ロジックの種別フロントエンド (例: React, Swift)BFF (Backend for Frontend) (例: Node.js, Spring)マイクロサービス (例: Go, Java)
ビュー (View) & 状態管理 (UI Rendering & State)◎ (責務) (UIコンポーネント描画、useStateでの状態管理) 26✕ (関与しない)✕ (関与しない)
データマッピング (Data Mapping)△ (BFFから受け取ったデータをViewにマッピング)◎ (責務) (マイクロサービスの汎用データをView Modelに「変換」) 21✕ (関与しない)
データ集約 (Aggregation) (Data Aggregation)✕ (アンチパターン) 4◎ (責務) (複数サービスを呼び出し、単一のレスポンスを作成) 11✕ (関与しない)
クライアント固有ロジック (Client-Specific Logic)△ (UI固有のイベントハンドリング) 26◎ (責務) (例:モバイル専用の軽量エンドポイント提供) 2✕ (関与しない)
ドメイン/ビジネスロジック (Domain/Business Logic)✕ (アンチパターン)✕ (アンチパターン) 21◎ (責務) (例:価格計算、在庫引当のビジネスルール) 11
データ永続化 (Persistence) (Data Storage)✕ (関与しない)✕ (関与しない)◎ (責務) (データベースとのやり取り) 21
認証 (Authentication) (e.g., トークン検証)✕ (処理しない)✕ (オフロードすべき) 2(API Gatewayが推奨) 2
セキュリティ (Security) (e.g., APIキーの保持)✕ (保持してはならない) 26◎ (責務) (クライアントからキーを隠蔽する) 26(BFFからのリクエストを検証する)

第4章: 回避すべきBFFアンチパターン

BFFは強力なパターンですが、その原則(特に前章のロジック分離)を誤解すると、深刻なアンチパターンに陥ります。

4.1. アンチパターン1:「ファットBFF」 – ドメインロジックの侵食

これは最も一般的で、最も危険なアンチパターンです。「ファットBFF(Fat BFF)」とは、BFFが本来の責務であるプレゼンテーションロジックの範囲を超え、マイクロサービスが持つべきドメインロジック(ビジネスロジック)を実装し始めてしまう状態を指します 4

開発者が「手っ取り早い」という理由で(あるいはマイクロサービスチームとの調整を避けるため)、BFFにビジネスロジックを追加し続けると、BFFは「ファット・コントローラー」 30 のように肥大化していきます。その結果、BFFはそれ自体がメンテナンス不能な新たなモノリスとなり、かつて解決しようとした問題(=モノリシックな汎用API)に逆戻りしてしまいます 31

この「ファットBFF」は、深刻なロジックの重複 28 を生み出します。例えば、Web-BFFに実装された「注文金額計算ロジック」は、Mobile-BFFや管理ツール(これはBFFを持たないかもしれない)でも必要になります。その結果、同じビジネスロジックが複数の場所にコピー&ペーストで再実装され、ロジックの一貫性が失われます。仕様変更時に修正漏れが発生し、深刻なバグの温床となるのです。

4.2. アンチパターン2:「アネミックBFF」 – 単なるプロキシ化

「ファットBFF」とは対極にあるのが、「アネミックBFF(Anemic BFF、貧血BFF)」アンチパターンです。これは、BFFが何の価値も付加せず、単に下流のマイクロサービスへのリクエストを1対1で横流しするだけの「プロキシ」 22 と化してしまう状態を指します。

この場合、BFFは単なる余計なネットワークホップとなり、システム全体のレイテンシ(応答時間)を無駄に増加させる 22 だけで、何のメリットも生み出しません。フロントエンドは、BFFを使っているにもかかわらず、UIを構築するためにBFFの複数のエンドポイントを呼び出す必要があり 19、BFF導入の目的であった「クライアント通信の簡素化」が達成できていません。

このアンチパターンは、BFFの目的(=エクスペリエンスの最適化、集約、変換)がチームに正しく理解されていない場合に発生します。また、GraphQLのような技術が導入されている場合にも注意が必要です 2。GraphQLはクライアントが必要なデータを宣言的に取得できるため、従来BFFがRESTで行っていた「ペイロードの削減」や「データ集約」の必要性が低下する場合があります 2。そのような状況でBFFを導入すると、アネミックBFFになりがちです。

4.3. アンチパターン3:「ロジックの重複」 – デバイス vs エクスペリエンス

BFFの原則は「ユーザーエクスペリエンスごとに1つのBFF」 22 です。これを「デバイスタイプごとに1つのBFF」と機械的に解釈すると、不要なロジックの重複が発生する可能性があります 22

例えば、iOSアプリとAndroidアプリが、機能的にもUI/UX的にも全く同じユーザーエクスペリエンスを提供しているとします。ここで「デバイスごと」というルールを厳格に適用し、「iOS-BFF」と「Android-BFF」の2つを作成すると、両方のBFFにほぼ同一のデータ集約・変換ロジックが実装されることになり、深刻な重複とメンテナンスコストの増大を招きます 22

この場合、現代的な解釈 11 としては、これらを「Mobile-BFF」という単一のBFFに統合するのが合理的です。

ただし、この点については議論があります。Sam Newman氏自身は、プラットフォーム固有の技術(例:プッシュ通知の処理方法の違いなど)が存在するため、プラットフォームごと(例:AndroidとiOSで別々)にBFFを持つことを推奨しています 6

現実的な落とし所としては、「エクスペリエンス」を第一の分離軸としつつ、プラットフォーム固有の処理(プッシュ通知、デバイスAPIとの連携など)がBFFのロジックに大きく影響する場合は、BFFをプラットフォームごとに分離する(またはBFF内部で処理を分岐する)ことを検討するのが妥当です。

4.4. アンチパターン4:「チャッティBFF」と密結合

BFFは、フロントエンドとバックエンド間の「チャッティ(おしゃべり)」な通信(=頻繁なAPI呼び出し)を減らすために導入されます 21。しかし、設計が不十分だと、今度はBFFとマイクロサービスの間が「チャッティ」になってしまうことがあります 33

「チャッティBFF」アンチパターンとは、BFFがクライアントからの1つのリクエストを処理するために、下流のマイクロサービスを(特に逐次的に)何十回も呼び出してしまう設計を指します。

この状態は、BFFとマイクロサービス間の密結合(Tight Coupling) 31 を示唆しています。BFFが、マイクロサービスのAPIを細かく呼び出し、その結果をBFF側で複雑に組み合わせている場合、BFFはマイクロサービスの実装の詳細に深く依存してしまっています。

その結果、マイクロサービスチームが内部的なリファクタリング(例:APIの統合)を行っただけで、BFFの修正が強制されることになります。これは、BFFが本来目指した「疎結合(Loose Coupling)」の利点を失わせるものです。

この問題は、BFFの集約ロジックが非効率であるか、あるいはマイクロサービス自体の粒度が細かすぎる(「Over-Microservices」アンチパターン 31)ことが原因である可能性があります。

第5章: 事例で学ぶBFFの実装:NetflixからUberまで

BFFパターンの理論を理解した上で、それが現実世界でどのように活用されているか、主要なテクノロジー企業の事例を見ていきましょう。

5.1. Netflix:チームの自律性とデバイス最適化

BFFパターンの最も有名かつ成功した導入事例は、間違いなくNetflixです 5。Netflixは、膨大な数のデバイス(スマートフォン、タブレット、Webブラウザ、スマートTV、ゲーム機など)にサービスを提供しており、そのすべてで最適なUXを実現するためにBFFを徹底的に活用しています。

彼らは、主要なプラットフォーム(例:Android, iOS, TV, Web)ごとに個別のBFFを運用しています 20

  • デバイス最適化: NetflixのBFFは、各デバイスの特性に合わせたデータオーケストレーションとフォーマット変換を行います 20。例えば、スマートTVのBFFはリッチなメタデータや高解像度の画像を要求するかもしれませんが、モバイルのBFFは通信量を抑えるために軽量なデータセットのみを取得します 20
  • チームの自律性(Autonomy): Netflixの事例で最も重要な示唆は、技術的な最適化以上に**「組織的なスケーラビリティ」にあります 20。NetflixのAndroidチームは、Androidアプリだけでなく、そのアプリが通信するAndroid-BFFの両方の開発と運用に責任を持ちます** 20

この「BFFの所有権をフロントエンドチームが持つ」という体制により、Androidチームは中央集権的なAPIチームのリリースサイクルを待つ必要がありません。彼らは、アプリとBFFを一体のものとして、自律的に、かつ迅速に機能改善と最適化を進めることができます。実際にNetflixは、このBFFのアプローチを活用し、Androidアプリが参照するバックエンドAPIを、巨大なモノリスからマイクロサービスベースのアーキテクチャへと「シームレスに移行」させることに成功しました 35

5.2. Spotify:一貫したクロスデバイス体験の実現

Spotifyもまた、多様なクライアント(Web、モバイル、デスクトップアプリ、スマートスピーカーなど)でシームレスな音楽体験を提供するためにBFFパターンを採用しています 25

Spotifyの事例が示すのは、BFFが**「一貫したブランド体験」**を技術的に支える基盤であるという点です 27。ユーザーがスマートフォンで聴いていたプレイリストを、自宅のスマートスピーカーでシームレスに再開できるような体験は、BFF層がデバイス間の特性の違いを吸収(翻訳)しているからこそ可能です。

各デバイスのUI/UXニーズに最適化されたBFFが、不要なデータを削減し、そのデバイスにとって最適な応答を返すことで 36、どのデバイスを使っても高速でスムーズな音楽体験(Spotifyのコアバリュー)が維持されます。

5.3. Uber / Airbnb:複雑なドメインのサポート

BFFは、単にデバイスの違いを吸収するだけではありません。根本的に異なる「ユーザーエクスペリエンス」を分離するためにも強力です。

  • Uber: Uberのビジネスは、「ライダー(乗客)」と「ドライバー(運転手)」という、全く異なる二種類のユーザーによって支えられています。Uberは、この二つの異なるエクスペリエンスをサポートするためにBFF(または同様のエッジレイヤーパターン)を使用しています 38。
    ライダーBFF(乗客用)は「配車リクエストの簡便さ」や「リアルタイムな車両追跡」に最適化される一方、ドライバーBFF(運転手用)は「運転免許証の認証」「収益レポート」「次の配車リクエストの受付」といった、より複雑な業務ロジックに対応する必要があります。BFFによってこれらが分離されているため、一方の(例:ドライバー認証)の複雑なロジックが、もう一方の(例:乗客の配車)のパフォーマンスや開発サイクルに影響を与えることがありません 38。
  • Airbnb: AirbnbもBFFパターンを活用しており、特にモバイルアプリの検索パフォーマンスの最適化(例:軽量なデータ転送)にその効果が現れています 34

これらの事例は、BFFが単なる「デバイスごと」の分離(Web vs Mobile)だけでなく、同じ「配車」や「宿泊」というドメイン内であっても、「ビジネスエクスペリエンスごと」(乗客 vs 運転手)にシステムを分離し、それぞれの進化を加速させるための強力なパターンであることを示しています。

第6章: BFFがもたらすビジネス価値

BFFは単なる技術的な設計パターンではなく、ビジネスの競争力に直接貢献する経営戦略的な側面を持っています。

6.1. 市場投入までの時間(Time to Market)の劇的な短縮

BFFがもたらす最大のビジネス価値は、「市場投入までの時間(Time to Market)」の劇的な短縮です 14

従来の汎用APIアプローチでは、フロントエンドチームが新機能をリリースするには、まずバックエンドチームにAPIの改修を依頼し、その実装とデプロイを「待つ」必要がありました 14。この「変更待ち」こそが、開発プロセスにおける最大のボトルネックでした。

BFFパターン(特にフロントエンドチームがBFFを所有するモデル)は、このボトルネックを根本から解消します 14。フロントエンドチームは、自分たちが必要とするAPI(データの集約や変換)を、自分たちのBFFに自ら実装できます。これにより、他チームへの依存が最小化され、フィーチャーのデリバリー速度が劇的に向上します。実際に、BFFの導入によってフィーチャーのデリバリー速度が2倍から3倍に向上したという報告もあります 14

6.2. チームの自律性(Autonomy)と開発生産性

前述のTime to Marketの短縮は、BFFがもたらす「チームの自律性(Autonomy)」の直接的な結果です。

BFFは、フロントエンドチームが自分たちの開発サイクルを自分たちでコントロールすることを可能にします 14。これは、Netflixの事例 20 で見られるように、チームがBFFのオーナーシップを持つことで実現されます 2

  • 調整コストの削減: チーム間の調整会議や仕様合意のプロセスが減り、開発者はコーディングにより多くの時間を割くことができます 14
  • 技術的負債の局所化: あるチームの技術的負債(例:Mobile-BFFの古いライブラリ)が、他のチーム(例:Webチーム)に影響を与えることがありません。負債がBFF単位で局所化されるため、メンテナンスや将来的なサービス移行が容易になります 14

BFFは、プロダクトチームが並列で、かつ疎結合に動くことを可能にする組織アーキテクチャであり、アジャイル開発やDevOpsの原則(”You build it, you run it”)を技術的に具現化するものです 11。BFFの真の価値は、技術的な最適化以上に、この「組織のスケーラビリティ」にあると言えます。

6.3. UXの最適化とパフォーマンス向上

BFFは、UI/UXのニーズから逆算してAPIを設計するパターンです 14。これにより、クライアント(特にモバイル)のパフォーマンスが大幅に向上し、UXが最適化されます。

  • ロード時間の短縮: BFFがサーバーサイドで複数のAPI呼び出しを集約するため、クライアントが行うネットワークの往復回数が激減します。これにより、アプリのロード時間が30%から60%削減されたという報告もあります 14
  • 応答性の向上: モバイルネットワーク 14 のような制約のある環境でも、BFFがペイロードを軽量化し、不要なデータを送信しないため、アプリの応答性(レスポンス)が向上します。

高速で応答性の高いUIは、ユーザーの離脱率を下げ、エンゲージメントやコンバージョン率を高めることが知られています。BFFによるパフォーマンス改善は、このように直接的なビジネス成果に貢献します。

第7章: BFFの未来:GraphQL、サーバーレス、そしてgRPC

BFFパターンは、2015年の提唱から進化を続けています。ここでは、BFFの未来を形作る3つの主要な技術トレンドについて考察します。

7.1. GraphQLはBFFの代替か、実装か?

GraphQLは、クライアントが必要なデータ構造をクエリとして定義できるため、BFFが解決しようとした「ワンサイズ・フィッツ・オール」APIの問題(過剰なデータ取得=Over-fetching)を解決する技術として登場しました 1

では、GraphQLはBFFを不要にする「代替」技術なのでしょうか?

この問いに対し、ThoughtWorksは明確な見解を示しています 40。彼らは、GraphQLをBFFの**「代替」としてではなく、BFFの「実装」として利用する**ことを推奨しています 40

つまり、BFFがクライアントに提供するインターフェースが、従来のRESTエンドポイントではなく、GraphQLエンドポイントになるというアプローチです。このBFF(GraphQLサーバーとして機能)が、クライアントからのGraphQLクエリを受け取り、そのリゾルバ(Resolver) 40 が下流のマイクロサービス(これらはRESTやgRPCで構わない)を呼び出してデータを集約・変換します 41

このアプローチは、BFFの内部実装を簡素化する 40 と同時に、フロントエンドにGraphQLの柔軟性(必要なデータだけを取得できる)を提供します。ただし、ThoughtWorksは、GraphQLをBFFとマイクロサービス間のサーバー間プロトコルとして安易に使用することには警告しています 40

結論: GraphQLはBFFを不要にするものではなく、BFFをより強力かつ柔軟に実装するためのツール 41 と言えます。ただし、組織がすでにApollo Federation 40 のような「フェデレーテッド・グラフ」 42 を全面的に採用している場合、BFFが提供する価値(集約)はすでにGraphQLレイヤーで実現されているため、追加のBFFサービスが不要になるケースもあります 2

7.2. サーバーレスBFF:AWS Lambda / Google Cloud Functions

BFFの「小さく、目的に特化している」 11 という特性は、サーバーレス・コンピューティングと非常に相性が良いです。

AWS Lambda 43 やGoogle Cloud Functions 45 のようなFaaS(Function as a Service)プラットフォームは、BFFの実装基盤として理想的です 2

BFFのロジック(データ集約・変換)は、通常、ステートレスで短命な処理です。これは、サーバーレスの「必要な時だけコードが実行され、インフラ管理が不要」 43 という利点と完全に一致します。

サーバーレスは、BFFパターンの潜在的な欠点である「BFFスプロール(BFFの乱立)」 42 のコスト懸念に対する強力な回答となります。

例えば、20種類のクライアント体験のために20個のBFFをデプロイする場合、従来のVMや常時起動のコンテナでは、それらのアイドルコストと運用負荷が問題になります。しかし、サーバーレスであれば、各BFFはリクエストがあった時にのみ実行(課金)されるため、運用コストを最小限に抑えながら、BFFパターンの利点(チームの自律性)を最大限に享受できます 47。

7.3. BFFとマイクロサービス間の通信:gRPCの役割

BFFの未来を考える上で、BFFが「どのように」通信するかも重要です。

gRPCは、Googleが開発した高性能なRPC(Remote Procedure Call)フレームワークであり、HTTP/2プロトコルとProtobuf(高効率なバイナリシリアライズ形式)を使用します 48

gRPCは、その特性上、ブラウザが直接通信するには適していません。そのため、フロントエンドとBFFの間の通信には、引き続きREST 49 やGraphQL 41 が使われるのが一般的です。

gRPCの真価が発揮されるのは、BFFと下流マイクロサービスとの間の内部通信です 50。BFFが複数のマイクロサービスからデータを高速に集約する必要がある場合、JSONベースのREST通信よりも、バイナリベースのgRPC通信の方が、低遅延かつ高スループット(高性能)です 48

ここで、BFFパターンの現代的な進化形を描くことができます:

  1. Frontend -> BFF: クライアント(Web/Mobile)は GraphQL を使い、必要なデータをBFFに要求する 40
  2. BFF: BFFは AWS Lambda 47 などのサーバーレス環境で動作し、インフラコストを最適化する。
  3. BFF -> Microservices: BFFは、下流のマイクロサービス群と gRPC 50 を用いて高効率・低遅延な同期通信を行い、データを高速に集約する。

この構成は、各レイヤー(クライアント、BFF、サービス間)の通信において、それぞれ最適な技術を組み合わせた、BFFパターンの強力な未来像の一つと言えるでしょう。

第8章: 結論:BFFパターン導入の勘所

本レポートでは、BFF(Backend for Frontend)パターンの責任領域、歴史、ロジック分離、アンチパターン、先進事例、そして未来のトレンドについて、国外の文献を基に包括的に解説してきました。最後に、BFFパターンの導入を成功させるための勘所をまとめます。

8.1. BFFは技術的な銀の弾丸ではない

BFFは多くの問題を解決する強力なパターンですが、「銀の弾丸(Silver Bullet)」ではありません 14。BFFの導入は、新たなレイヤーを追加することを意味し、それは管理すべきコンポーネントの増加と、ある程度のコードの重複(例:Mobile-BFFとWeb-BFFの類似ロジック)を許容するという「トレードオフ」 2 を伴います。

BFFの導入を検討すべきでないケースも明確に存在します。例えば、

  • クライアントインターフェースが1種類しかない場合 2
  • 複数のインターフェースが存在するが、それらの要求(必要なデータやフォーマット)がほぼ同じである場合 2

これらの場合にBFFを導入すると、それは「アネミックBFF」(第4.2章)となり、単なるコスト増にしかなりません。

8.2. 成功の鍵は「組織」と「自律性」

本レポートで分析したSam Newman氏の提唱 2 や、Netflixの先進的な事例 20 が一貫して示す最も重要な結論は、BFFパターンの成功は、技術選定(例:RESTかGraphQLか)よりも、**「組織」**のあり方に懸かっているという点です。

BFFの最大の価値は、「フロントエンドチームが、自らのクライアントのためのBFFのオーナーシップを持つ」 14 ことで解放される、「チームの自律性(Autonomy)」 14 と、それによってもたらされる**「開発速度(Time to Market)」** 14 の向上にあります。

BFFは、単なる技術アーキテクチャである以上に、アジャイルな開発体制を支える「組織アーキテクチャ」なのです。したがって、BFFの導入は、技術部門だけの決定ではなく、関係するチーム(フロントエンド、バックエンド、プロダクト管理)間での組織的な合意形成 14 を必要とします。

8.3. 導入の第一歩

BFFの導入に際しては、全社一斉の導入を目指すのではなく、まずは小規模なパイロットプロジェクトから始めることが推奨されます 14

例えば、最も要求の違いが明確な「モバイルチーム」を最初の対象として選び、彼らのために「Mobile-BFF」を試験的に導入します。そして、導入前後で「パフォーマンス(ロード時間)」や「開発速度(フィーチャーのリリース頻度)」といったKPIを具体的に測定します 14

そこで得られた成功体験と技術的知見を基に、他のチーム(例:Webチーム)への横展開を検討します。最終的に、アーキテクチャは、チームがユーザーへ価値をより迅速に届ける 14 ための手段でしかありません。BFFがその目的を達成する助けになるのであれば、それは導入の投資に見合う価値があると言えるでしょう。

引用文献

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  53. https://zenn.dev/ficilcom/articles/bff-design-pattern
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