時計遺伝子とは-藍藻から哺乳類まで存在する概日リズム-

夜になれば眠くなり、朝になれば目が覚める。私たちは長い時間をかけて地球の自転による昼夜のリズムに適応した結果、自発的に生体リズムを生み出す「体内時計」を獲得しました。体内時計は私たちの体温、血圧、ホルモン分泌、睡眠などの生体リズムを調整する重要な役割を担います。

本記事では私たちの身体の体内時計のリズムを遺伝子レベルで制御する時計遺伝子について解説いたします。

時計遺伝子、概日リズムについて興味がある方はぜひご一読ください。

目次

そもそも概日リズムとは

 私たち生物はある一定のリズムの基に生活しています。起きて、活動し、眠るという周期を繰り返し、日々の生物学的な消費行動を繰り返しています。

 このリズムが概ね24時間(1日)周期であることから、概日リズムと言います。

 私たち生物の体内時計は全ての細胞に備わっているものですが、哺乳類の概日リズムの中枢は脳の視交叉上核にあります。視交叉上核が指示を出すことで、体中の細胞の体内時計が同調し、生体リズムを生み出すのです。

では、視交叉上核はどのようにしてリズムを作り出しているのでしょうか?そこには「時計遺伝子」が関係しています。

哺乳類の体内時計の中枢は視交叉上核と考えられていますが、鳥類や魚類はそうではなく松果体や眼がより重要のようです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika1984/3/3/3_3_103/_pdf/-char/ja

時計遺伝子とは

 体内時計のリズムを作り出す働きがある遺伝子群を「時計遺伝子」と言います。中でも、私たち哺乳類の体内時計で中心的な役割を担っているのがClockBmal1PerCryです。時計遺伝子の多くは「転写因子」をコードしています。転写因子はDNAに特異的に結合して、遺伝子の発現を促進したり、抑制したりします。

つまり、特定の遺伝子が転写因子という生物学的な仕組みを用いて概日リズムを形成しているというわけです。

概日リズムが末梢の遺伝子レベルで調整されているというのは本当に驚きですね。ここからは体内時計の分子メカニズムについて詳しく見ていきましょう。

体内時計の分子メカニズム

 体内時計の原理は長らく不明でしたが、ショウジョウバエで時計タンパク質がフィードバックループを通して時計遺伝子の転写を約24時間周期で増減させる結果リズムが作り出されることが解明されました。

 この体内時計を形成する分子メカニズムは多くの生物で共通しており、現在体内時計の基本原理として受け入れられています。アメリカの研究者ジェフリー・ホール、マイケル・ロスバッシュ、マイケル・ヤングの3人は、この功績を称えられ2017年のノーベル賞を受賞しました。

 哺乳類の体内時計の分子メカニズムをもう少し詳しく見ていきましょう。

哺乳類の体内時計の分子メカニズム

時計遺伝子clockBmal1から生成されたタンパク質はCLOCK-BMAL1複合体を形成し、PerCry遺伝子の転写を活性化します。翻訳されたタンパク質はPER-CRY複合体を形成します。PER-CRYが細胞質で一定量に達すると細胞核へ入り込み、今度はCLOCK-BMAL1の転写活性化を抑制します。やがてPER-CRYが分解されて少なくなると、CLOCK-BMAL1を抑制できなくなり、また転写が始まります。この転写翻訳フィードバックループの周期が約24時間となっているため、私たちは昼と夜に合わせた生体リズムを作り出すことができるのです。生体リズムの中心となっていることからコアループと呼ばれ、コアループを補助するサブループの存在も徐々に明らかになっています。

時計遺伝子と進化

 哺乳類だけでなく、体内時計はほかの動物、植物、菌類、藻類などほとんどの生物に存在しています。そして、多少の違いはあれど、時計遺伝子が互いに発現を促進、抑制する基本原理は哺乳類、鳥類、昆虫で共通しています。一方で、植物とは共通性は見られません。このことから、種によっては体内時計を独立に進化して手に入れたことが推察されます。それほどまでに、体内時計は生命に必要不可欠な仕組みなのです。

 では、体内時計は一体いつから存在していたのでしょうか?その答えの鍵はシアノバクテリア(藍藻)にあります。シアノバクテリアは光合成をする最古の微生物で、およそ30億年前から地球に生息していると言われています。私たちの体内時計とは違い、シアノバクテリアの概日リズムはATP分解によって発生します。そして、驚くべきことに、時計タンパク質とATPを試験管で混ぜるだけで、概日リズムを再現できるのです。なぜ最古の光合成微生物が体内時計を持っているのかはまだ解明されていません。しかし、シアノバクテリアの体内時計が研究されることで、生体リズムの分子メカニズムの理解が進むことが期待されています。

シアノバクテリアの概日リズムを形成する分子メカニズムは多くの研究者の興味関心を惹く領域です。この生物時計の遺伝子を最初に発見したのが名古屋大学の近藤先生で、それもあって日本は生物時計の分野を世界的にリードする立場でもあるようです。
http://clock.bio.nagoya-u.ac.jp/fromboss.htm
http://www2.riken.jp/theobio/work/project11.html
https://www.brh.co.jp/publication/journal/037/research_21

まとめ

 地球の自転とともに変化する環境に適応するため、生物は概日リズムを刻む体内時計を獲得しました。概日リズムの形成には時計遺伝子(Clock、Bmal1、Per、Cryなど)が関わっており、Clock、Bmal1は転写を促進、Per、Cryは転写を抑制する役割があります。時計遺伝子が互いに働きかけることで、約24時間周期の転写翻訳フィードバックループが形成されます。メカニズムは異なれど、概日リズムは最古の光合成微生物シアノバクテリアにも備わっており、体内時計が生命に重要な機構であることが伺えます。

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