p62(SQSTM1) -たんぱく質分解の名バイプレーヤーについて詳細に解説-

私たちの細胞内には日々不要なタンパク質が生まれています。それらを正確に識別し、速やかに処理することで細胞の健康を維持する仕組みが、「p62」と呼ばれる分子です。p62はオートファジーやユビキチン・プロテアソーム経路という細胞の重要なたんぱく質分解経路を巧みに操り、疾患予防や創薬のカギを握る存在として近年注目されています。本記事では、この名脇役「p62」の最新知見を詳しく解説します。

p62(SQSTM1)の役割について

目次

1. p62とは何か?

p62(ピー62、SQSTM1遺伝子産物)は、細胞内でユビキチン結合タンパク質の分解に関与する多機能なアダプタータンパク質です (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。約440アミノ酸からなり、細胞質から核まで様々な場所に存在しています。p62は複数のドメイン(領域)を持ち、それぞれが異なるパートナーと相互作用することで多彩な機能を発揮します (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。例えばN末端にはPB1ドメイン(自己や他のPB1タンパク質とのオリゴマー化に必要)、中央付近にZZドメイン(特定のタンパク質分解シグナルを認識)やTRAF6結合領域(TB)(NF-κB経路の調節に関与)を持ち、LC3相互作用域(LIR)(後述のオートファジーで重要)とKeap1結合域(KIR)(細胞の抗酸化応答に関与)を含み、C末端にはユビキチン結合のUBAドメイン(分解すべきユビキチン化タンパク質の認識)があります (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。このようなドメイン構造により、p62は細胞内のタンパク質分解経路やシグナル伝達経路のハブ(中心)として機能します。実際、p62は選択的オートファジー受容体として発見されましたが、その後ユビキチン-プロテアソーム系や細胞内シグナル制御にも関与することが明らかになりました (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。つまりp62は、不要になったタンパク質を認識して細胞の「ごみ処理場」に運ぶ運搬役であり、細胞の品質管理(プロテオスタシス)維持に重要な役割を果たしています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。

(Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) 図1: p62タンパク質のドメイン構造(A)と多面的な機能(B)の模式図。Aではp62のN末端からC末端まで、PB1・ZZ・TB・LIR・KIR・UBAといった主要ドメインが色分けで示されています。それぞれのドメインはオリゴマー形成(PB1) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)、タンパク質のユビキチン化やNF-κB活性化(TB) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)、オートファジーにおけるLC3結合(LIR)や抗酸化シグナル制御(KIR)、ユビキチン化タンパク質の結合(UBA) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)などに関与します。Bはp62が関与する細胞内プロセスの例を示した概略図で、中央にp62、周囲に選択的オートファジーの種類(凝集体の分解=aggrephagy、ミトコンドリアの分解=mitophagy、細菌の除去=xenophagy、脂質滴の分解=lipophagy等)やプロテアソームによる分解(Proteaphagy/UPS)、アポトーシス調節(Programmed Cell Death)、シグナル伝達経路(例:Nrf2経路、mTOR経路)などが配置されています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。右側にはアルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭葉変性症(FTLD)などの疾患で観察されるp62異常の例が簡潔に記載されています。例えばADやHD(ハンチントン病)では低下したp62発現や後期での蓄積、PDやALSではp62のドメイン変異による機能不全が病態に関与すると示唆されています。

2. p62とオートファジー

オートファジー(自食作用)は、不要な細胞内成分をリソソーム(細胞内の分解小器官)で分解する仕組みです。p62は「選択的オートファジー」の受容体として働き、特定のターゲットをオートファジーに取り込ませる役割を担います (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。具体的には、p62はC末端のUBAドメインでユビキチンが付加された不要タンパク質を結合し、同時にLIRモチーフでオートファゴソーム膜上のLC3タンパク質と結合します (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。この二重の結合により、p62は「タグ付けされたタンパク質(ユビキチン化タンパク質)」を新生オートファゴソームへ直接運び込み、最終的にリソソームでの分解へと橋渡しします (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。この過程によって、変性したり凝集したタンパク質の除去が促進されます。実際、細胞内で誤って折りたたまれたタンパク質が凝集するとp62がそれらに結合して自らも集積し、p62小体と呼ばれる凝集体を形成します (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。p62小体はユビキチンが多数連なった鎖(特にK63結合型ユビキチン鎖)を含むタンパク質凝集塊で、オートファジーによって選択的に分解されることから**凝集体オートファジー(aggrephagy)**と呼ばれます (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。このようにp62は標的をまとめてオートファゴソームへ取り込みやすい形に“凝集”させる役割も果たしています。なお、オートファジー機能が低下するとp62自身が分解されず細胞内に蓄積するため、細胞生物学の実験ではp62レベルはオートファジー活性の指標としても利用されます (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。p62は最初に同定された選択的オートファジー受容体であり、当初は主にタンパク質凝集体の除去に注目されましたが、近年ではミトコンドリア除去(ミトファジー)や脂肪滴の分解(リポファジー)など他の選択的オートファジーにも関与することが分かっています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。つまりp62は細胞の不要物質を選別してオートファジーに引き渡す「タグ認識係」として、細胞の自浄作用を支えているのです。

3. p62とユビキチン・プロテアソーム系

細胞内の不要タンパク質を処理するもう一つの主要経路がユビキチン・プロテアソーム系です。ここでは標的タンパク質にユビキチンという小タンパク質が目印として付加され、26Sプロテアソームという巨大な分解酵素複合体によって標的がアミノ酸レベルまで分解されます。p62はオートファジー受容体であると同時に、このユビキチン・プロテアソーム系とも機能的に連携しています。具体的には、p62はユビキチン化されたタンパク質をプロテアソームへ直接届けるシャトル(運搬)タンパク質としても働くことができます (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。N末端PB1ドメインによるオリゴマー形成能などを介して、複数のユビキチン化タンパク質を凝集させプロテアソームに提示し、効率的な分解を促進していると考えられています ( p62- and ubiquitin-dependent stress-induced autophagy of the mammalian 26S proteasome – PMC )。興味深いことに、p62は状況に応じて標的をプロテアソームに渡す役割だけでなく、逆にプロテアソームそのものを標的としてオートファジー経路で処理する役割も持つことが報告されています ( p62- and ubiquitin-dependent stress-induced autophagy of the mammalian 26S proteasome – PMC )。例えば、プロテアソームがストレスで損傷を受け機能不全に陥った場合、p62がそのプロテアソームに結合してオートファジーによる分解へ導くことで、細胞内のタンパク質分解装置全体の品質管理に寄与します ( p62- and ubiquitin-dependent stress-induced autophagy of the mammalian 26S proteasome – PMC )。このようにp62はユビキチン依存的分解経路(プロテアソーム)とオートファジー経路の双方をつなぐ結節点として働き、状況に応じて両者を補完しあうことで細胞内のタンパク質恒常性を維持しています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。細胞がストレスに晒された際にはプロテアソーム機能が低下しオートファジーが活性化することがありますが、p62はそのようなストレス下で両経路の協調的な制御に関与するキープレーヤーといえます。

4. p62と疾患の関連

神経変性疾患におけるp62

アルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)などの神経変性疾患の患者脳では、異常タンパク質の蓄積とともにp62の発現異常や凝集が観察されます。ADの病理では、神経細胞内に蓄積するタウタンパク質の塊(神経原線維変化)にp62が共局在していることが報告されています (Emerging role of p62/sequestosome-1 in the pathogenesis of …)。AD患者の脳(前頭皮質)やモデルマウスではp62の発現低下が見られますが、その残存するp62はタウ凝集体に結合しており、タウ分解に関与していると考えられます (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。p62の不足はタウクリアランス(除去)の低下を招くほか、p62がKeap1を介して調節するNrf2経路(抗酸化遺伝子の発現制御)も低下させるため、酸化ストレス耐性の低下によって神経細胞死が進行する一因になると示唆されています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。一方、PDではレビー小体と呼ばれる異常タンパク質凝集体(主成分はαシヌクレイン)内にp62が蓄積していることが知られています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。PDの一部の遺伝性型では、ミトコンドリアを除去するPINK1/Parkin経路の異常によりp62を介したミトファジーが阻害され、不要なミトコンドリアの蓄積と神経変性につながることが報告されています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。また別の型では、変異したLRRK2キナーゼがp62との相互作用やリン酸化調節を乱すことでp62によるKeap1の抑制がうまく働かず、Nrf2経路が抑制されてしまうことも示されています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。このようにp62機能の破綻はPDにおけるミトコンドリア品質管理不全や酸化ストレス耐性低下と関連しうるのです。筋萎縮性側索硬化症(ALS)でも、運動ニューロン内にユビキチンとp62陽性の封入体(異常凝集体)が蓄積する所見があり、患者の脊髄ではp62タンパク質の顕著な増加が見られます (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。家族性ALSの一部ではSQSTM1遺伝子(p62)に変異が認められ、UBAドメイン変異ではユビキチン化タンパク質結合能の低下、LIRドメイン変異ではLC3結合低下を招き、選択的オートファジーによる不要物除去が損なわれることが分かっています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。さらにKIRドメインの変異によりKeap1との結合が阻害されNrf2経路が不活性化してしまうケースも報告されており、これらはいずれも細胞内の老廃物クリアランスや抗酸化応答の低下を通じてALS病態に寄与しうると考えられています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。このように、神経変性疾患ではp62の発現量や機能の変化が病的タンパク質の蓄積や細胞ストレス応答に影響を与えるため、p62は病理所見上のマーカーであると同時に病態進行に関与する因子として研究が進められています。

がんにおけるp62

p62の異常はがんとの関連でも広く報告されています。正常な細胞では不要タンパク質を除去することで細胞を保護するp62ですが、がん細胞ではしばしば過剰に発現・蓄積しており、逆に腫瘍の生存や進行を助長する場合があります (High expression of p62/SQSTM1 predicts shorter survival for patients with pancreatic cancer | BMC Cancer | Full Text)。例えば膵臓がんなど多くの腫瘍でp62タンパク質の蓄積が観察され、マウスモデル実験ではp62の蓄積がNF-κBやNrf2経路を過剰に活性化し腫瘍形成を加速することが示されています (High expression of p62/SQSTM1 predicts shorter survival for patients with pancreatic cancer | BMC Cancer | Full Text) (High expression of p62/SQSTM1 predicts shorter survival for patients with pancreatic cancer | BMC Cancer | Full Text)。p62はがん細胞内でNF-κB経路(炎症反応や細胞増殖を促進)やmTORC1経路(栄養応答による成長シグナル)、Nrf2経路(酸化ストレス防御)などを活性化しうるため (High expression of p62/SQSTM1 predicts shorter survival for patients with pancreatic cancer | BMC Cancer | Full Text)、その過剰な活性化は腫瘍細胞の増殖優位性や治療抵抗性につながります (Frontiers | Activation of p62/SQSTM1–Keap1–Nuclear Factor Erythroid 2-Related Factor 2 Pathway in Cancer)。一方でオートファジーが機能不全に陥ったがん細胞では、p62の蓄積そのものが細胞に毒性を及ぼすこともあり、状況によってp62の影響は両刃の剣のように働きます (p62/SQSTM1—Dr. Jekyll and Mr. Hyde that prevents oxidative stress …) (Frontiers | Activation of p62/SQSTM1–Keap1–Nuclear Factor Erythroid 2-Related Factor 2 Pathway in Cancer)。臨床的には、腫瘍組織中のp62発現量が高いほど予後不良であるとの報告もあります。実際、膵臓がん患者の解析では、腫瘍細胞内のp62発現が高い群は低い群に比べて生存期間中央値が著しく短いことが示されました(29ヶ月 vs 7ヶ月) (High expression of p62/SQSTM1 predicts shorter survival for patients with pancreatic cancer | BMC Cancer | Full Text)。以上のようにp62はがん抑制と促進の双方の側面を持ちますが、多くのがんにおいてはp62の蓄積が腫瘍の悪性化に寄与する例が多いため、がん研究の分野ではp62を標的とした治療法の開発が注目されています (Frontiers | Activation of p62/SQSTM1–Keap1–Nuclear Factor Erythroid 2-Related Factor 2 Pathway in Cancer)。

炎症性疾患との関連

p62は炎症反応の制御因子としても重要です。前述の通りp62はTRAF6を介したNF-κB経路の活性化に関与し炎症性サイトカインの産生に影響を与えるほか (NFkB and p62 Both Activate and Regulate Inflammation: Novus Biologicals)、Keap1-Nrf2経路を介して酸化ストレス応答や炎症を調節します (NFkB and p62 Both Activate and Regulate Inflammation: Novus Biologicals)。さらに近年、p62がインフラマソーム(炎症性タンパク複合体)の負の調整因子として働き、過剰な炎症を抑制する役割も持つことが報告されています ( The Pathways Underlying the Multiple Roles of p62 in Inflammation and Cancer – PMC ) (NFkB and p62 Both Activate and Regulate Inflammation: Novus Biologicals)。このような広範な炎症制御機能により、p62の異常は様々な慢性炎症性疾患と関連付けられています。例えば自己免疫疾患である関節リウマチや炎症性腸疾患では、組織でのオートファジー活性と炎症度合いに相関がみられ、p62を含む選択的オートファジー経路の異常が病態に関与すると考えられています (Association between autophagy and inflammation in patients with …)。実際、関節リウマチ患者では滑膜組織でオートファジーが亢進しp62の分解が促進されているとの報告があり、オートファジーと炎症のクロストーク(相互作用)においてp62が一役買っている可能性があります (Association between autophagy and inflammation in patients with …) (Association between autophagy and inflammation in patients with …)。さらに、近年の総説ではp62が感染症から非感染性炎症まで幅広い炎症性疾患の治療標的になり得ることが指摘されています (SQSTM1 is a therapeutic target for infection and sterile inflammation – PubMed)。具体的には、リウマチや炎症性腸疾患、膵炎、喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、動脈硬化症など、多くの炎症関連疾患においてp62経路の調節が治療上有望と考えられているのです (SQSTM1 is a therapeutic target for infection and sterile inflammation – PubMed)。このようにp62は細胞内の炎症誘導・抑制機構双方に関与するため、そのバランスの乱れが慢性炎症の発生や持続に影響しうる重要分子と位置付けられています。

5. 創薬研究とp62

細胞の品質管理とシグナル伝達の要であるp62は、創薬の観点からも注目されています。p62を標的としてその機能を調節することで、上述した様々な疾患の治療につなげようとする試みが進んでいます (Frontiers | Activation of p62/SQSTM1–Keap1–Nuclear Factor Erythroid 2-Related Factor 2 Pathway in Cancer) ( The Pathways Underlying the Multiple Roles of p62 in Inflammation and Cancer – PMC )。がん領域では、p62の過剰な働きを抑制することで腫瘍細胞の生存優位性を断つアプローチが考えられます。例えば、p62が持つドメインの一つを阻害する低分子化合物(p62-ZZドメイン阻害剤など)が開発され、がん細胞での効果を検証する前臨床研究が報告されています。実際、複数の研究でp62遺伝子を欠損させたり阻害したマウスでは腫瘍の増殖が抑制されたり抗がん剤に対する感受性が高まることが示唆されており (Frontiers | Activation of p62/SQSTM1–Keap1–Nuclear Factor Erythroid 2-Related Factor 2 Pathway in Cancer) (High expression of p62/SQSTM1 predicts shorter survival for patients with pancreatic cancer | BMC Cancer | Full Text)、p62経路の阻害は抗がん治療を強化する戦略の一つとなり得ます。一方、神経変性疾患などでは逆にp62の機能低下が病態を悪化させる例があるため、p62を増強する方向のアプローチも検討されています。例えばADモデルマウスにおいて脳内p62発現を人為的に増やすと、アミロイドβの蓄積減少や認知機能の改善が見られたとの報告もあり(※後に撤回された研究もありますが)、p62を介したオートファジー促進が治療に繋がる可能性が示唆されています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。さらに炎症性疾患では、ステロイドなどの抗炎症薬がp62経路を活性化して抗炎症作用を発揮するとの知見もあり (The autophagy receptor SQSTM1/p62 mediates anti-inflammatory …)、既存薬の作用機序解明からp62を標的とした新たな抗炎症薬開発へのヒントが得られています。現在までにp62を直接標的とした治療薬は実用化されていませんが、p62の上流下流経路を含めた創薬研究は精力的に行われており (SQSTM1 is a therapeutic target for infection and sterile inflammation – PubMed)、将来的にはp62の活性を人為的に「スイッチ」して疾患を治療する新規療法が登場することが期待されます。

6. 最新の研究動向

p62に関する研究は近年さらに活発化しており、新しい知見が続々と報告されています。その一つが液-液相分離と呼ばれる現象に関するものです。従来、細胞内のタンパク質凝集体は不溶性の固まりと考えられていましたが、p62がユビキチン鎖を介して形成するp62小体は、実は液滴のように動的で可塑性のある構造であることがわかってきました (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。ユビキチン鎖が引き金となってp62が凝集し、液体様の微小な区画を細胞質中に作り出すことで、効果的に標的を濃縮しオートファジー膜へ引き渡しているのです (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。また、p62分子同士がPB1ドメインを介して集合しらせん状のフィラメント(繊維)を形成することも電子顕微鏡構造解析によって明らかにされました (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。このらせんフィラメント構造はオートファゴソームへの積荷取り込みを促進する足場として機能することが示され、p62のオリゴマー形成とオートファジー活性の関係を分子レベルで裏付ける成果となっています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。さらに、p62の機能はリン酸化やユビキチン化といった翻訳後修飾によって精巧に制御されることが分かってきました (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。例えばp62のUBAドメインの特定部位がリン酸化されるとユビキチン結合能が増強し選択的オートファジー受容体としての働きが高まることが報告されています (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)。他にもストレス下でのp62の細胞内局在変化(核内への移行や核小体への蓄積) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)、さらには細胞からの積極的分泌が起こりうることも最近示唆されており (SQSTM1 is a therapeutic target for infection and sterile inflammation – PubMed)、p62の機能範囲は細胞内に留まらず広がりを見せています。これら最新の知見は、p62が単なる「ごみ収集タンパク質」ではなく、細胞内秩序を維持する動的ネットワークの中核であることを改めて示しています。今後もp62研究の進展により、老化や生活習慣病から癌や神経難病に至るまで、幅広い疾患メカニズムの解明とそれに基づく新たな治療戦略の開発が期待されています。

参考文献:

  1. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Kumar et al., Front. Cell Dev. Biol. (2022) – 「選択的オートファジー受容体p62/SQSTM1のストレスおよび老化における中心的役割」
  2. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Lapierre et al., Front. Cell Dev. Biol. (2022) – p62はユビキチン化タンパク質をプロテアソームまたはオートファゴソームへ誘導し、細胞の主要な分解経路をつなぐアダプターであると解説
  3. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Lin et al., FEBS J. (2013) 他 – p62の各ドメイン(PB1, ZZ, TB, LIR, KIR, UBA)の機能に関するレビュー
  4. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Bjorkoy et al., J. Cell Biol. (2005); Pankiv et al., J. Biol. Chem. (2007) – p62がLC3と結合しユビキチン化タンパク質をオートファゴソームに運ぶ選択的オートファジー機構を解明
  5. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Zaffagnini et al., Mol. Cell (2018) – ユビキチン鎖の種類によるp62凝集体形成とaggrephagy誘導の違いを報告
  6. ( p62- and ubiquitin-dependent stress-induced autophagy of the mammalian 26S proteasome – PMC )Bar-Nun et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2016) – ストレス下でp62がプロテアソームをオートファジー標的として認識し分解を促す仕組みを報告
  7. (Emerging role of p62/sequestosome-1 in the pathogenesis of …) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Salminen et al., Prog. Neurobiol. (2012) – アルツハイマー病患者脳でp62発現低下と神経原線維変化への共局在を報告
  8. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging) (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Geisler et al., Nat. Cell Biol. (2010); Park et al., Nat. Neurosci. (2016) – パーキンソン病モデルでのp62を介したミトファジー異常やNrf2経路阻害の知見
  9. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Goode et al., Hum. Mol. Genet. (2016) 他 – ALS患者のp62遺伝子変異(UBA, LIR, KIRドメイン)による選択的オートファジー不全と病因の関連を示唆
  10. (High expression of p62/SQSTM1 predicts shorter survival for patients with pancreatic cancer | BMC Cancer | Full Text)Komatsu et al., Front. Oncol. (2018) – 自家食作用障害によるp62蓄積がNrf2経路を介して前がん細胞の腫瘍化を促進することを報告
  11. (High expression of p62/SQSTM1 predicts shorter survival for patients with pancreatic cancer | BMC Cancer | Full Text)Liu et al., BMC Cancer (2022) – 膵臓がん患者において腫瘍中のp62高発現は生存期間の短縮と相関することを報告
  12. (NFkB and p62 Both Activate and Regulate Inflammation: Novus Biologicals) (NFkB and p62 Both Activate and Regulate Inflammation: Novus Biologicals)Duran et al., Mol. Cell (2008); Zhong et al., Nat. Commun. (2016) – p62がRAS変異による炎症・腫瘍形成をNF-κB経路を通じて促進すること、およびNF-κBがp62介在のミトファジーで過剰な炎症を抑制するフィードバック機構を報告
  13. (SQSTM1 is a therapeutic target for infection and sterile inflammation – PubMed)Tang et al., Cytokine (2023) – p62の細胞外分泌や炎症制御機能に着目し、リウマチや炎症性腸疾患など多くの炎症疾患での治療標的になり得ると総括したレビュー
  14. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Jakobi et al., Science (2020) – p62のPB1ドメインによるヘリカルファイバー構造を解明し、それがオートファジーにおける基質取り込みを促進することを示した研究
  15. (Frontiers | Selective Autophagy Receptor p62/SQSTM1, a Pivotal Player in Stress and Aging)Sun et al., Mol. Cell (2018) – ユビキチン鎖により誘発されるp62の液-液相分離現象と、p62小体の動的性質を明らかにした研究
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